40代半ばで延滞金清算のため超大手を退職したAさん
Aさんのプロフィール
性別:男性
年齢:44歳
家族構成:妻と子ども1人
業種:機械メーカー年収:600万円
投資の動機:年金対策
●「管理費と修繕積立金」を無視した収支計画で経営し、気づけば赤字で差し押さえ寸前
誰もが知る大手機械メーカーに勤めるエンジニアであるAさん。そのため、以前から頻繁にさまざまな営業の案内が携帯電話にかかってきていました。
しかし、三交代制で深夜に働くこともあり、普段から多忙を極めていたので、そのほとんどは適当に断っていたそうです。
そんなある日、たまたま夜勤明けで気持ちがリラックスしているときに、営業の電話がかかってきました。中古ワンルームマンション投資の案内です。最初はすぐに断ろうとしていましたが、家族構成を聞かれて、思わず小学生の子どもがいると答えてしまいました。そのときです。
「私立中学への入学は考えていませんか? お金かかりますよね? 老後が心配ではありませんか?」
この質問に心臓が「ドキンッ!」と鳴ったそうです。なんとなくですが、言われたとおりの不安を抱え始めていたのです。
そこから話はとんとん拍子に進みました。まずは都内の1戸を購入。そして、半年後に「2戸目を買えば老後の収入は2倍になりますよ」と言われて、同じく都内の物件を即決購入。
当時はとにかく忙しかったので、2戸とも現物を見ることなく決めました。
その後は物件オーナーであることを忘れてしまう日々。販売会社と一括借上契約を結んでいたため、普段何もしなくても毎月一定額が振り込まれるので、オーナーである実感がほとんど持てなかったのです。
そのまま数年が経ったある日。突然、マンションの管理会社から電話がかかってきました。管理費も修繕積立金も滞納しているというのです。
実は、このことには自分でも気づいていました。それでも支払っていなかった理由は、毎月の収支が当初予定していた以上の赤字で、払いたくても払えなかったからです。
当初の収支計画では、家賃からローン返済を差し引いた金額がプラスマイナスゼロでした。
「これなら損をしない。なんてお得な買い物なんだ」。Aさんは、自分が成功者になれると確信したそうです。
しかし、そこに落とし穴がありました。その収支計画に管理費と修繕積立金が入っていなかったのです。
このことを知ったのは、最初の契約直前に担当者から重要事項の説明を受けたときです。金額は毎月1万円程度。そのときはすでに買う気持ちが盛り上がっていたので、それくらいなら給料から払おう、と気にしなかったそうです。
ところがです。数年経って一括借上契約の更新を繰り返していくうちに、いつの間にか家賃が1万円も下がっていたのです。しかも、2戸ともです。その結果、毎月の収支はプラスマイナスゼロから2万円の赤字に転落してしまいました。
この2万円だけは何とか払おう。そう考えているうちに、だんだんと管理費と修繕積立金のことは無視するようになり…。
さらに数年後、管理費と修繕積立金の未納額は合計240万円に達していました。この状態になったら家に督促状が来るのは当たり前で、管理会社からの電話も自宅、携帯の両方に昼夜問わずかかってきます。その結果、奥さんにも未納がバレてしまいました。大激怒です。
●多額滞納者では大金の融資は望めず、大手企業を辞めて退職金を返済に充てることに
私たちがAさんに出会ったのはこの時点でした。もう差押え直前の状態です。彼は疲れ切った表情で「赤字経営なので2戸とも売却したい」と相談に来たのです。
所有する物件を調べると、両方とも23区内にある人気物件でした。すぐに買い手は見つかるはずです。そこで仲介契約を結ぶために頻繁に連絡を取っていると、段々と電話に出てくれなくなりました。仕事で多忙な方だったので、最初は仕方ないかな、と思っていたのですが、あまりにも出ないことが多すぎます。
そこで奥さんにも手伝ってもらって、やっと連絡が取れました。すると─。
「すみません。実は管理費と修繕積立金の滞納額が240万円ほどあるんです…」
私たちはこの事実を知りませんでした。どうやら売却に不利な条件なので言い出しにくかったようです。
これで状況は一変しました。滞納額を清算しないと売却できないからです。
事態は深刻でした。これらの物件は借上契約を結んでいました。この契約は借地借家法が適用されるので、一般の人が入居するのと同じく、借りた側が守られるようになっています。そのため契約の条件として、更新日以外の解約には家賃6ヵ月分の違約金が発生することになっていました。
また、35年ローンのうち10年しか経っていないがゆえに、売却金額を差し引いても多額の残債があります。
これらを合計すると、Aさんが売却のために用意しなければならない現金は次のようになりました。
一括借上契約違約金:8万円(家賃)×6ヵ月分×2戸=96万円
管理費・修繕積立金滞納:240万円(2戸分)
ローン残債:160万円(2戸分)
合計:496万円
2戸売却してもなお、約500万円の現金が必要だったのです。すでに管理費などを滞納している人に、これだけの大金を融資してくれる金融機関はどこにもありません。
私たちも買い手探しには力を尽くしましたが、これだけ悪い条件がそろった人にお金を工面する方法を提案することができませんでした。まさに八方ふさがりの状態です。
しかし、絶対にこのまま延滞を続けるわけにはいきません。
そこでAさんが取った行動は退職でした。大手企業を辞め、退職金を返済に充てたのです。
最初の段階で営業担当の言いなりになっていなければ…。
赤字が増加し始めた段階で問題を先送りにしていなければ…。
そばで見ていて非常に悔しい思いをした失敗事例です。Aさんは現在、中小企業に転職し、一から出直しているそうです。
安心材料だったはずの「30年一括借上」に泣いたBさん
Bさんのプロフィール
性別:男性
年齢:36歳
家族構成:妻と子ども2人
業種:通信年収:800万円
投資の動機:節税
●購買意欲をあおる営業トークにのせられ、「30年一括借上契約」で4戸購入したが…
Bさんの年収は800万円。30代半ばとしては比較的多いといえます。そのため、節税を目的に中古ワンルームマンション投資を検討し始めました。
そして最初にコンタクトを取ったのが、業界では大手といわれる不動産投資会社です。
営業担当者は、挨拶を済ませるとすぐに「Bさんは大手通信会社に勤めているので、銀行は最高の条件で融資をしてくれます。ちょうどお勧めの物件が出たのでいかがでしょうか?」と2,500万円の物件を勧めてきました。
「自分なら最高の条件で買える」「しかもちょうどお買い得な物件が出た」「業界大手がいうことだから間違いないだろう」「なんてラッキーなんだ」。Bさんはその日のうちに購入を決めました。
最初は1戸を所有すれば十分と思っていたBさんですが、営業担当者はそれを許してはくれませんでした。「まだまだ融資枠がありますよ」「しかも30年間何もしなくても家賃収入がありますよ」と1戸目が引き渡されたその日からグイグイと提案。
そうです。Bさんが購入した物件は、30年間の一括借上契約ができるものだったのです。
この熱烈な営業に対しBさんは、「放っておくだけでいいし、買えるだけ買うか」と、その後2年間で合計4戸購入することになりました。
後悔は4戸目を購入した直後からやってきました。毎月のローン返済が、突然厳しくなったのです。
Bさんが購入した物件は、比較的安価な中古物件であるにもかかわらず、毎月のキャッシュフローはどれもマイナス1万円から1万5,000円になるものでした。
それでも節税によって若干プラスになりますし、ローンを完済すれば子どもに合計で5,000万円以上の資産を残せると、毎月なんとかローン返済をしていました。
このような状況で購入したのが4戸目です。その返済が始まると、マイナス分を埋めるために毎月5万円の自腹を切ることになりました。
するとどう生活費を切り詰めても支払いが苦しい状態に…。
「計算上はぎりぎり返済できるはずだったのに、なぜだ?」
Bさんは奥さんと膝を突き合わせ、生活費を見直してみました。すると小学生になったばかりの息子さんの習い事費用が値上がりしていることに気づいたのです。
「ローンは返済しなければならない。では、習い事をやめさせるか?それもかわいそう…」
Bさんは苦渋の選択で6万円だったお小遣いを3万円にして、この難局を乗り切ることにしました。それからは同僚のお酒の誘いを断る日々が続きます。
そして3年後、Bさんにさらなる苦難が襲いかかります。
一括借上契約の更新を迎えた2戸の物件に対し、管理会社は家賃をそれぞれ1万円下げると言ってきたのです。
2戸×1万円=2万円
今までの3年間で毎年2回ずつ行っていた家族旅行を1回にし、3年に1回買い替えていた新車を乗り続け、と我慢に我慢を重ねる毎日でした。
「もう耐えられない!」Bさんは物件の売却を決心し、私たちの会社へ相談のメールをしてきました。
●「30年間安心」だと思った契約が足枷に…350万の負担金でなんとか売却に成功
最初にBさんに会ったのは、自宅近くのファミリーレストランでした。名刺交換を済ませると、彼は堰を切ったように今までの経緯を話し始めました。
すると、段々と彼の目に涙がにじんできました…。後悔の涙です。それだけこの3年間がつらかったのでしょう。
私はさっそく、Bさんの物件に関する調査を開始しました。するとどれもローン開始から5年以内なので残債が多く、売却しても1戸当たり300万円前後の支払いをしなければならないことが分かりました。
Bさんは4戸所有しているので、合計すれば約1,200万円の現金が必要です。彼の家の貯えは、2人の子どもの進学費用に、とコツコツ貯めた300万円しかありません。
そこで彼は仕方なく親に借りようと会いに行きました。ところが、自業自得だと追い返される始末…。
そのため彼は全戸売却を諦め、なけなしの300万円を支払うことで売却が可能になる1戸を売ることにしました。
ここで新たな壁が─。
Bさんの物件は、管理会社と「30年間、一括借上契約を解約できない」という取り決めになっていたのです。
この契約は、たとえ裁判を起こしても絶対に解約できません。勝ち目はないのです。
また、もし途中で売却することになれば、新しいオーナーにも引き継がれる契約なので、少し勉強した人なら決して手を出さないでしょう。つまり、買い手が非常に見つかりにくい物件だったのです。
「家賃は強引に下げられる。売却先は限定される。30年間安心だと思った契約が逆の結果になるとは…」
もともと30代半ばの割に白髪の多かったBさんですが、このころになると頭髪のほとんど全体が白くなっていました。
この状態が続けばBさんは病気になってしまうかもしれません。私たちはいつも以上に必死に買主を探しました。
そして結果的には、50万円の値引き、つまりBさんがなんとか50万円をかき集めて合計350万円を負担することで売却に成功しました。
それから1年が経ちましたが、Bさんは現在でも赤字経営の3物件を所有しています。
結婚資金を貯めるはずの投資で婚約破棄になったCさん
Cさんのプロフィール
性別:男性
年齢:40歳
家族構成:独身
業種:電子部品メーカー年収:450万円
投資の動機:資産運用
●「頭金ゼロで2,000万円の物件」にそそのかされ、不動産投資会社にダマされた
当時40歳だったCさんには、6年間お付き合いしていた方がいました。30代後半の彼女はできるだけ早い結婚を望んでいましたが、Cさんはなかなか踏ん切りがつきません。収入が少なめなので、養っていけるか不安だったからです。
そんなある日、Cさんに不動産投資の営業電話がかかってきました。最初はどうして携帯番号を知っているのかと不信感を抱きましたが、話を聞いてみると頭金ゼロで2,000万円以上の中古ワンルームマンションが買えると言います。
頭金ゼロ。これが決め手となりCさんは営業担当者と会うことにしました。
待ち合わせのコーヒーチェーン店に行くと、待っていたのは20代半ばの青年でした。「この人に2,000万円の投資話を託すことができるのか⁉」。これが第一印象です。
しかし、話をしていると非常にハキハキとした口調で、しっかりした人物のようです。そして何より頭金ゼロで2,000万円の物件を購入することができ、その会社と一括借上契約を結べば、ローンを返済しても月々1万円の利益があるという案内に心が揺さぶられました。
「この投資をすれば少しだが収入が増える。そして結婚しても老後資金に困ることがなくなる」
Cさんは、これでやっと結婚できると契約書に判を押しました。
とはいえ少しは様子を見ようと、すぐに結婚することなく1年が過ぎました。そんなある日のこと。いつものように預金通帳に記帳をすると家賃の振り込みが見当たりません。それまでは1日も遅れることはありませんでした。
その場で管理会社へ電話をしましたが、誰も出ません。嫌な予感がします。そこで仕事は半休を取り、都内の事務所へ行きました。すると…。
もぬけの殻だったのです。誰もいないどころか、電話もパソコンも置いてありません。あるのは乱雑に置かれた机と椅子だけです。
「まさか、夜逃げ!?」
次にCさんは自分が所有する物件を確認しに行きました。入居者がいれば家賃収入は維持できるはずです。
しかし、そこも空室となっていました。あとから私たちが調べたところ、その部屋は販売した会社の社員寮として使われていたようです。
その後、Cさんは逃げた会社の足取りを追おうとしましたが、素人にはどうすることもできません。
「ならば新しい管理会社を見つけて入居者を募集しよう」。Cさんは数社に相談しましたが、どこも「今までの家賃は相場より1万5,000円は高い。下げなければ管理は引き受けられない」という回答でした。
つまり、夜逃げした会社は割高で物件を売りつけ、その利益を元手に相場よりも高い一括借上の家賃を1年近く支払って消えてしまったのです。おそらく計画的なものだったのでしょう。
物件をこのまま所有していても損をするだけです。Cさんは私たちに売却の仲介を依頼してきました。
査定してみると、1,500万円がいいところでした。Cさんが1年前に購入した額は2,000万円。中古物件なので普通ならば1年で500万円も値下がりすることはありません。やはり割高だったのです。
そして、たった1年しか返済していなかったがゆえに、借入が50万円程度しか減っていませんでした。つまり、1,950万円の残債があったのです。
売却価格は1,500万円なので、450万円の現金を用意しないと売却はできません。しかし、Cさんにそんな大金はありませんでした。
そこで彼は婚約者の元へ走りました。未来を約束した人ならば負担してくれると考えたのです。
ところが答えは「NO」。それどころか7年間も待たせたうえに、450万円もの大金を払えという人とはもう付き合えないと、別れを告げられたのです。
結局Cさんは親に借金をし、なんとか物件を売却することができました。
それから2年が経ちますが、今でも彼は独身。そして毎月少しずつ親に返済を続けているそうです。
●最低限、創業年・従業員数を確認し、信頼できる会社かどうか判断する
不動産投資会社は、残念ながら玉石混交の状態です。非常に少数ではありますが、なかには意図的に悪いことを仕掛ける業者もいるようです。
ですから、契約前は最低でも創業年と従業員数くらいは確認しておきましょう。できればホームページなどでIR情報(財務状況など)も入手できれば理想です。
ちなみにこの夜逃げした会社は、創業1年で社員数は5人でした。
桑田 泰
エステージェント株式会社 代表取締役