新型コロナウイルス感染症の影響下での証券化・資産流動化の意義と利用可能性

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2020/5/7号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

1. 総論

証券化・資産流動化は、企業が保有する資産のうち金銭債権などの一定の資産の価値のみを引当てとする資金調達(資産金融型資金調達)の代表的な手法です。日本では1990年代から資金調達の手法として用いられているものですが、近年は長らく低金利の状態が続いており、証券化・資産流動化などの仕組みを要する手法を用いないでも企業が有利な条件で資金調達を行いやすい環境にあることなどから、必ずしも証券化・資産流動化のメリットが活かしにくい状況にありました。

 

もっとも、近時の新型コロナウイルス感染症の影響により、企業の財務状態や金融市場・資本市場の状況が変動するなか、証券化・資産流動化の手法を活用することにより、企業による資金調達や金融機関による金融資産のリスク管理・ALM(Asset Liability Management)が行いやすくなる場面があると考えられます。本稿では、新型コロナウイルス感染症の影響下において、証券化・資産流動化の利用可能性が想定される場面を解説します。

 

コロナにより、証券化・資産流動化の利用可能性に変化
コロナにより、証券化・資産流動化の利用可能性に変化

2. 資金調達手法の多様化

資金調達を行う企業にとっての証券化・資産流動化によることのメリットとしては、まず、引当てとなる資産の価値やスキーム上の仕組み次第で、自らの信用力では金融機関からの資金調達を行うことができないような企業が資金調達を行うことが可能となったり、企業の信用力による一般的な資金調達よりも有利な条件で資金調達を行うことが可能となったりする場合があることがあげられます。

 

また、企業に対して融資を行う金融機関と証券化・資産流動化によって組成させる金融商品に対する投資家とでは、資金を提供する主体が異なることから、証券化・資産流動化を利用することにより、企業は資金調達先の多様化を図ることができます(同一の金融機関が投融資を行う場合でも、企業に対する融資と証券化商品に対する投資とでは、資金の枠や投融資の基準が異なることもあり、その場合も証券化・資産流動化の利用により企業にとって資金調達の可能性を広げることになります)。

 

新型コロナウイルス感染症の影響により企業活動が停滞し、財務状態が著しく悪化した場合、金融機関からの借入れによって資金を調達したり、株式・社債を発行することで資本市場から資金を調達したりすることが困難となることが想定されます。また、企業の財務状態が資金調達を行うことができないほど悪化していないとしても、経済環境が一般的に悪化することで金融機関の側の貸出余力が低下したり、金融市場・資本市場の混乱が継続することで市場での株式・社債の発行が困難となったりすることにより、企業が従来利用していた借入れや株式・社債の発行による資金調達手法が機能しなくなる可能性があります。

 

新型コロナウイルス感染症の影響が生じる以前の状況ではありますが、近年、日本の証券化市場においては投資家の需要に比して証券化商品の供給が少ない状態が続いています。また、金融市場・資本市場の状況にかかわらず、一定額の投資運用を実行しなければならない機関投資家も存在します。証券化・資産流動化による資金調達は引当てとなる資産があることが前提であり、あらゆる企業が利用できる資金調達手法というわけではありませんが、売掛債権、リース債権、クレジット債権、貸付債権などの一般的な証券化・資産流動化の対象となる資産以外の資産を利用することや、将来発生する債権を引当てとすることなども含めて、資金調達に利用可能な金銭債権などの資産を保有する企業にとっては、証券化・資産流動化による資金調達に取り組むことにより、資金調達手法・資金調達先の多様化を図り、むずかしい環境下でも資金調達の可能性を高めることができると考えられます。

3. CLOによる資金の出し手の拡張とリスク分担

新型コロナウイルス感染症の影響で経済環境が一般的に悪化することにより、企業の資金調達ニーズが高まる一方で、貸出余力が低下する金融機関が現れることも想定されます。そのような状況の下で、資金の出し手となる当事者の範囲を広げるとともに、企業の信用リスクを分担する方法として、CLO(Collateralized Loan Obligation)と呼ばれる貸付債権の証券化のスキームが考えられます。

 

このスキームにおいては、証券化の対象とすることを前提に特定の金融機関が貸付け(あるいは私募債の引受け)を行うことによって多数の企業に資金を供与し、同時にこの貸付債権(あるいは私募債)を引当てとして証券化取引を行うことによって、実質的に企業が資本市場から資金を調達することが想定されます。

 

従前より、日本政策金融公庫が中小企業向けの貸付債権を対象資産とし、証券化支援業務の一環としてCLOのスキームを組成していますし、過去には地方自治体が地域の中小企業を対象とするCLOのスキームを主導した事例もありました。経済環境が悪化した状況の下で、官民を問わずこのような取組みを活用することにより、資本市場を通じて企業への資金の出し手の範囲を広げ、信用リスクの分担を図ることが考えられます。

 

なお、このようなスキームは、組成される証券化商品に対して投資家が投資を行うことができることが前提であり、引当てとなる貸付債権について一定の信用力が備わっていることが必要となりますので、信用状態が大幅に悪化した企業の資金調達にはつながりにくいといえます。もっとも、ある程度の数の企業を対象とする貸付債権をプールとして引当てにすることにより分散を効かせたり、優先劣後構造など信用補完・流動性補完の仕組みを施したりすることによって、CLOの対象となり得る企業の幅を広げることも可能と考えられます。

4. 金融機関のリスク管理・ALMでの活用

証券化・資産流動化の手法は、保有する資産そのものや資産に関するリスクを外部に移転することにより、リスク管理やALMの一手段として利用することも可能となるものです。

 

貸付けを行っている金融機関の視点からは、新型コロナウイルス感染症の影響で経済環境が悪化することによって、保有する貸付債権の回収可能性が低下し、不良債権が増加することが想定されます。このような局面でも日本経済のために金融機関には積極的な融資姿勢が期待されるところですが、一方で、健全性を確保する観点からリスク管理やALMをいっそう充実させることも必要となると考えられます。

 

そのための取組みの一つとして、 金融機関が余剰債権・不良債権をバルクセールによって処分することがあり得ますが、処分先の範囲の拡大や債務者との関係の維持などの観点から、単純に売却をするのではなく、これらの債権を引当てとした証券化・資産流動化を実行することも考えられます。実際にバブル崩壊後の不良債権処理のなかでは、その一環として不良債権の証券化が取り組まれた事例もありました。また、主に銀行のリスク管理の目的で、クレジット・デリバティブなどを用いたシンセティックCLO(あるいはシンセティックCDO〔Collateralized Debt Obligation〕)と呼ばれる証券化取引が組成されることもあります。

 

このように新型コロナウイルス感染症の影響下では、資金調達の文脈とは別に金融機関のリスク管理・ALMの観点からも、証券化・資産流動化の手法の利用可能性があると考えられます。

5. 終わりに

本稿で解説した証券化・資産流動化の手法はいずれも新しい類型の取引ではなく、実際に実施されている、あるいは過去に実施されたことのある取引です。もっとも、新型コロナウイルス感染症による経済環境の変化により、改めてその意義や利用可能性を検討し、有用性が認められる場合には、このような取引を積極的に実行して、資金調達や健全性の維持に活用すべきものと考えられます。

 

 

有吉 尚哉

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2001年東京大学法学部卒業、2002年司法修習終了(55期)、2010年〜2011年金融庁総務企画局企業開示課専門官、2013年~京都大学法科大学院非常勤講師、2018年~武蔵野大学大学院法学研究科特任教授。

【主な著書等】
『債権法実務相談』(共編著、商事法務、2020)、「自己信託と債権譲渡の競合に関する一考察」『民法と金融法の新時代』(慶應義塾大学出版会、2020)、『ファイナンス法大全〔全訂版〕(上)・(下)』(共編著、商事法務、2017)、『ここが変わった!民法改正の要点がわかる本』(翔泳社、2017)、『資産・債権の流動化・証券化〔第3版〕』(共編著、金融財政事情研究会、2016)

著者紹介

連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター

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   有吉 尚哉

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