新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

都心タワマンを買う「パワーカップル」

都心居住が鮮明になっている。

 

今の働き世代は、夫婦共働きがあたりまえだ。夫婦がそろって会社に通勤するわけだから、通勤時間は短いほうが良い。子供が生まれれば、子供の保育園に夫婦のどちらかが送り迎えに行かなくてはならない。会社の近くでなければ生活そのものが成り立たない。だから都心のマンションを買う。マンションの値段は高いけれど大丈夫だ。夫婦とも稼いでいるから、夫婦でそれぞれ35年ローンを組めば何とか返済することは可能だ。

 

互いが年収700万円を超える収入がある夫婦を「パワーカップル」と呼ぶのだそうだ。僕たちはそのパワーカップルなのだから都心部のマンションを購入できる。金利は低いし、税金のバックもあるらしい。マンションを借りるよりも所有したほうが資産にもなるのだから、買っておこう。だいたいが、こんな思考回路で都心マンションを買う。

 

リモートワークの加速が家選び大革命をもたらす。
リモートワークの加速が家選び大革命をもたらす。

 

平成初期までは、このシナリオは成り立たなかった。

 

都心は土地がないし、住宅を買うためには郊外に行かなければ適当な住宅はなかった。現代の働き世代の親の世代は、母親が専業主婦の家が圧倒的に多かった。

 

父親は多額の住宅ローンを背負って毎日途方もない時間をかけて都心にある会社に通い、家を守る母親は、子供を塾だ、学校だ、お稽古ごとだと追いたてて、とにかく子供が「良い学校」を出て、無事「大手の会社」に就職することだけを願い続けたのだった。

 

幸いなことに、親たちには叶わなかった都心居住は、子供の代で可能となった。経済、産業構造の変化で都心部にあった多くの工場がアジアに移転し、土地の容積率も緩和された結果、タワマンと呼ばれる超高層マンションの建築が可能となったからだ。

 

このマンションを買えば、親が経験したような長い通勤も、短くてすむ。すべてが 「会社」のために自らの居住地を会社の近くに設定する、ある意味、合理的な選択の結果ともいえるのだ。

 

リクルートが毎年発表する「住みたい街ランキング」でも、上位10位がいずれも都心部のJRのターミナル駅が選択されている結果を見ても、今の働き世代がいかに「会社に通うための交通利便性」に重きを置いて家を買っているかがわかる。

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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