妻絶句「お義母さん…」飲食店開業した年収320万円夫の借金額

コロナ感染拡大第2波が懸念される今、再度緊急事態宣言が発令されてしまえば、ようやく再開しつつある様々な経済活動がまたも停滞してしまう。なんとか4月~6月を乗り越えたサービス業の間には不安が広がっている。飲食店経営者はこの不況をどう生き抜くのか。本記事では、自宅を担保に700万円を借りたものの、業績が悪化し返済できなくなった飲食店経営者の例を見ていこう。 ※この記事は、烏丸リアルマネジメント株式会社代表取締役・矢田倫基の書籍『住宅ローンが払えなくなったら読む本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

飲食店経営者「経営難で月8.5万円を返せない」

《押小路さん(仮名/おしこうじさん・45歳・男性)》

職業:飲食店経営・配送業配達員

年収:320万円

備考:飲食店を開業するため、父親名義の自宅を担保に700万円を借り入れたが、返済不能になり金融機関から競売申立の通知が届いた。

 

《物件とローンの詳細》

住宅のタイプ:一戸建て(築30年)

借入:700万円(金利8.1%)

毎月の返済額:8.5万円

備考:物件を購入したのは押小路さんの父親。その後、押小路さんが譲り受けて家族と居住していたが、名義は父親のまま。借金返済のため任意売却をすることとなったが、所有権を持つ父親が認知症のため法律行為ができない。

 

押小路さんが自宅を担保に700万円を借りたのは2012年のことでした。もともと飲食店で働いていた押小路さんは、そのお金を資金として念願だった自分のお店を開いたのです。

 

ところが経営は当初からうまくいかず、想定していたほどの収益をあげることができません。借金の返済が滞りがちになり、借入先の金融機関から自宅を競売にかける旨の連絡があったため、あわてて私の事務所を訪れたのは押小路さんの奥さんでした。

 

「うちの家は仕方がないにしても、お義母さんの家までなくなってしまわないか心配でなりません」

 

押小路さんは700万円を借りる際、母親が住むマンションも物上保証として担保に入れていたのです。

 

◆父親は認知症で法律行為ができない状態

 

事情を聞いて私がすすめたのは押小路さんが住む家の任意売却でした。競売になる前に売却し、できる限り債務を減らしてから金融機関と交渉すれば、母親の住まいまで競売の対象となることは避けられる可能性が高かったためです。

 

さらに押小路さんの奥さんに要望を聞くと、子どもの学校があるので、できれば今の家に住み続けたいといいます。競売になれば住み続けることは不可能です。競売を避けて今の家に住み続けるには、押小路さん一家と賃貸借契約を結んでくれるような投資家に家を買ってもらうしかありません。

 

ところがここで大きな問題が発覚しました。

 

ローン破綻は免れない
破綻は免れない

父は重度の認知症…タイムリミットは4カ月しかない

押小路さん宅の持ち主である押小路さんのお父さんは重度の認知症を患っていたのです。意思能力がないため、不動産の売却に伴う契約などの法律行為ができません。そこで契約を代行できる成年後見人を立てることにしました。

 

◆開札まで4カ月、ぎりぎりのスケジュール

 

成年後見人を立てることができれば、押小路さんが住む家を任意売却することができますが、その計画にも大きなリスクがありました。

 

押小路さん宅の競売が申し立てられたのはその年の2月下旬。通常、競売の申し立てから最終的に落札者が決まる開札まで、約4カ月しかありません。2月の下旬に競売申立がなされたのなら、タイムリミットは6月の終わりごろということになります。それまでに成年後見人の手続きをすませ、金融機関と交渉し、買い手を見つけて契約を結ばなければタイムオーバーです。

 

特に成年後見人の選任には時間がかかり、それだけでも一般的には2~3カ月を要します。普通なら「無理」と判断するのが妥当なケースですが、私は「できる」と考え、引き受けることにしました。

 

そのためにはとにかく最短期間で成年後見人を立てねばなりません。通常、家庭裁判所に申し立てを行う際には候補者をあげます。押小路さんの親族と話し合った結果、母親と姉が候補者になってくれることが決まりました。大急ぎで必要書類をそろえて申し立てを行った結果、1週間という異例の早さで家庭裁判所の認定を得ることができました。

 

私たちが仕事をしている京都では、京都家庭裁判所が成年後見人の選任を行う唯一の機関です。そのため常に混み合っており、選任に欠かせない書記官の面談も、申し込みから1~2週間待たされることがほとんどです。

 

そこで私は任意売却が決まると同時に書記官の予約をとり、面談までの間に必要書類をすべてそろえました。書類に不備があるとまた1週間待ちなので、この時点ですべての書類を不足なく用意するのが成年後見人を短時間で立てる秘訣です。

 

押小路さんのケースは私が予定したとおり、母親と姉が成年後見人に選任されましたが、なにか問題を指摘された場合には、司法書士である私の妻を推薦するつもりでした。

開札1日前に決着。しかし「新たな滞納」が判明…

◆開札1日前に任意売却の契約成立

 

結論からいうと、押小路さんの任意売却はぎりぎりで間に合いました。6月30日が競売の結果を公表し、落札者が決まる開札日でしたが、その1日前の6月29日に売買契約の締結と代金の振り込みが完了し、競売の取り下げがなされたのです。

 

当初は余裕のある行程表を作っていましたが、1日前に滑り込みで契約完了となったのは金融機関の担当者が売却価格に難色を示したためです。

 

買い手になってくれたのは私が普段からお付き合いをしている投資家でした。押小路さんのケースを相談し、住み続けたいと希望していることを伝えたところ、購入を快諾してもらえたのです。物件の価格は市場調査の結果などを参考に査定を行い、580万円と定めました。ところが、それでは安すぎるとして債権者である信用金庫が反対したのです。

 

トラブルが起きた原因は主に、信用金庫が任意売却に不慣れなことにありました。

 

任意売却の経験がもっとも多いのは保証会社です。任意売却は代位弁済後に行われることが多いため、その時点で債務者とやりとりをする保証会社は任意売却について豊富な経験を持っており、物件に関しても「相場観」を有しています。

 

また金融機関の中でも都市銀行は扱う事例が多いため、やはり任意売却の交渉で理に合わない対応をするケースは少なめです。ところが信用金庫は任意売却における交渉の経験が少なく、不動産の相場観もあまりしっかりとは持っていない担当者が多いので、売却価格などの条件について、より詳細な説明を要することがあります。

 

押小路さんのケースも査定書をもとに説明を重ねて、ようやく納得されましたが、想定していた行程より大幅に遅れてしまいました。

 

◆足を引っ張るリスクがあった健康保険料の滞納

 

タイムリミットを見据えながら任意売却を進める中で、意外な落とし穴になりかけたのが健康保険料の滞納でした。押小路さんは3年以上も健康保険料を支払っておらず、滞納額は130万円にのぼりました。役所からは督促の通知が届いていましたが、信用金庫への返済を優先するため、無視していたのです。

「絶対に納付すると約束してきてください」

固定資産税などの税金とは違い、健康保険料の場合には延滞したからといって即差押えを打たれることはありません。ただし督促を無視し続けていると、それを理由に財産を差押えられてしまうことがあります。差押えを解除するには滞納している健康保険料の全額納付が必要です。押小路さんには支払いに充てられる資金がなく時間の余裕もないので、差押えによって任意売却の計画が崩れてしまうことが考えられました。

 

「役所に足を運んで、滞納している健康保険料は分割で納付すると約束してきてください」。私は押小路さんにそうアドバイスしました。支払う姿勢を見せるだけで差押えは回避できるので、なにはともあれ督促を無視しないことがもっとも大切なのです。

 

◆成年後見人の仕事は財産管理と身上監護

 

社会全体の高齢化に伴い、認知症を抱える人が急増しています。認知症はアルツハイマー病などにより脳の機能が衰え、記憶力や判断能力に障害が現れた状態です。東京都福祉保健局が2016年に行った調査によると、都内に在住する高齢者(65歳以上)のうち何らかの認知症状を示す人は13.8%にのぼっています。高齢者の7人に1人以上が認知症を抱えていることになり、最近では任意売却を行う際に大きな妨げになるケースがしばしば見られます。

 

認知症になると記憶力や時間・場所等の見当識が損なわれるほか、ものごとを論理的に考える能力も衰えてしまいます。症状の程度にもよりますが、自身にとってのメリット・デメリットなどを把握して判断を下すことが難しい場合には、不動産の売却について正しく理解して判断する能力──意思能力がないものと見なされます。意思能力がない人は契約などの法律行為ができないため、自身が所有する不動産の任意売却も不可能です。

 

押小路さんのケースは典型的な例ですが、そのような場合には本人に代わってさまざまな手続きなどを行うために成年後見人を立てることが必要となります。

 

成年後見人とは、何らかの障害により判断能力が不十分な状態となっている人が不利益を被らないよう支援する役割を担う人のことです。成年後見人を立てるときには家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。申し立てを行えるのは本人の他、配偶者や四親等以内の親族、市町村長などに限られます。

 

申し立てを受けて家庭裁判所が審査を行い、申立時に候補者があげられている場合には、その人が適格であるかどうかを判断します。成年後見人には「欠格事由(成年後見人になれない条件)」がもうけられていますが、その条件にあたらない人なら誰でも候補になることができます。

家族もNG…?成年後見人になれないパターン5つ

【欠格事由】

① 未成年者

② 成年後見人等を解任された人

③ 破産者

④ 本人に対して裁判を起こしたことがある人やその家族

⑤ 行方不明者

 

申し立てを受けた家庭裁判所が成年後見人の要・不要や、誰を選任するかの審査を行った上で認定されます。通常は家族が選任されるケースが多いのですが、最近では少子化の影響もあり家族に適切な人が見当たらないなどの理由から、弁護士や司法書士などが職業後見人として就任するケースが増えています。

 

成年後見人の主な仕事は財産管理と身上監護です。財産管理については預貯金の預け入れや引き出し、不動産など重要な財産の売却や購入、住まいのリフォーム、その他の契約などを代行します。身上監護としては後見を受ける人が健康に暮らせるよう生活を管理したり治療や療養、介護などの手配・手続きを行ったりします。

 

したがって経済的な問題を抱えていないことや後見を受ける人の近くに住んでいて、すぐに駆けつけられる状況にあることなどが成年後見人の認定に当たっては重視されます。押小路さんのケースでは、押小路さん本人は債務の返済に行き詰まっているため、父親の成年後見人にはあまりふさわしくないと見なされる可能性がありました。そのため母親と姉を成年後見人の候補に選んだのです。

 

なお、成年後見人には家庭裁判所に対して定期的に活動内容を報告する義務が課されています。領収書の保管や日誌をつけるなど、細かな作業が必要となるため、ある程度労力がかかると考えておく必要があります。

 

◆任意売却の成否を分ける売却価格の設定

 

任意売却の成功に欠かせないのが債権者・債務者ともに納得できる売却価格の設定です。価格の設定について債権者と債務者の間には利益相反があります。債権者は少しでも多く融資を回収したいので、売却価格のつり上げを希望します。一方、債務者の場合はそうともいえない状況が生じえます。「高く売れれば残債が少なくなるのだから、債務者にとっても有利なのでは?」と思われがちですが、そうでもないのです。

「金融機関のせいで時間切れ」が相次いでいる現状

物件は売却価格を低めに設定できれば、購入希望者が多数現れます。売却条件について有利な立場で交渉できるため、「住み続けたい」「生活準備金を多く支給してほしい」などの希望が通りやすくなるのです。

 

また、債務者が買い手と賃貸借契約を結んで住み続けることを希望している場合には、物件価格が高くなると家賃も高く設定されてしまいます。生活が成り立つ金額に家賃を抑えるためにも、物件価格はなるべく低いほうが好都合なのです。

 

安く売ると残債が多くなることについては心配無用です。売却価格が低く残債が多額になっても、任意売却後の債務について厳しく返済を求められることはありません。また自己破産により借金を帳消しにするという方法もあるため、残債の多寡をあまり気にする必要はないのです。したがって私を含め、任意売却を依頼された専門家は、基本的には売却価格を低めに設定したいと考えます。

 

しかしながら低めの値段が望ましいからといって、極端な安値をつけることはできません。債権者の同意が得られなければ抵当権を外してもらえず、任意売却は頓挫してしまいます。限られた時間で任意売却を成功させるには、債権者が納得するぎりぎりの安値を読み解くことが欠かせません。

 

この「債権者が納得する価格」はケースごとに異なります。

 

もともと不動産には二つと同じものがないので、妥当な価格を算出するのは簡単なことではありません。周辺で行われた取引事例や路線価、物件の状態などをもとに査定しますが、不動産鑑定士の査定であっても一定の価格差は生じます。

 

また、債権者が納得する価格はそういった査定額とも異なります。金融機関の担当者がつかんでいる「相場」が不動産の専門家が算定するものと同じとは限らないため、任意売却を成功させるためには彼らの「相場観」を読み解き、大きく乖離しない売却価格を示す必要があるのです。相場観は金融機関によって異なる上、担当者によっても差異があります。そのためケースごとに読み解かねばなりません。担当者の人柄を理解し、発する言葉や表情などをヒントにOKしてくれるであろう売却価格を探るのは経験が求められる作業です。

 

「妥当と思える売却価格を算定できたが、金融機関に承諾してもらえず、時間切れで競売になってしまった」というケースは珍しくありません。そうなれば債務者にとって生活再建は非常に難しくなってしまいます。売却価格の設定は任意売却を手がける専門家にとって、もっとも力量が問われる業務の一つなのです。

母のマンション…「万が一の備え」が裏目に出た

◆人ではなく「もの」で返済を保証する物上保証とは

 

押小路さんのケースで問題となったことの一つに物上保証がありました。母親の住んでいるマンションが押小路さんの債務について物上保証の対象となっていたのです。

 

一般的にお金を借りる際の保証というと連帯保証人が思い浮かびます。債務者がもし返済できなくなった場合にはその人物に代わって同等の返済義務を負うのが連帯保証人です。たとえば3000万円を借り入れた債務者が返済不能に陥ったら、連帯保証人には債務の全額を支払う義務が課されます。

 

これに対して物上保証は担保物件を提供することにより、債務を保証するものです。前述のケースで物上保証人が自宅を担保に提供していた場合、債務者が返済不能になれば、物上保証人は自宅を競売にかけられるだけですみます。それ以上の債務を背負うことはないので、保証の範囲は最初から限定されています。債務者が十分な担保を提供できないときに融資が受けられるよう、代わって担保を提供してくれるのが物上保証人なのです。

 

押小路さんのケースでは、700万円の融資に対して金融機関は本人の住む自宅に抵当権を設定するだけでなく、母親が住むマンションにも物上保証として抵当権を設定していました。母親の住むマンションは市場価格にして2500万円以上の価値があったので、そのようにすれば万が一にも債権回収に失敗することはないと考えていたのです。

烏丸リアルマネジメント株式会社 代表取締役

1974年生まれ。大阪府出身。
大学を卒業後、大手ゼネコンで技術者として従事。その後、不動産コンサルティング会社に転向し、実績が認められ代表取締役に就任。そこでの経験を生かし、日本で初となる法律業務も扱う任意売却専門会社「烏丸リアルマネジメント」を設立し、現在に至る。金融機関や士業者からの信頼も厚く、任意売却の専門家として各地で講師も務める。多くのローン困窮者を救ってきた面談は「心のカウンセリング」と呼ばれ、関西圏だけでなく全国からも相談者が後を絶たない。
任意売却コンサルタント、宅地建物取引士、日本アドラー心理学会会員。

著者紹介

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著者 矢田 倫基   監修 矢田 明日香

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