新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

相互乗り入れで「時刻通りに来ない」電車

おかげで日吉駅に立って電車を待つとやってくる電車の行先に戸惑うこととなる。

 

「小手指」は「こてさし」と読むが、横浜市内の駅でも東京の駅でもない、西武池袋線の埼玉県内の駅である。小手指以外にも「川越市」「石神井公園」「清瀬」「森林公園」「飯能」など、東横線で計16もの行先がある。目黒線も「鳩ヶ谷」「王子神谷」「西高島平」など行先は9つに及ぶ。相当の地理オタクでなければ安心して電車に乗れるレベルではない。

 

田園都市線も負けていない。たまプラーザ駅から渋谷方面の電車に乗ろうとすると、行先は「南栗橋」だったり「東武動物公園」だったりする。行先は計13もあるのだ。

 

毎日の通勤通学ならどの行先でも東京都心に向かえればよいので気にならないだろうが、地方や他県から来た人はちょっとドギマギしてしまうのではないだろうか。

 

 

それにしても、どうしてこんなにたくさんの鉄道路線と乗り入れをすることになってしまったのだろうか。もともと東京の山手線の内側は私鉄が乗り入れできず、必然として東京メトロと都営地下鉄が乗り入れるというのが首都圏の鉄道網だった。郊外部の人口が激増した時代、このままだと渋谷や池袋などのターミナル駅がパンクしてしまうために、地下鉄に乗り入れて直接通勤できるようにしたのが背景だ。

 

鉄道各社にとっては駅の混雑のみならず、直通にすれば折り返し車両が主要駅に滞留しないためダイヤに余裕ができ増発が可能となる、また車両の効率的な使用が実現され、地下鉄と接続することで駅を地下化でき、地上部を再開発できるなどのメリットがあった。

 

相互乗り入れでトラブル続出に頭を悩ます鉄道各社。
相互乗り入れでトラブル続出に頭を悩ます鉄道各社。

 

ところが、あまりに多くの路線とつなげてしまったことから起きるトラブルに、鉄道各社は悩まされることとなる。

 

東横線は、乗り入れ以前は遅延の少ない優等路線だった。ところが乗り入れ先での踏切事故、人身事故、電車の故障、酔っ払いの転落など、接続先で発生する、ありとあらゆるトラブルの影響を受けるようになって、むしろ「時刻表通りには来ない」電車に看板がすげ替わってしまったのだ。またこれまでは渋谷が始発で座って通勤できたサラリーマンは、どこから来るとも知れない電車は既に満席で、立って通勤する環境変化に口を尖らせた。

 

田園都市線も各社の車両がごった煮で乗り入れてくるので、ただでさえ毎朝毎夕のラッシュ時には電車がつかえて遅延していたのが、さらに状態は酷(ひど)くなった。また路線の老朽化から車両故障が頻発するなど利用者からの苦情が一気に増えたという。

 

通勤通学客のほとんどにとって、東京都心部まで1本の電車で通えるのはおおいにメリットがある。ところが、そこから先、小手指や森林公園に用事がある人は少なかろう。横浜の人が埼玉県や千葉県に用事で出向くことも少なそうだ。

次ページ通勤客の利便性重視だったはずが……
不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

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