仲良し兄妹が…なぜ母は何も残せなかったのか?
■もめごとなく収まった父親の遺産相続
「ごめんね。父さん、遺言を残していなかったの」
母の昌代は、父の死後、長男と3人の姉妹がそろった席で遺産分割について重い口を開いた。自宅敷地内の二世帯住宅に暮らす長男の良一は、母親をねぎらいながら3人の姉妹に話しかけた。
「お母さんが謝ることじゃないんだから気にしないでよ」「そうよ。お父さんが亡くなって一番つらいのはお母さんなんだから、そんな顔をしないで」
長女の裕子も母を慰める。つかの間、場は重い空気につつまれた。
末っ子で小さい頃から自由に育てられた三女の由美は、みんなの顔色をうかがいつつ、誰かが話を切り出すのを待っている。沈黙を破ったのは、4人の中で最もマイペースであまり空気を読まない次女の由紀子だった。
「要するに、どうやって遺産を分けるのかって話でしょ。遺言がないのに、みんなが文句ないように分けるには、どうすればいいのか決めればいいんでしょ」
「それはそうだけど、こういうのは初めてだからどうしていいかわからないの、ねぇ良一」
母が長男に目配せする。
「実は家族会議する前に母さんと話し合ったので、その内容を説明したいんだけどいいかな」
良一はそう言うとメモ帳を開き、全員に向かって説明を始めた。彼が説明した遺産分割の主旨は、残された父の遺産とその評価額を提示したうえで、自宅は長男が受け継ぎ、現金は3姉妹が1人当たり約1000万円ずつ分け、その他の不動産や株等の財産は母親が相続する――というものだった。
話を聞き終えて、由紀子は口を開いた。