「財産はいらない」と言っていた兄が手のひら返し
■被相続人
姉:千恵子(81歳、元私立有名大学教授、東京都在住)
■相続人
兄:雄一郎(77歳、元個人事業主、大阪府在住)
弟:誠二(75歳、元大手金融機関サラリーマン、定年退職者、東京都在住)
■遺産
都内に戸建て自宅(約4000万円)、現預金6000万円
■羽振りの良かった兄が豹変(ひょうへん)
「それは遺産をもらいたいっていう意味なの?」
弟の誠二は思わず聞き返した。兄の雄一郎が発した言葉があまりにも意外だったからだ。
「当然だろ。俺は法定相続人なんだから、財産を半分もらう権利があるんだぞ」
雄一郎は、誠二から視線をそらしながら不服そうに返答した。
「だって、前はいらないって言ってたよね。介護も手伝ってないから、財産は全部お前が相続すればいいって」「覚えてないな。仮にそんな口約束してたとしても、いまさら何の効力もないだろ。それより俺は法律で認められた相続人なんだから、それがすべてだよ」
これを聞いた誠二は完全に頭に血がのぼった。
「今さら何言ってんだよ。しかも、財産を半分よこせってどういうことだよ。俺たちがこの10年間、姉ちゃんの介護でどれだけ大変な思いをしたか、わかってないだろ。兄ちゃんは一度だって手伝いに来たことないし、援助だってしなかったのに。金だけよこせなんて通るかよ」
「法律で決まってるんだから仕方ないだろ。議論するだけ無駄だ。さっさと財産を処分して半分ずつ分けようぜ」「ふざけるなよ! 俺は絶対認めないからな」
血を分けた兄弟だからこそ引くに引けない「争族」は、こうしてはじまった――。