「医師の働き方改革」なぜ2年半で5時帰宅が実現できたのか

一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

「伊豆は任せた」と4年間の静岡病院着任へ

Basical Health産業医事務所代表の佐藤文彦と申します。

 

大学勤務最後の2012年から4年間、順天堂大学の分院である順天堂大学医学部附属静岡病院(静岡病院)に糖尿病・内分泌内科(糖尿病内科)の科長(兼 准教授)として赴任。その時にさまざまな対策を試みて、赴任から2年半程で医局員全員の残業時間がほとんどなくなり、毎日5時に帰宅できる体制を構築していきました。

 

連日残業が続く病院で働き方改革を模索していった。
連日残業が続く病院で働き方改革を模索していった。

 

結果的に、2024年春に始まる「医師の働き方改革」のはしりともいえる施策に取り組んだわけです。これから概論、導入編、実践編、総論、番外編の順に20回にわたって、その具体的な取り組みについてお話ししようと思います。

 

ちなみに今の私は大学病院を退職した後も、週の3分の1は糖尿病の診療を続けており、加えて3分の1は嘱託で複数社の産業医として活動し、残りの3分の1は健康保険組合やその関連企業において健康増進・予防医療に携わっています。現在のように独立する前は、2年弱ほど日本アイ・ビー・エム株式会社に専属産業医として勤務しておりました。

 

「医師の働き方改革」の舞台となった静岡病院は、文豪たちに愛されたことでも有名な伊豆長岡温泉街の中にあり、伊豆半島の救急を大きく担う拠点病院です。

 

名曲「天城越え」でも知られる通り、伊豆半島は山が険しく車で病院に乗り付けることすら大変で、しかも医療機関が年々減少していることもあり、救急車搬送件数は年間6692件、ドクターヘリの出動件数は1339件(2018年度)と、日本有数の第3次救急病院です。

https://www.hosp-shizuoka.juntendo.ac.jp/department/lifesaving/activity-report/

 

この病院の診療科長となった時、私は41歳でした。こういった若い年齢での「異例の大抜擢人事」が実現したのは、決して私が優秀だったからではありません。私のほかに「この病院に赴任したい」と思う医師がいなかったからだと推測しています。私自身かなり驚いたものの「教授も困っておられるのだろうな」と勝手に忖度し、加えて「天邪鬼」な性格も手伝って、結果的に二つ返事で了承することになりました。

 

正直、私自身、単身赴任となるので、最も避けたい赴任先でした。しかし、教授と話している最中に、「ここまでしっくりこない人事異動であれば、逆に何かあるかもしれない」と直感的に思ったのも事実です。今から振り返ってみると、その「何か」が「医師の働き方改革」とういう新しい時代の医師の働き方を示していくことであったのかもしれません。

 

こうして、当時小学2年生と4年生の子どもと離れ離れになりながら、教授の「4年間、伊豆は任せた」の一言で長い単身赴任生活が始まったのです。

 

着任した静岡病院では、当然ながら救急外来から「搬送患者さんに高血糖も認められるからすぐ来てほしい」といった要請が頻繁にあり、我々糖尿病内科医も救急外来に駆けつけると、深夜までの緊急対応になることは珍しくありませんでした。

 

こうしたことから連日残業が続く医局員達に対し、私は傾聴やフィードバックといったコーチングで使う手法を用いてコミュニケーションを重ねつつ、「働き方改革」を進めていったのです。

Basical Health産業医事務所 代表
日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本肥満学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医などの資格をもつ内科医・産業医。

1998年順天堂大学医学部卒業後、順天堂大学 代謝内分泌学 助教などを経て、2012年41歳の若さで順天堂大学附属静岡病院 糖尿病・内分泌内科 科長(兼 准教授)に就任。同院で、「地方病院の医局員たちの残業の多さを何とか改善できないか」と考え、「医師の働き方改革」に着手。コーチングの手法を活用し、現場の要望を聴き出し、それを反映させた組織開発を独自で行う。3年目には医局員全員が定時に帰宅できる体制を作りあげる。その後、日本IBM株式会社で専属産業医を2年弱務めた後、2018年に独立。現在、健康保険組合やその関連企業での健康増進・予防医療などのコンサルタント業務を行いながら、糖尿病の外来診療、嘱託産業医としても活動する。今年度より、厚生労働省医政局委託事業「医療従事者勤務環境改善のための助言及び調査業務」委員会の委員に就任するなど、日本中の医師が安定的に働き続けられる環境作りに取り掛かっている。趣味は音楽。高校3年生時には、全日本吹奏楽コンクール(普門館)にて金賞受賞。担当楽器はチューバ。

著者紹介

連載「医師の働き方改革」仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる

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