「手厚い人員配置」は料金が高い理由なのか
介護保険制度は、総費用の1割から2割の自己負担でサービス提供を受けることが可能ですが、そのサービスに対する利用者側の過度な期待が介護職員を追いつめているとも言えます。事業者側は「すべては利用者さまの笑顔のために」などと耳触りの良いキーワードを掲げて営業活動をしています。けれども現実には、介護保険制度の枠内で運営をしている以上、できることとできないことがあります。
介護職員に対し、過度な労働をさせていることが、事件や事故を誘発しているとも考えられます。重要なことは、介護保険制度というセーフティーネットの中でできることとできないことを明確にし、それを関係者全員に周知するということです。介護職員が多く配置されていれば、痒い所に手が届く介護サービスの提供が可能となります。しかし、そのためにはそれなりの金銭負担が必要になることも忘れてはなりません。つまり、「介護の沙汰は金次第」ということになります。
最近よく見る老人ホームの広告に「手厚い人員配置」というのがあります。これは、他のホームより多くの介護職員、看護職員を配置していることを謳っているのであり、同時に料金が少し高い理由の根拠として使われています。
つまり、他のホームより多くの介護職員が配置されているので、少し費用はお高いですが、その分、他のホームよりも手厚い介護サービスの提供が可能です、というわけです。
看護師の配置や理学療法士の配置を手厚くして、他の老人ホームとの差別化を訴えている老人ホームも多くなってきました。「24時間看護師常駐なので医療対応に強い」とか「理学療法士が常駐しているので、リハビリができます」などと言っています。特殊な能力の人員を配置する費用は入居者が負担することになるので、他の老人ホームと比べると割高になっている、という具合です。
一定の機関で専門的な教育を受けてきた看護職員や理学療法士が配置されているということは、入居者に「安心」をもたらし、質の高いサービスの提供を可能にします。しかし、その分の追加費用は入居者が負担しなければならないので、支払いが十分にできない高齢者はサービスの恩恵を受けることはできません。やはり「介護の沙汰も金次第」ということになるのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役