母から激高の電話。話を聞くと何やらおかしな点が…
■被相続人
母:初江(89歳、東京都在住)
■相続人
長女:和美(66歳、東京都在住)
長男:太一(63歳、東京都在住)
次男:良次(62歳、東京都在住)
次女:佳美(60歳、東京都在住)
■遺産
自宅(約8000万円)、現預金5000万円、生命保険多数
■「長男が遺言を偽造した」と言い出した母親
「もしもし、あ、お母さん? うん、どうしたの、なに? ちょっと落ち着いてよ」
日曜日の早朝、母の初江から突然の電話を受けた長女の和美は、心がざわついた。いつも温和な母が、激高した声で電話してきたからだ。
「私は太一に騙(だま)されているのかもしれない」
言っている内容も唐突すぎる。いったい何があったというのか。
「お兄ちゃんに? どういうこと、何があったの?」
震える声を抑えながら和美は問い返す。
「遺言が出てきたのよ、タンスの引き出しから」「遺言って……お母さんが自分で書いたんでしょ?」
「ちがうの。私が書いた遺言じゃないの。だって、全財産を太一に相続させるなんて書いてあるのよ? こんなの書いた覚えはないのに、そういう内容になってるのよ。きっと、太一が偽造したに違いないわ」
和美は受話器を握りしめたまま、言葉を失った。これは……もしかすると、母の認知症がはじまってしまったのではないか? 不安がよぎる。なにしろ初江は、以前から「長男の太一にすべての財産を相続させる」という内容の遺言を書いたと、子どもたちの前で公言していたからだ。
自分で書いたはずの遺言を見つけて、「太一が偽造した」などと激怒する母に和美は戸惑いを隠しきれなかった――。