加速する「内視鏡分野」のAI開発…中国、驚愕の研究結果を発表

仙台厚生病院消化器内科の齋藤宏章医師は、内視鏡系のAI開発を進めているAI medicalのグループと共に内視鏡系のAI研究に携わっている。自動翻訳、自動運転などここ数年で日常生活でもAIの恩恵が得られるようになったなか、「中国のAI開発は目を見張るものがある」と同氏は語る。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

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中国「20人の消化器病専門医に匹敵するAI」を開発

◆1000万枚の画像を収集し、研究結果を報告

 

中国で行われた、衝撃的な研究の結果が2019年に消化器病の一流誌『Gastroenterology』に報告されている(1)。2年間にわたり77の施設で集めた1134万枚のカプセル内視鏡の画像を用いてAIを教育、その結果を検証したというものだ。

 

開発されたAIは、集められた20人の消化器病専門医の読影結果と同等の成績を収め、人間のおよそ16分の1の時間で解析を終了したという。これまでの研究では多くても4万枚ほどを利用していた。いかに、中国で大規模な研究が行われているかがわかるだろう。

 

日本と同じように、中国も胃ガンの患者数が非常に多い国の1つだが、胃ガンの診断に関しては2019年の12月に医学誌『Lancet Oncology』に8万人の計100万枚を超える内視鏡画像から構築したAIの成果を報告している(2)。

 

過去に撮影した内視鏡画像をもとにAIの構築や検証を行う研究が多いなかで、中国はすでに、実際にAIを搭載した内視鏡での結果を報告している。たとえば、2020年4月に『Lancet Gastroenterology & Hepatology』で報告された研究である。

 

この研究では、大腸カメラの引き抜き時のスピードを監視する「ENDOANGEL」と呼ばれるAI内視鏡支援ソフトを使った場合には、使わなかった場合と比べて、2倍以上に大腸ポリープを検出できていた(3)。

 

論文の質や結果は必ずしも数によらない、とはいえ、中国からは短期間に既に多くの大規模な研究が報告されており、内視鏡分野のAI研究が驚くべきスピードで進んでいることが伺える。

 

医療現場の声
医療現場の声

「日本のお家芸」の分野ですさまじい活躍を見せる中国

◆3年で10倍以上の研究報告

 

筆者がAIの研究に関わったのは2017年の秋頃からだが、状況が激変したのは、この3年間ほどのことだ。

 

2018年の秋に筆者はウィーンで開催された欧州消化器病週間に参加した。内視鏡のセッションでAIによる研究の報告が行われたが、部屋は聴衆で寿司詰め、満員状態であったことを覚えている(発表は日本のグループとドイツからの報告だったと記憶している)。新しい技術の到来に、会場は熱気に包まれていた。
 

内視鏡などの消化器内科の分野におけるAI研究の隆盛を、アメリカ消化器病週間(Digestive Disease Week、通称DDWと呼ばれる)という消化器系で最大の国際学会を例に考えてみよう。この学会では、世界各国から発表の応募が行われ、審査のもと、厳しい倍率を勝ち抜いた研究だけが発表される。

 

DDWで過去に発表された演題のうち、AIを使用した研究を調べると、2017年はたった5つの発表のみであったが、2018年には25の研究が、2019年には55の研究が発表されており、この3年間で報告研究数が実に10倍以上となっている。

 

この分野では、日本からも2018年に10、2019年に20の発表が行われ、それぞれの年度の4割程度を占めている。主に内視鏡画像の分析を行った研究が報告されている。

 

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実は、医療分野のなかでも胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡は日本のお家芸の1つとされていた。日本人は胃ガン・大腸ガンが多く、早くから内視鏡の治療が発達してきたためだ。医療機器では珍しく、オリンパスや富士フィルム、ペンタックスの日本の企業3社が世界の内視鏡のほとんどのシェアを占めている。

 

国際学会では内視鏡に関わるAIの研究結果を発表している日本の研究者は多い一方、上述のように、国際学会での発表のみならず論文の出版数などを考慮すると、ここ数年で中国の躍進がすさまじい。

 

主に論文などの科学的出版物のデータベース『Scopus』で「AI ニューラルネットワーク」と「内視鏡」というキーワードで検索を行うと、2015年から2020年までに出された文献数は米国の103に続き、中国の84、日本の78と続く。対象を原著論文に限るとトップは中国の48件で、次に米国42、日本37となる。

 

中国からの研究で目に止まるのは、大規模な報告をレベルの高い医学雑誌に報告しているということだ。中国をはじめ世界の研究は恐るべき勢いで加速している。潮流に乗り遅れないためには、国内のみにとどまらず、国際的な研究を進めていく必要があるだろう。

「暗黒の臓器・小腸」日本の最新研究はどうか?

◆万単位の画像を読影するAIの研究

 

最近では日本の全国学会、地方の学会でも内視鏡のAIに関連する研究を見聞きする機会が増えてきた。AI研究はより身近な存在になりつつある。

 

実際日本では、小腸内視鏡カプセル診断におけるAIの研究に、東京大学、広島大学、そして筆者の所属する仙台厚生病院が関わっている。これらの施設は全国でも小腸カプセル内視鏡検査を多数行っているためだ。

 

かつて小腸は「暗黒の臓器」と呼ばれていた。全長約6mの管を検査するすべがなかったからである。ここに登場したのが、小腸カプセル内視鏡である。カメラが搭載された小さなカプセルを飲み込み、身体の内側から写真を撮影することで、これまでにわからなかった小腸の病変を検出できるようになった。

 

小腸カプセル検査とAIは相性がいい。AIの特性は、多量のデータを瞬時に解析することができることにある。小腸カプセル内視鏡検査は1人当たり約6万枚もの画像を撮影する。医師は撮像されたすべての画像を確認しなければならず、1時間以上かかることもある。

 

小腸の病変はそのうちの1、2枚の画像のみに写っている、ということもしばしば存在する。この負担をAIによってサポートできないか、研究を進めているわけだ。

 

これまでにグループから小腸カプセル内視鏡に関わる研究結果がいくつか論文として発表されている。筆者も一部の研究を担当し、今年の4月にはポリープなどの隆起性病変を検出するAIの成果が、内視鏡の国際雑誌である『Gastrointestinal Endoscopy』という雑誌に掲載された。この研究では、17507枚の画像を1枚あたり0.03秒の速さでAIは解析できた。驚異的な数字だ。

 

AIという言葉の華々しさとは裏腹に、実際の解析は万単位の画像の一枚一枚を医師が検証し評価する作業が必要であり、案外泥臭いものである。今回の研究でも、共同研究者とともに何回もミーティングを重ね、作業を分担して行い、結果に至った。時には検証のため、再度1万枚以上の画像を見直す必要があることもあった。

 

AIの研究は多数の画像を必要とするために、複数の機関で協力して研究することが必要であり、AIに精通しているエンジニアや、研究のノウハウも必要である。まさに他施設連携、異業種連携の総力戦である。

 

 

(1)    Gastroenterologist-Level Identification of Small-Bowel Diseases and Normal Variants by Capsule Endoscopy Using a Deep-Learning Model, Gastroenterology 2019;157:1044-54 e5

 

(2)    Real-time artificial intelligence for detection of upper gastrointestinal cancer by endoscopy: a multicentre, case-control, diagnostic study 2019;20(12):1645-1654

 

(3)    Detection of colorectal adenomas with a real-time computer-aided system (ENDOANGEL): a randomised controlled study. 2020;5(4):352-361

 

 

齋藤 宏章

仙台厚生病院消化器内科 医師

 

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仙台厚生病院消化器内科 医師

福岡県福岡市出身。福岡県立修猷館高校、東京大学医学部医学科卒業。
現在は宮城県仙台厚生病院消化器内科に勤務し、内視鏡をはじめとする消化器内科疾患全般の診療に従事。2019年より福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座博士課程にも所属している。

AIをはじめとする、内視鏡診断・治療に関わる研究や、消化器系のがん検診の実態と課題の解明に関わる研究、製薬企業の医師に対する謝礼金の実態を分析する研究など、医学領域の研究に広く取り組む。

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

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