新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

通勤客の利便性重視だったはずが……

そのいっぽうで乗り入れ後の休日には、埼玉県方面から大量の観光客が東横線に乗って横浜のみなとみらいに観光に来る。彼らは中華街で食事するようになったが、これも横浜の地元民から見れば、電車の雰囲気が変わってしまった原因のひとつかもしれない。

 

彼らからすれば、毎朝毎夕の通勤時にはなんだか名前もわからない駅での事故の影響で待たされた挙句、休日にはわけのわからない乗客が大量に自分たちの街、横浜に押し寄せてくる。自分たちの電車がそうではなくなったような気分になるのかもしれない。同じ路線上にいろいろな人たちが乗った結果、路線のブランドイメージにも微妙に変化が生じたのである。

 

東横線の東京メトロ副都心線への乗り入れは、もう一つの副産物をもたらした。渋谷駅を地下化してしまったために、横浜から渋谷に買い物にやってくるお客様が、そのまま副都心線に揺られて新宿三丁目の伊勢丹に行くようになってしまったのだ。地下深くに潜ってしまった渋谷駅で降りて地上に出るよりも、伊勢丹なら駅直結である。渋谷は終着駅、乗換駅ではなく単なる通過駅に堕してしまったのだ。意外なポイントで人の流れは変わってしまうのである。

 

東急は渋谷に新しい複合施設「ストリーム」など大型商業施設を開業して、通過してしまったお客様を途中下車させようと躍起になっている。

 

それにしても以前、関西の大手私鉄会社の役員と話をしたときの記憶が蘇る。

 

「東京の電車はなんであんなに乗り入れ好きなんやろな。うちは絶対地下鉄にはつなげまへん。だって梅田でお客さん降ろさな、百貨店がもうかりまへんやろ」

 

通勤客の利便性重視ではじめたはずの鉄道相互乗り入れ、足元がぐらつく中、どうやら線路の足並みも乱れてきたようである。

 

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

 

不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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