
母親が公正証書遺言を遺していたにもかかわらず、兄(長男)と妹(長女)が「争族」に発展してしまったケース。放蕩息子だった兄は母の生前、散々迷惑をかけてきたこともあり、遺言には財産の大半を妹に遺すと記されていました。自分の相続分がわずかな現金だけだと知った兄は激怒し、自らの遺留分を確保するため奥の手を使った。 ※本記事は、一般社団法人相続終活専門協会代表理事・江幡吉昭氏の書籍 『プロが教える 相続でモメないための本』(アスコム)より一部を抜粋したものです。
遺言に長男激高も…長女は「自業自得じゃないの?」
■被相続人
母:美枝子(88歳、神奈川県在住)
■相続人
長男:義弘(63歳、神奈川県在住)
長女:小百合(60歳、神奈川県在住)
■遺産
自宅(約4000万円)、アパート2棟(合計約1億円)、現預金3000万円、ほか土地を複数保有
■遺言の内容を認めないと激怒した放蕩息子の兄
「冗談じゃねぇぞ!」
遺言の内容を知った瞬間、義弘は声を荒らげてテーブルを拳で殴りつけた。
「こんなもん絶対認めないからな!」

「そんなこと言われても困るよ。これは正式な遺言なんだから、従うしかないでしょ」
小百合は、兄の態度におびえながら言う。
公正証書遺言に記載されていた事実。それは、義弘に渡すのは500万円のみ。ほかの不動産や現預金は、すべて妹の小百合に相続させるという内容だった。
「お兄ちゃんは、お母さんに散々迷惑をかけてきたんだから自業自得じゃないの?」
「なんだと! お前にそんなこと言われる筋合いはない!」
義弘は、高校の頃から遊び呆(ほう)けて、ろくに学校へも行かず、成人してからも職を転々とする放蕩息子だった。40歳になると突然「俺は社長になる」と言いだし、勝手にレンタルショップのフランチャイジーに手を出したこともあった。しかし、そのレンタルショップでも仕事中にトラブルを起こし、フランチャイザー(加盟本部)から違約金を請求される事態となり、わずか3年で廃業してしまった。そのときの契約金や違約金は、すべて母の美枝子が払っていたのだ。