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入院すると病院と老人ホームの二重払いの危険
当然、私も病院に駆けつけ、夜勤の介護職員から事情を聞き、ほどなく到着したAさんの長女にも経緯を説明したことを覚えています。翌日、長女が私を訪ねて、こうねぎらいの言葉を掛けてくれました。「夜勤の職員さんは、さぞかし驚いたことでしょう」。そして、夜勤の職員を見つけると深々と頭を下げ、「ご迷惑を掛けました。びっくりしたでしょう。ごめんなさいね」と。その後、私は彼女と「まるで死ぬためにホームに来たみたいですね」「死ぬところを探していたのでは？」などと、話をしました。
長女の話によると、A夫人は彼女が癌であることにうすうす気がついていたのではといいます。そして、癌治療に専念できないのは自分が生きているからだと感じていたのではないだろうかと……。彼女が亡くなったのは、おそらく偶然だと思います。担当医師も年齢を考えれば「老衰」だという見解を示していました。
しかし、私はこう考えます。いよいよ娘の病気が思わしくなく、病院へ入院が決まった。これ以上、娘に迷惑をかけるわけにはいかない……。もしかすると、親子にしかわからない何かがあったのではないでしょうか。
冷静に考えてみればわかるのですが、多くの老人ホームには医者は常駐していません。さらに看護師は基本的に昼間帯のみ常駐しています。もちろん、 24時間365日看護師が常駐している老人ホームも世の中に存在しますが、まだまだ少数派であり、その場合は多額の費用負担を入居者が強いられるケースが多い、というのが現実です。
つまり、多くの老人ホームの場合、介護職員が常駐しているだけなので、万一入居者の状態が急変した場合でも、ホームでは具体的な医療処置はできず、ホームドクター（往診医）に連絡をした上で救急車を要請、最寄りの病院に救急搬送する、ということになります。
稀に、ホームの近くにホームドクターが住んでいる場合など、すぐに駆けつけてくれるというケースもありますが、これはレアケースだと理解したほうがよいでしょう。急変した場合は、往診医に連絡をした上で、救急車にて設備の整った総合病院への搬送を往診医から指示されるのが普通です。
何を言いたいのかといいますと、老人ホームとは、医療的な機能で考えた場合、「自宅」にいることと何ら変わりがないということです。このことを入居希望者はもっと理解しなければならない、ということです。
保育園の場合で考えてみましょう。保育園は、預けた子供が熱を出したり、体調不良を起こした場合、すぐに迎えに来てほしい、と連絡が入ります。預けた親の立場で言うなら、「仕事で手が離せない。高い費用を負担して保育園に預けているのだから、熱ぐらいで迎えに来てほしい、では仕事にならない。幼児はすぐに熱ぐらい出すのだから」と思いながらも、会社を早退して迎えに行くことになります。
老人ホームも同じです。体調不良になれば、老人ホームから家族が呼ばれ、病院への入院を提案されます。当然、急な場合は老人ホームの判断で病院受診をし、事後報告で入院したことを知るというケースもあるはずです。医師や看護師が常駐していない以上、継続的な治療が必要な入居者は病院に行くことが当たり前なのだと、考えなければなりません。
ちなみに、病院に入院した場合、老人ホームの月額利用料金は食費を除き、全額支払い続ける義務が発生します。つまり、老人ホームへの支払い費用と病院への支払い費用の二重払いが生じます。なお、特養などをはじめとする一部の老人ホームは、入院決定と同時に退去になるケースもあります。契約時に確認が必要です。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
