相続放棄してできた「誰のものでもない家」どうするか
御池さんの住まいは権利の半分が宙に浮いた状態だったため、法律に詳しくない不動産会社にとってどうやって売却を進めればいいのかわからない物件だったのです。
30年前に自宅を購入する際、御池さん夫妻は自宅の所有権を分け、それぞれが半分ずつを保有することにしました。夫が自殺した際、本来なら夫の持ち分を相続するつもりでしたが、そうすると多額の借金まで受け継ぐことになります。御池さんは相続放棄を選択したため、自宅の半分は「誰のものでもない」状態となったのです。
誰も権利を持っていない不動産をどうやって売却すればいいのか、ほとんどの不動産業者は知りません。弁護士などの法律関係者なら方法は知っているかもしれませんが、債権者と交渉しながら不動産を債務者のニーズに応じた形で適正に任意売却を成功させる調整能力は通常ありません。どこに相談しても「売却不能」といわれた御池さんが最後にたどり着いたのが、私の事務所でした。
◆相続財産管理人を立てて売却を進める
相続放棄されて宙に浮いた不動産を法的に処理するためには、「相続財産管理人」を立てる必要があります。
宙に浮いた不動産の処理を申請する権限は、もともと財産を所有していた人の利害関係人、もしくは検察官などが保有しています。彼らが家庭裁判所に申請し、「相続財産管理人」を設定してもらうことにより、「誰のものでもない不動産」を売却できるようになるのです。御池さんのケースでは私の妻が司法書士として「相続財産管理人」となるべく申請を行い、家庭裁判所から認定を受けることができました。
任意売却を進めるためには一定の期間が必要なので、債権者である金融機関との交渉も欠かせません。御池さんに2000万円の負債を一括返済させるため、自宅の差押えを計画していた銀行には、手順を踏んで任意売却し、売却代金で返済する行程を私が説明しました。その結果、半年間の猶予期間がもらえたため、より御池さんの希望に添う生活再建を実現できたのです。