規定の人員体制では介護は成り立たない
多くの老人ホームの場合、既定の人員体制では十分な介護サービスの提供ができないので、多めに人員を配置しているのが実情です。これは、老人ホームの宿命ともいえることですが、入居者の経年劣化(不謹慎な表現方法ですが、一番わかりやすい表現なのであえてこう記載します)により、入居者の身体の状態が年々悪化し、職員の手がかかっていくため、職員配置数を増やしていかないと日常業務に支障をきたしてしまうからです。
当然、介護事業者が受け取る介護報酬は、既定の人件費分は含まれているのですが、規定以上に配置した人件費は報酬に含まれていないのが原則です(ただし、特別な役割や能力のある職員を配置する場合に「加算報酬」という特別な報酬を受け取れる仕組みは存在します)。したがって、運営事業者側の立場で考えた場合、規定より多くの介護職員、看護職員を配置した場合は、自らの利益を削るか、それとも、入居者に価格を転嫁し負担をしてもらうか、2つのうちのどちらかを選ばなければなりません。
もちろん、一概にどちらが良いということではありませんが、質の高い介護サービスを提供している老人ホームの場合は、多めに配置した人員に対する費用は価格に転嫁し、入居者に負担をしてもらうケースが多いと思います。
ピンとこない読者も多いと思いますが、介護保険制度が決めた人員配置で老人ホーム運営を行なっている場合、外出や病院受診は家族が対応するのが普通です。外出も病院受診も入居者の自由ですが、その対応はホームの介護職員にはできません。または、外部の支援業者に頼んで自己負担で利用してください、ということになります。
老人ホームの場合、あくまでも老人ホーム内で入居者に対し、必要最低限の介護サービスを提供することを介護保険は目指しているからです。プラスαのサービスには責任を持てないということになります。
言葉が適切かどうかはわかりませんが、介護保険制度とは国が国民に対し約束している「生きていくための必要最低限の保証」なので、それ以上のことを望む人は、サービスを提供している事業者と別途契約をし、相応な自己負担をして対応してください、ということなのです。
最近の老人ホームで起きている事件や事故は、この介護保険制度の「立て付け」に対する不適切な運営と解釈の間違いが原因になっている気がしてなりません。