「報酬がもらえそうにないし」で切り捨てられる貧困層
御池さんのケースではさらに予納金100万円という大きな費用が発生していますが、債務の支払いに行き詰まっている状況で、そのようなコストを賄うのはほとんど不可能です。専門家の中には「報酬がもらえそうにないから」という理由で御池さんの依頼を断った人もいたものと思われます。したがって御池さんのようなケースでは、依頼人の希望に添った任意売却を完了するだけでなく、手数料などを捻出するためのテクニックも必要となります。
御池さんの場合、売却物件は自宅1軒でしたが、所有権は御池さん本人と夫の二つに分かれています。このうち「相続財産管理人」が扱うのは夫が保有していた分だけです。つまり650万円という売却代金のうち、夫の分だった325万円は「相続財産管理人」により厳正に管理され、債権者である銀行に丸ごと渡されますが、御池さんの保有分は自由に処分することができるのです。
私はこの点に注目して、売却に必要な費用を御池さんが受け取る325万円から賄えるよう手配しました。費用を抑えて御池さんの取り分が多く残ったとしても、最終的には債務の返済に充てられてしまいます。御池さんが希望どおり自宅で暮らし続けられるよう、取り分からきちんと費用を捻出して、任意売却を成功させることは非常に高度なテクニックだといえます。
◆任意売却は早いタイミングで取りかかるほど成功率が高い
不動産の売却には時間がかかります。価格の査定、買い手探し、さらには諸手続などを含めると、有利な条件で売却するためには最低でも3カ月以上必要と考えられています。任意売却の場合はさらに、金融機関との交渉など難易度の高い手順が加わるため、時間的な余裕がなければ成功率が下がります。また、ある時点を過ぎると事実上不可能になるため、住宅ローンの返済に行き詰まりを感じたら、「いつまでなら任意売却が可能か」を意識する必要があります[図表]。
任意売却を決断する上で大きなターニングポイントとなるのが代位弁済です。債権者である金融機関に対して、この時点までに任意売却の意向を示すことができれば、競売の申し立てを待ってもらえることがあります。交渉次第では「しばらくの間は金利のみの支払いでよい」と支払いを猶予してもらえることもあるので、代位弁済前に対応することは非常に重要です。