80代認知症の母「前夫の長男死亡」で…信託銀行もさじ投げ

年間約130万人が亡くなる日本社会。故人の遺産をめぐり、親族間で醜い争いになるケースが多発しています。相続が発生してから「家族と絶縁する羽目になった…」「税金をごっそり取られた…」と後悔してしまわないためにも、トラブル事例を見ていきましょう。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説していきます。

土地持ちの名士の本家、父親違いのきょうだいあり

相談者のN島さんの実家は地元でも有名な名士で、代々の地主さんです。N島さんの母親の夫は、長男が生まれて間もなく病死されましたが、その後再婚した際には、前夫との間の長男と後夫が養子縁組をしています。母親と後夫との間に生まれたのが、長女と相談者のN島さんです。

 

 

後夫も30年以上前に亡くなり、母親は晩年までずっと1人暮らしをしておられましたが、その間、N島さんがすぐ近くに住み、世話をしてきたということです。

 

母親は晩年までずっと1人暮らしだった。
母親は晩年までずっと1人暮らしだった。

 

母親の財産のほとんどは、賃貸マンションや貸地、駐車場などの不動産です。異父きょうだいの存在など家族関係が複雑だったこともあり、母親は信託銀行で公正証書遺言を残していました。

 

母親に相続が発生する1年前、前夫との間の長男が先に亡くなっていますが、そのときすでに母親は認知症を患っていたため、遺言書の書き直しはできませんでした。

 

●相続データ

被相続人:母(不動産賃貸業・80代、配偶者なし)
相続人 :4人(前夫との間の長男の代襲相続人〈孫養子2人〉、
        後夫との間の長女50代、長男50代…相談者)
財産の構成:自宅、賃貸マンション、貸地、駐車場、預貯金、生命保険

 

あああ
相続財産のなかには、広大な駐車場も

土地を残す&共有を解消して、将来の不安をなくしたい

遺言執行者には信託銀行が指定されていました。遺留分に抵触しないよう、それぞれの子どもたちに財産分与がされていますので、遺言書を執行すればいいことですが、前夫との間の長男が母親より先に亡くなっているため、その分については遺産分割協議の話し合いが必要です。

 

長女もN島さんも、代襲相続人がそのまま相続することに特に異論はありませんでしたが、年代の違いや普段から行き来が少なかったせいもあり、意思の疎通をはかるのが難しい状況で、手続きが思うように進みません。その後、遺産整理業務の継続が困難という理由から、信託銀行に断られてしまい、筆者のもとに相談に来られました。

 

相続財産を確認したところ、財産の大部分が不動産なので、減額できるのは土地の評価です。また、遺言書では432坪の駐車場を共有で相続し、売却して納税するよう指定されていました。しかし一番の課題は、納税用の駐車場を除く、ほかの複数の土地がすでにきょうだい間の共有になっていることでした。

 

N島さんの希望は、節税して土地を残すことはもちろん、今回の相続を機に、共有を解消し、将来の不安がないようにしておきたいとのことでした。

 

確認すべき事項をまとめると、下記のようになります。

 

【遺産分割】

遺言書はあるが、前夫との間の長男が先に亡くなっているため、長男の代襲相続人が相続する部分については遺産分割協議書の作成が必要

 

【評価・申告】

不動産が多く、土地の評価がポイントになる

 

【納税】

駐車場を共有で相続し、売却して納税するよう遺言で指定されている

広大地評価の活用、土地の共有部分を分筆して節税

●広大地評価の採用

 

土地のあるエリアの開発許可が必要な面積は500㎡です。相続財産の中に820㎡の不整形な字型で奥行きの深い駐車場があります。

 

現地調査で周辺の状況を確認したところ、高層のマンションはなく、一戸建てが建ち並ぶ住宅街でした。よって、相続する土地に宅地の開発許可を取る場合は、区画を計画するにあたり道路負担が必要になると判断できますので、広大地評価を採用することにしました。宅地の区画割り案も作成しました。

 

●共有地を分筆


公正証書遺言で納税用地として指定されていた駐車場は、二方道路の角地で、共有割合は前夫の長男が1/4、後夫の長女1/4:長男1/2となっていました。

 

しかし相続人に納税方法の意向を確認したところ、物納したい、手持ちの現金で納税したい、あるいは駐車場は収益が上がるから残して別の土地を売却して納税したいなど意見がまとまりません。

 

足並みが揃わないと売却は難しいので、納税方法は各自の希望に任せるとして、駐車場は残すにしても、共有を避けるため、遺言書に指定されている割合に応じた面積で3つに分筆し、それぞれ単独で相続することを提案しました。

 

3つに分筆をしてそれぞれ単独で相続する場合、土地の評価は筆毎(取得者毎)になります。全体が二方道路の土地が、一ヶ所が角地、残り2つの土地が一方道路の土地になり、一体で評価するよりも減額できました。

 

●遺産分割協議の実施

 

遺言書はそのまま生かし、母親よりも先に亡くなっている前夫との間の長男が取得する分については代襲相続人がそのまま相続することにして、遺産分割協議書を作成しました。

納税の方法は相続人それぞれの希望どおりに

まずは遺言を執行し、不具合がある部分は遺産分割協議書を作成しました。そして、1ヵ所の駐車場は広大地を適用して評価減し、納税用と考えていた共有地を3つに分筆して減額。納税については、遺言書どおりとはせず、各自が別々の方法で納税を済ませました。

 

今回、売却方法については相続人それぞれの希望を通すことができ、丸く収まったかたちです。また、父親違いのきょうだいがいるなど、複雑な家族関係ではありましたが、同じ両親のもとに生まれたきょうだいであっても、親密な付き合いがあるとは限りませんから、コミュニケーションをとるのが難しいといったケースは、どこの家にも起こりうることだといえます。

 

相談者のN島さんからは「信託銀行にさじを投げられた今回の相続手続きが無事に完了し、安堵しています」とのお声をいただきました。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 
相続対策専門士

京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。著書50冊累計38万部、TV・ラジオ102回、新聞・雑誌420回、セミナー500回を数える。近著に『いちばんわかりやすい 相続・贈与の本'18~'19年版』(成美堂出版)、『増補改訂版 図説 大切な人が亡くなったあとの届け出・手続き』(宝島社)ほか多数。

著者紹介

連載相続実務士発!みんなが悩んでいる「相続問題」の実例

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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