「お金がないからこそ問題になる」争族の本質は…
くどいようですが、遺産が少なくても「争族」は起こります。この事例に関して言えば、「3姉妹に渡すお金すらなくなっていた」という点が、エピソードの「争族」性をより強めています。ある意味、お金がないからこそもめてしまったともいえるのです。
遺されたお子さまを「争族」に巻き込まないようにするには、どうしたらよいのかと、よく相談を受けますが、私のお答えはいつも同じです。
それは良い遺言を書くこと。この一点に尽きます。
実際に遺言が執行される場面で、子どもたちや親族たちがどのようなことを主張するか、具体的にイメージする必要があります。場合によってはその解決に必要なお金も遺産としてとっておくべきでしょう。
どうしても誰かが不満を言うことが予想される場合には、「なぜこんな分割方法にしたのか」という、あなたの思いを、遺言の中でていねいに述べましょう。実はその言葉こそが「争族」防止の特効薬にもなるのです。
■争族を避ける対策 ①良い遺言を遺す
今、日本では年間約137万人が亡くなっていますが、その中で「公正証書遺言」を遺した人は約11万人、「自筆証書遺言」を遺した人が約1万7000人なので(※)、約1割しか遺言を書いていないことになります。
(※)出典:司法統計 第2表 平成30年「遺言書の検認数」
遺言がない場合、財産は民法で定められた「法定相続分」にのっとり分割することが求められます。しかし、たとえ法定相続分どおり分割しても、全員が満足する結果になることはありません。「争族」を防ぐには、遺された子どもたちがそれぞれ納得する分割方法を、被相続人となる親が生前に定めて遺言を書くことが最善の策といえます。
遺言は、家族を持つすべての人にとってのエチケットだと、私は考えています。「うちの家族はもめない」はありえないと思ってください。相続人が一人っ子以外の方は、全員「争族」の可能性があると思って間違いありません。
① 長子承継的な考え方に縛られることなく、納得のいく遺産分割をすること
② 財産が少なくても必ず遺言を遺す
③ 遺言は正式な手順で作成、保存すること
④ 遺言内容に不満をもちそうな相続人にも、あえて幾ばくか(遺留分相当額)の財産が行き渡るように配慮する
江幡 吉昭
一般社団法人相続終活専門協会 代表理事