年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、相続人の父が遺した貯金通帳にまつわるトラブルを、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

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真新しい通帳に記された遺産額に覚えた違和感

長女が長男から電話を受けたのは、葬儀から1ヵ月。今週末にAさんの相続の件で話がしたいから、実家に来てほしい、という内容でした。

 

その週の日曜日、葬儀の日以来、家族全員が集まりました。そして長男は1冊の貯金通帳をテーブルにのせました。

 

長男「父さんの遺産は、会社の株式と自宅と、そしてこの貯金なんだ」

 

長女はテーブルのうえの貯金通帳を開きました。そして違和感を覚えました。

 

 

長女「ねえ、お兄ちゃん、お父さんの貯金って、100万円しかないの?」

 

次男「えっ、意外と少ないんだね」

 

長女「でしょ。浪費家のイメージもないし……会社のほうにまわしていたのかな?」

 

長男「……」

 

長女「でも、お兄ちゃん、ちょっと教えてほしいんだけど。この貯金通帳、新しいじゃない。印字されているのも、この100万円だけでしょ。この前に、どんなやりとりがあったのかしら?」

 

次男「どういうことだよ、それ?」

 

長女「どしても、あのお父さんが100万円しか貯金がないというのが信じられないの。だって『私、結婚するかも』って言ったら『結婚式費用はまかせなさい』ってお父さん、自信満々に言っていたのよ。おかしくない!? 貯金が100万円しかないのに」

 

次男「確かに。どうなんだよ、兄貴」

 

すると無言だった母が1冊の貯金通帳をテーブルにのせました。それを開いた長女はビックリ。

 

長女「何にこんなに使ったの?」

 

その貯金通帳には、元々2,000万円強ありましたが、父の入院中にその多くが引き出されていたのです。

 

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