東京大学を卒業した杉山宗志氏は、福島県いわき市を中心に展開する「ときわ会グループ」にて、病院の事務方として働いている。新型コロナウイルス感染拡大によって不安が広がるなか、現場からの声を聞いた。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

非常勤医師の声「同僚がPCR検査陽性だった…」

筆者が勤務する福島県いわき市の病院には、東京との二拠点生活をしている医師がいます。20名ほどいる常勤医師のうち約3割が、週末は都内で家族と過ごし、平日はいわきで仕事をするというスタイルです。

 

いわきは、東京から特急や車で約2時間半の位置にあります。毎日通うとなると大変ですが、東京と行き来しながらの生活は十分に可能です。しかし、今回のコロナウイルスによって、突発的な対応が多くなっています。都内からの医師が継続して勤務できるか不透明な状況になっており、大きく調整が必要になることが想定されます。

 

ここで活躍するのが、「医局秘書」です。医局秘書は、医師事務作業補助者と違い、患者さんと交差することはほとんどありません。医師が勤務するための下支えをしています。

 

先日は、非常勤医師から医局秘書のもとに、「同僚がPCR検査陽性で、自分が濃厚接触者であることがわかった」との連絡が入りました。その非常勤医師は翌日、いわきでの診療があったのですが、来ていただくことは難しくなり、すでに予約が入っていた患者さんの診察をどの医師にお願いするか、奔走することになりました。結局、非常勤医師は症状もなく、PCR検査の結果も陰性であるとすぐにわかったため、担当が専門的診療であることも考慮し、勤務していただくことになりました。

 

このようなケースが増えてきてしまうと、混乱が生じたり、負担が一部に集中したりすることが予想されます。患者さんも、受診の予定が変わってしまい、不安になりかねません。様々なパターンを想定し、すぐに調整ができるように準備する必要がありますし、どうしても空いてしまいそうな穴があれば、どう対処するかも考えておかなければなりません。そんなとき、医師とすぐに連絡を取りあえる医局秘書が、陰で活躍しています。

 

現場に混乱が生じないよう、「いつ」「どの部屋で」「誰が」「何の診療を行うか」を事前に調整し、院内すべてのスタッフにわかるような担当表を作成しています。そしてその内容に合わせ、デスクや院内で使うPHS、宿泊先の手配などを行います。

 

勤務当日は到着時点から診療が終了して帰るまで、全体を案内します。「初めて勤務に来たのですが…」と不安げな方もいらっしゃるので、賑やかなスタッフがお迎えしています。
 

非常勤医師の多くは、日帰り、もしくは一泊二日で、都内から来ます。泊まりで来る医師にとっては息抜きにちょうどいいようで、「家内に怒られなくて助かる」との声も聞こえてきます。医師が足りない地域ですので、常勤医師がいない科の診療や、常勤医師だけでは対応しきれない当直など、非常勤医師には多大なお力添えをいただいています。

 

当院の院長も二拠点生活をしている医師のうちの一人です。月曜の午前中は首都圏の病院で手術、そのまますぐ移動→午後3時前にはいわきに到着、土曜まで仕事→その日のうちに都内の家族のもとへ戻る…という生活をしています。「いわきと東京の間を移動するのは、ちょっとそこまで、という感じ」と話します。

 

都内から十分に来られるとはいえ、長い距離の移動です。患者さんをスムーズに流すことも重要ですが、医師のスムーズな勤務をコーディネートすることも重要です。「せっかくここまで来たのに」というようなことが起こったとすると…変な汗が出てきます。

 

「同僚がPCR検査陽性で、自分が濃厚接触者であることがわかった」
「同僚がPCR検査陽性で、自分が濃厚接触者であることがわかった」

「都内在住の医師が来れなくなった」対応はどうなる?

さて、医局秘書は事前に綿密な調整をして医師を診療につなげますが、ときには突発的な対応が必要となることがあります。たとえば、電車の遅延です。

 

都内から医師が特急に乗って向かってくるわけですが、天候が悪いときなど、電車が遅れてしまうことや、動かなくなってしまうことは珍しくありません。遅延情報を集め、状況を院内に都度伝えます。

 

電車が動く見込みがまったくないと、社用車で送迎することもあり、この場合は医局秘書だけでなく総務など事務方全体で対応することになります。たとえば、台風が来るときは「診療があるとはいえ、都内からの医師には休診していただくべきなのではないか」といった判断が病院に求められます。医局秘書は判断に応じすぐに連絡を回します。

 

 

医局秘書はそのほかにも、保健所や医師会といった外部からの情報周知や、面会アポイント調整も行いますし、研修や見学に来た方の案内を行うこともあります。院長は、時代劇の仮装をして高齢者宅を月一回訪問する活動をしていますが、その衣装の発注、管理もしています。「今月、水戸黄門!」という院長の一言だけで、当日、衣装が揃います。

 

医師との関わりが中心となりますが、気難しい方も少なくありません。また、院内外からの問い合わせはひっきりなしに入ります。連絡をこまめに取り、必要に応じて調整をする仕事であるため、どんな相手でも適切にコミュニケーションを取れる能力が要求されます。病院にもこういったスタッフがいることは、案外、知られていないのではないでしょうか。

 

 

杉山 宗志

ときわ会グループ

 

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