雑誌やテレビ、ネットで情報を収集する悲劇
最近はそれほどでもありませんが、以前は私の勤務先にも雑誌を握りしめ「この雑誌に記載されている有料老人ホームのことを詳しく教えてほしい」という相談者が、かなり来ました。そのような相談者の多くは、詳しくホームの説明を受け、さらに他のホームとの比較を説明され、ホームの見学を完了するころには、それまで握りしめていた雑誌を放り投げて他のホームへの入居を検討し始めるパターンがほとんどです。それくらい、雑誌の情報は当てにならないし、リアルな世界を知ってしまうと、一気に色あせてしまうものなのです。
雑誌やテレビ、インターネットなどは、その活用方法さえ間違えなければ、非常に効果的な情報ツールです。しかし、活用する側の人に、一定レベルの知識や経験が無いと誤解や勘違いが生まれ、結果として不幸になってしまいます。なぜなら、雑誌やテレビ、インターネットもすべて、実態を網羅しているわけではなく、一部分を切り取っているだけなので、切り取る方法によっては、薬にも毒にもなってしまうからです。
多くの方は、過去に有料老人ホームに入居した経験は無いはずです。ここで私が言う「経験」とは、ホーム探しから入居の手続き、入居生活から退去までの一連の行動のことです。もちろん、入居者としてだけではなく、その家族としての経験も重要です。もっとも、多くの入居者にとって退去とはイコール死去なので、退去までの一連の経験を生きて経験をしている人は少ないと思いますが……。
この体験が、実は重要なのです。この経験がある人は、雑誌やテレビ、インターネットなどから入手する情報に対し、「この情報はよくある話だが、それほど気にしなくてもよい情報だ」という判断ができ、自身で正しい評価が下せるからです。
仕事を進める上で必要な情報を集めていると、自分にとって都合の良い情報ばかりを求めている自分にハッと気がつきます。そんな時、人は、他の人に見解を聞いたり、考えを聞いたりするのですが、心のどこかで、自分と違う見解や考え方の場合、「この人はわかっていないな」と勝手に評価し、自分の見解や考えを正当化しようとしてしまいます。自分の経験を通じて正しいことを得るのは重要なことですが、自分と違う考えを冷静に受け入れることも大切です。
有料老人ホームに関するメディア情報は、この冷静な判断を阻害する恐れがあります。自分と同じ見解が雑誌に載っていた場合、それが正しいことを確認しようとネットでキーワード検索をすると、自分と同じ意見がたくさん出てきます。「これほど同じ考え方の人が多いということは、きっとこの考え方は正しいはずだ」と思ってしまいます。
ネット検索などでDホームと検索し、口コミ情報でDホームの悪口が出てきた場合「多くの人たちが悪く言っているのだからDホームは悪いホームに違いない」と考えないでほしいのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役