一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

私自身も、病院内のみならず地元の開業医の先生など病院外の医療関係者の方々なども含め総勢約30人からフィードバックを頂戴し、それらの意見を基に業務改善を進めていきました。

 

まず最初にそうやって現場で働く医療従事者の方々の声を幅広く、しっかりと拾い上げていくことにより、「医師の働き方」についての施策についてピントを外すことなく、ほぼ百発百中で改善へと向かうことができたのです。

 

今振り返って「評価をするのは常に『他人』である」ことを絶えず意識していたことが、静岡病院での「働き方改革」で成果を収められた最大の要因だったと分析しています。

吹奏楽部で知った「他人に評価されることの難しさ」

私が、「他人の評価」の大切さに気づけたのは、高校時代に吹奏楽部に所属していたことがベースにあったからかもしれません。私の所属していた吹奏楽部は、京都府内屈指の強豪校でした。目標は、ズバリ全国大会に出場すること。

 

そのためには、京都府代表になるだけではなく、春の高校野球(選抜高等学校野球大会)のように関西(近畿)地方の代表に選ばれる必要がありました。ただ、春の高校野球の出場枠は6校なのに対して私たちが目指す関西の代表枠は、たった3校。それは我々にとってまさしく“鬼門”でした。

 

当時、我が校は関西で4番目というポジションが定着し、毎年すんでのところで全国大会出場には出られず、毎年悔し涙を流していました。ベスト3入りの壁は非常に厚く、もがき苦しむ中で感じていたことは、「音楽の評価をするのは常に『他人』である」ということです。「関西で4番目」という一度与えられた評価を覆すのは簡単なことではないのです。

 

それがわかっているからこそ、これまでの審査委員たちの評価を一変させ、よりよい印象をもってもらうためにはどう演奏したらいいかを必死になって考え、顧問を筆頭に部員全員で一年中厳しい練習を続けました。

 

有り難いことにその努力は高校3年生の時に結実し、京都府の代表として初めて全国大会で金賞を取り、全国制覇を成し遂げたのです。高校時代は私にとって「他人に評価されることの難しさ」を、まざまざと感じさせられた3年間でもありました。

 

「医師の働き方改革」とは、医師たちの残業時間を減らすだけでなく、「他人から評価」されて、「地域の皆さんが今まで以上に頼りに思ってくれる病院」になることが最終ゴールであると考えます。

 

業務改善と他人から評価を得ることは、よりよい病院作りに欠かすことのできない両輪であり、どちらか一つが欠けてもうまくは回りません。そして両方を成し遂げることは、どんな地方であろうと、どんな規模の病院であろうと夢物語では決してありません。

 

佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表

 

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