真新しい通帳に記された遺産額に覚えた違和感
長女が長男から電話を受けたのは、葬儀から1ヵ月。今週末にAさんの相続の件で話がしたいから、実家に来てほしい、という内容でした。
その週の日曜日、葬儀の日以来、家族全員が集まりました。そして長男は1冊の貯金通帳をテーブルにのせました。
長男「父さんの遺産は、会社の株式と自宅と、そしてこの貯金なんだ」
長女はテーブルのうえの貯金通帳を開きました。そして違和感を覚えました。
長女「ねえ、お兄ちゃん、お父さんの貯金って、100万円しかないの?」
次男「えっ、意外と少ないんだね」
長女「でしょ。浪費家のイメージもないし……会社のほうにまわしていたのかな?」
長男「……」
長女「でも、お兄ちゃん、ちょっと教えてほしいんだけど。この貯金通帳、新しいじゃない。印字されているのも、この100万円だけでしょ。この前に、どんなやりとりがあったのかしら?」
次男「どういうことだよ、それ?」
長女「どしても、あのお父さんが100万円しか貯金がないというのが信じられないの。だって『私、結婚するかも』って言ったら『結婚式費用はまかせなさい』ってお父さん、自信満々に言っていたのよ。おかしくない!? 貯金が100万円しかないのに」
次男「確かに。どうなんだよ、兄貴」
すると無言だった母が1冊の貯金通帳をテーブルにのせました。それを開いた長女はビックリ。
長女「何にこんなに使ったの?」
その貯金通帳には、元々2,000万円強ありましたが、父の入院中にその多くが引き出されていたのです。