近年では相続税の課税はますます重く、また、これまで許容されていた対策にも規制がかかるなど、非常に厳しいものとなっています。大切な資産を減らすことなく無事に相続を乗り切るには、どのような手段があるのでしょうか。「相続実務士」のもとに寄せられた相談実例をもとにプロフェッショナルが解説します。※本記事は株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

父の会社の社長に収まった弟が、相続全般を取り仕切る

50代女性のNさんが筆者のもとに相談に見えました。Nさんの家系は代々の地主で、父親は貸家や貸店舗を所有する不動産賃貸業を経営していました。Nさんと弟の生みの母親はNさんきょうだいがまだ幼いころに亡くなり、父は後妻を迎えました。Nさんと弟は継母となってくれた後妻に感謝しているとのことです。

 

父親は一家を仕切ってきましたが、晩年は高齢になったことから、賃貸業を弟に任せるようになりました。弟はそれまで会社務めをしていましたが、父親の後を継ぐという名目で会社を辞め、父の跡継ぎとして不動産賃貸業の会社に入社。現在は社長をしています。

 

 

その後、父親は亡くなりましたが遺言書がなく、遺産分割協議をする段階になって不協和音が生じました。相続人は他家に嫁いでいるNさん、実家に住む継母、弟の3人です。継母は一緒に住む弟夫婦に気兼ねがあるようで、相続の手続きを仕切ったのは弟でした。

 

相続関係者

被相続人:父
相続人 :3人(後妻、先妻の子:長女〈相談者〉・長男)

相続手続きを依頼した税理士は、信頼できない印象で…

弟の話では、賃貸業の申告のために父の代から契約している税理士さんがおり、自身も全面的に信頼していることから、相続税の申告もその先生に依頼するとのこと。

 

嫁いでいるNさんからすれば、いまの実家の様子は把握しきれないので、弟が仕切るのは仕方がないと思いつつ、どのように話を進めていいのかわかりません。しかも、弟が依頼した税理士はどうやら相続には慣れていないようで、信頼できない印象です。そこで、筆者のもとへ相談に来られたという経緯がありました。

 

Nさんは、自分が納得する相続をしたい、できるだけ節税して父の財産を残したい、というお気持ちを吐露されました。弟にも筆者を推薦し、申告も依頼をしたいという意向を伝えたそうですが、そこは弟が譲りません。しかし、申告する税理士は遺産分割協議に入ろうとせず、決まれば計算するというスタンスです。そこで、Nさんの依頼により筆者が遺産分割協議のコーディネートをすることになりました。

 

あああ
勤め先をさっさと辞め、跡継ぎとして父の会社に入社。

巨額の節税に成功。しかし強欲すぎる弟は…

☆配偶者の特例を利用するような条件を提示

 

弟は自分が財産の大部分を相続したいようで、継母へは3割程度の財産を相続させるという案を出してきました。Nさんは、苦労をかけた継母に多く相続してもらいたいとの思いがあり、納得できません。それに無税の特例の枠も残っています。筆者は納税の負担を減らすため、配偶者の特例を活かせるように弟の相続を継母へ変更する条件を提示し、受け入れられました。それにより、納税額を約1億円減らすことができました。

 

☆法定割合程度を主張

 

弟は、Nさんには全財産の5%程度の現金ではどうかと提案してきました。納税分も用意するので手取りで数千万円という提示です。しかしNさんは父親が苦労して維持してきた土地を残したいと考えています。会社を辞め、家の財産でのうのうとしている弟に対して信頼できないところがあるともいいます。そこで、こちらは法定割合相当を現金と土地で要望することにしました。

 

☆利用価値のある土地を選択

 

Nさんは実家を離れて久しく、父親の土地の所在の全部は把握できていません。先方の税理士に送ってもらうよう依頼しても送られてこないため、名寄帳(不動産の一覧表)をもとにこちらで調査し、貸し駐車場になっている角地の土地を選択して弟と交渉したところ、かなり難色を示されたものの、最終的には承諾を得られました。現金と合わせて法定割合とすることも承諾をもらえたので、その現金で納税もできました。

 

☆申告期限に間に合わせる

 

遺産分割協議の申告期限が迫っており、間に合わないと未分割の法定割合となることから、税理士からも法定相続分での申告を勧められたようです。弟も長引かせるのは得策ではないと判断したようで、申告期限の前日に調印、当日に申告というぎりぎりのタイミングで納税できたのでした。

遺産分割協議は終了するも、双方に残った「不信感」

実の姉弟ながら、双方が相手への信頼を失っており、遺産分割協議は難航しました。しかし、申告期限が迫っていたため、これ以上争わない選択ができたことは幸いでした。 ともに両親や家を思う気持ちは変わらないのに、本人達の溝は深かったのです。

 

Nさんのメールには、「私の実印は父が作ってくれたものです。その大切な印鑑を、納得いかない書類に押すわけにはいきません。ましてや、相手に対し不信感があるならなおさらです」と書かれていました。

 

そして、「弟には反省してほしい。だれのおかげでいまの自分があるのか、しっかり自覚してもらいたいのです」ともありました。家を継ぐことは、財産を自分のものにすることではなく、もっと重いものであるとおっしゃりたいのだと受け止めました。実の姉弟ですから、この先、わだかまりが解けることを祈るのみです。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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