――あれから12年。「ハンコ代」を巡り姉妹が…
不動産をはじめとするお父さまの遺産は、お母さまと長男の良一さんがほぼすべて取得しました。ほかの3姉妹には、代償分割としてそれぞれ約1000万円ずつ「ハンコ代」が支払われました。
代償分割とは、相続人の1人、または数人が財産を取得する代わりに、他の相続人に金銭を支払う遺産分割方法のことです。金銭を受け取る代わりに「遺産分割協議書」にハンコを押すことから、このお金は通称「ハンコ代」と呼ばれています。
一般的には、「ハンコ代は相続財産全体の評価額や相続人の人数に左右される」と考えるのが普通でしょう。しかし、実態は必ずしも理屈どおりにいきません。それこそご家族の事情に応じて、ケース・バイ・ケースなのです。極端な話、「その場で数万円もらう代わりにハンコをついて終わり」ということもあれば、億を超える金額になることもあるでしょう。
良一さんのご家族のケースでは、自宅やアパート、株などをすべてお母さまと良一さんが取得しました。3姉妹はその代償として、約1000万円という金額に納得し、ハンコを押したのです。
「――あれから12年。母が亡くなった際の相続は、父のときと同じようにはいきませんでした……」
良一さんは、今回の二次相続の様子を話し始めました。
■「ハンコ代」を期待する姉妹が長男と決裂
――3姉妹を自宅に集めた良一は、おもむろに遺産分割について話しはじめた。
「これが母さんの遺(のこ)してくれた遺言だ。父さんは遺言を遺してくれなくて、大変な思いをしたから、自分のときはそうならないようにって、きちんと遺言を遺してくれたんだ」
良一は、3姉妹が見守るテーブルの上に遺言の入った封筒を置いた。封筒から出した遺言の表紙には「遺言公正証書」という文字が書かれ「正本」と赤字でハンコが押されていた。そして、公証役場の住所と公証人の名前が記されていた。
良一は慎重に封を切って遺言を開く。するとそこには、「財産の一切を長男の良一に相続させる」といった内容が、母の意思で記されていた。