欧州委員会が公表した新型コロナ対応への競争法上の判断枠組み

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『企業法務ニューズレター(2020/4/14号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

 

※本ニューズレターは2020年4月12日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

世界中の企業が新型コロナウイルス(COVID-19)への対応に追われるなか、当事務所の2020年4月2日付けニューズレター(https://www.jurists.co.jp/sites/default/files/newsletter_pdf/ja/newsletter_200402_corporate.pdf)でも解説した米国の競争当局に加え、カナダ、EUの競争当局や各国の競争当局で組織されているネットワークでも相次いで競争法上の判断枠組みについての資料を公表している。

 

世界各国の競争当局が組織しているInternational Competition Network(ICN)は、2020年4月8日、COVID-19対応のために必要な範囲かつ期間に限定された協業であれば消費者の保護や不足物資の供給に資する旨や、各国当局が緊急事態に応じた特別な考慮について透明性を確保することの重要性等を指摘している(https://www.internationalcompetitionnetwork.org/wp-content/uploads/2020/04/SG-Covid19Statement-April2020.pdf)

 

また、カナダの競争当局も、2020年4月8日、迅速な相談対応を行うためのチームを設置し、緊急事態に対応するために必要な範囲の限定的な取組みとすることを条件に協業を許容する可能性等を説明している(https://www.canada.ca/en/competition-bureau/news/2020/04/competition-bureau-statement-on-competitor-collaborations-during-the-covid-19-pandemic.html)

 

さらに、欧州委員会も、2020年4月8日、COVID-19対応のための協業に対して一時的に(欧州委員会が取り下げるまでの間)適用する判断枠組みを公表した(https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/framework_communication_antitrust_issues_related_to_cooperation_between_competitors_in_covid-19.pdf)

 

COVID-19対応のために必要な範囲かつ期間に限定された協業
欧州委員会も、COVID-19対応に対応する一時的な判断枠組みを公表

 

欧州委員会は、必要な範囲を超えた情報の競争事業者間での還流・交換等が起こらないことを前提に、以下のような取組みであれば、競争法上の懸念は生じないとの例示を行った。

 

●原材料・投入物の共同配送

●将来の生産予測に照らして不足が見込まれる重要な医薬品・医療物資の識別作業

●個社情報を交換しない形での生産量及び生産能力に関する情報の集約

●EU加盟国レベルでの需要予測のためのモデル作りに取組み、供給ギャップを識別すること

●供給ギャップに関する情報を共有し、個社の判断で、かつ競争事業者と情報を交換しない形で、(既存在庫又は生産量の拡大を通じて)需要に応えるために当該供給ギャップを充足できるかを表明してもらう取組みへの参加を求めること

 

また、生産、在庫管理及び流通に関する施策は、商業上センシティブな情報の交換や、医薬品や医療物資を生産する拠点間の協調を伴う可能性があるところ、平時では、そういった行為は競争法に抵触し得る。他方で、緊急時には、以下の条件を満たす限り、その緊急性・時限性に鑑みて、欧州委員会にとって執行の優先的な対象となるものではないとも指摘している。

 

①COVID-19の患者対応のために仕様される重要な商品役務の供給不足に対処し、又はこれを避けるために最大限効率的な手段として実際に生産量を増大させることを指向し、かつ、客観的に必要な措置となっていること。

 

②一時的な措置であること(すなわち、物資不足が生じるおそれがある期間又はCOVID-19が蔓延している期間に限って実施される措置であること)。

 

③供給不足に対処し、又はこれを避ける目的を達成するために厳格に必要な範囲を超えない措置であること。

 

そのうえで、協業が公的機関により推奨され、又は公的機関と協調して行われるものである場合は、そのような事実も、協業が競争法に違反しない又は欧州委員会にとって執行の優先的対象とならないことを支える一事情となり、また、公的機関によって強制されて一時的な協業を行うことは端的に競争法上許されるとも説明している。注意するべきは、ここでは価格面での協調はいかなる意味でも許されていないことである。

 

なお、協業の参加者は、欧州委員会の求めに応じて提供できるよう、やり取りや、協業の取決めを書面化しておくべきである旨も指摘している。

 

さらに、欧州委員会は、COVID-19対応に必要な医薬品や医療物資の不足に対処するための協業に関する個々の相談については、アドホックにコンフォートレター(comfort letter)を発行することで、法的安定性の確保に努めることを表明している。

 

日本でもすでに医薬品の安定供給のために医薬品卸売業者間での共同の取組みが公表されるといった動きが見られている。公正取引委員会が東日本大震災との関係で公表した考え方に加え、こうした海外当局が提示した考え方のエッセンスも踏まえながら、適切な形で、タイムリーに協業を設計・実行していくことが望まれる。

 

 

川合 弘造

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

角田 龍哉

西村あさひ法律事務所 弁護士

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

1984年、東京大学法学部(LL.B.)卒業。1993年、Columbia University School of Law(LL.M., EC Law, magna cum laude)卒業。1994年、Katholieke Universiteit Leuven(LL.M.)卒業。1988年、第一東京弁護士会登録。1997年、同会再登録。1984年~1985年、東京大学法学部 助手として勤務。1994年~1995年、Cleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP(ブラッセル)勤務。1995年~1997年、通商産業省通商政策局通商協定管理課 課長補佐。2002年~2004年、工業所有権審議会 臨時委員(弁理士試験試験委員)。2003年~2013年、産業構造審議会 臨時委員(WTO部会不公正貿易措置小委員会)。2006年~2015年、東京大学法科大学院 非常勤講師。2016年~2019年、司法試験 考査委員(経済法)。2018年~、日本経済再生本部「未来投資会議の地方施策協議会」委員。2019年~、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会 専門委員。

【主な著書等】『M&A法大全(上)(下)[全訂版]』(共著、商事法務、2019年1月)、『条解 独占禁止法』(共編著、弘文堂、2014年12月)、『論点体系 独占禁止法』(共著、第一法規、2014年6月20日)、『会社を危機から守る25の鉄則』(共著、文藝春秋、2014年5月20日)、『体系グローバル・コンプライアンス・リスクの現状』(共著、きんざい、2013年10月)、『エネルギー投資仲裁・実例研究-ISDSの実際』(編者、有斐閣、2013年9月28日)、『知的財産法概説<第5版>』(共編著、弘文堂、2013年7月)、『ビジネスパーソンのための企業法務の教科書』(共著、文藝春秋、2012年5月20日)、『ケースブック WTO法』(共著、有斐閣、2009年7月21日)、『西村利郎先生追悼論文集―グローバリゼーションの中の日本法―』(共著、商事法務、2008年10月15日)、『企業法務判例ケーススタディ300【企業組織編】』(共著、金融財政事情研究会、2008年1月10日)、『独占禁止法の争訟実務 違反被疑事件への対応』(共編著、商事法務、2006年10月13日)

著者紹介

西村あさひ法律事務所 弁護士

2011年、慶應義塾大学法学部(LL.B.)卒業。2013年、東京大学法科大学院(J.D.)卒業。2014年~、東京大学法科大学院 未修者指導講師として勤務。2014年、第二東京弁護士会登録。

【主な著書等】『企業法制の将来展望-資本市場制度の改革への提言-2020年度版』(共著、財経詳報社、2019年12月)、『会社法実務相談』(共著、商事法務、2016年11月)

著者紹介

連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター

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