誰?「こんにちは、熊田と申します」怪しい男が…
父:博史(80歳、認知症により介護施設に入所中)
母:信子(72歳、専業主婦)
長男:賢一(50歳、無職、父所有のアパートで生活)
次男:英二(45歳、サラリーマン、実家で母と同居)
■遺産(見込み)
自宅(約4000万円)、アパート2棟(合計約1億円)、現預金3000万円、ほか土地を複数保有
■突然現れた税理士から契約書のサインを求められ困惑
「こんにちは。私は税理士の熊田と申します。英二さんはご在宅でしょうか」
ある日、英二の自宅に、面識のないスーツ姿の男が現れた。
「英二は私ですが、どちらさまでしょうか」
熊田と名乗る男は名刺を差し出しながら自己紹介をした。
「私は、賢一さんの税務申告を担当しております、税理士の熊田と申します。よろしくお願いします」
「なるほど。兄の賢一のところで……。それで、この私に何のご用件で?」
英二は、名刺をもらってもまだ熊田と名乗る男を信用できず、玄関で立ち話を続けた。
「実は、介護施設に入所されているお父さまの健康状態について、賢一さんがたいへん心配していらっしゃいます。そして今後のことを考え、お父さまの財産を家族信託にしたいとおっしゃっています。本日はそのご相談にあがりました」
税理士は端的に用件を伝えた。
「家族信託? 何の話ですか、そんな話は兄から聞いていませんよ」
「資料がございますので、詳しくご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
熊田がビジネスバッグから書類を取り出そうとする。英二は少し迷ったが、これはちゃんと話を聞いた方がよさそうだと判断し、熊田を家に上げて、テーブルを挟んであらためて向き合った。