河川流域の「縦」に延びる街の意外な盲点
2019年10月12日に伊豆半島に上陸した台風19号は、史上稀に見る勢力を保ちながら関東地方から東北地方を縦断していった。この台風の特徴は被害が甲信越地方など広範囲に及んだことであり、大型化する台風やゲリラ豪雨の頻発を見ると、世界の気象変動がのっぴきならないレベルに来ていることを感じざるをえない。
また、この台風がもたらした被害の多くが、同年9月に来襲した15号は強風による被害が多かったのに対して、長時間に及んだ豪雨による水害だったことも特筆される。千曲川をはじめとする一級河川の氾濫は、広域に甚大な被害を及ぼすに至った。
被害を被った多くの住宅は、こうした河川の流域にあるものだ。日本は古来、自然災害の多い国である。国土が狭く、急峻な山地が多いために、河川が短く急流であることが原因だ。こうした国土に住むということは、常に台風や地震といった自然災害との戦いの歴史であったということもできる。
たとえば、東京のブランド住宅地のほとんどは高台にある。古くからのブランド住宅地は武蔵野台地と呼ばれる江戸城(現在の皇居)の西側に形成された。現在の番町、麴町から四谷、牛込付近がその代表だ。また外様大名の多くが武家屋敷を構えた本郷、小石川、麻布、六本木、青山など、邸宅の多くが地盤の良い高台に位置している。
東京は河川が多く、現在、一級河川として多摩川水系、利根川水系、荒川水系、鶴見川水系という4つの水系がある。この水系を中心に92の一級河川が展開し、これに二級河川を含めると都内にはなんと107もの河川が存在し、その延長距離は858kmにも及んでいる。
東京のブランド住宅地の多くが、実はこの河川流域を避けて高台に発達していることは、まさに「台風や地震との戦い」を避けようとする人々の知恵だったのである。
さて翻って現代。住宅地はどんどん郊外部に拡張され、大量の住宅が供給されてきた。そのいっぽうで、土地がありさえすればその土地の歴史を顧みることなく、ただひたすらに住宅を供給し続けてきた感は否めない。
一級河川などの流域はもともと地盤が軟弱なところが多いうえに、洪水などの災害が繰り返し起こっている。立派な建物を建てたところで、川の増水や氾濫を防ぐことにはならない。2015年、横浜市でデベロッパーの分譲したマンションが、杭の一部が地盤に届いていないことで建て替える騒ぎとなったことは記憶に新しいが、このマンションの敷地も鶴見川の氾濫原だったことはあまり知られていない。