税務調査の午前…和やかな会話が繰り広げられる
平成29年においては1万2500件ほどの相続税の税務調査が行われました。そのなかで、追徴課税になったのが、1万500件ほど。つまり約84%が追徴課税になっています。大変な高確率です。
さらに。追徴課税になった人の14.3%が、悪質で仮装隠蔽、つまり「ワザと隠したでしょ」と税務署から指摘を受けたものです。そうなると、ペナルティとして払う税金のパーセンテージが高くなります。このペナルティを重加算税といいます。
「ワザとじゃないけど漏れていました」というときのペナルティは、10~20%です。これが悪質というようにみられた場合は、35~40%のペナルティがつきます。100万円を払うべき税金が135万~140万円にして払わなければいけない、ということです。追徴課税になった人の14.3%が悪質と認定されているのです。
筆者は多くの相続税の相談や申告のお手伝いをしていますが、多くの方が税務調査を甘くてみています。「調査なんて大丈夫っしょ」という方がとても多いのです。そのような方のなかで、相続する側、たとえば両親は「税務署に聞かれたら、こう言いなさいと、子どもに伝えておきます」と言うのです。
また相続を受ける側、たとえば子どもたちも「税務署に聞かれたら、こう言えば、いいんでしょ。だから大丈夫です」と言うのです。
今回伝えたいのは「税務署はそこまで甘くない」ということです。税務調査官には質問の極意があります。嘘をついている場合には、その嘘が見抜かれてしまう、という極意です。
では極意というのは何かというと、「外堀から埋める」ということです。相続税の税務調査というのは、調査官がいきなり聞きたいことを聞くのではありません。納税者が言い逃れすることというのは、だいたいパターン化されています。だから嘘が付けないように、外堀を埋めて、言い逃れできないような状況にしてから、ズバリ、聞いてくるわけです。
実際の現場では、最初の税金とはまったく関係ない事ばかり質問されます。納税者からすると、「なんでこんなこと質問してくるのかぁ」と思うでしょう。しかし調査官は、最終的に何を疑い、何を聞き出したいか、ということが決まっています。そこに向かって、徐々に外堀を埋めてくるわけです。
税務調査は午前10時から午後4時くらいまで行われますが、午前中は外堀を埋めるための質問をしてきます。午後に入って核心を突く質問をしてきます。だからお昼休憩終わりの午後1時はドキドキします。
午前中にされる質問の一例としては
・生い立ちや趣味
・性格(金銭感覚)
・亡くなる直前の状況
趣味についてですが、たとえば、こんなやりとりが行われます。
「亡くなられた方、どんな楽しみがあったんですか?」
「ゴルフが好きでした」
「ゴルフですか、そうですか、楽しいですよね。ちなみにギャンブルとかやっていました?」
「うちの主人は、ギャンブルはしませんでしたよ」
性格については、たとえば、こんなやりとりが行われます。
「亡くなられた方は、みなさんにお金をあげたり、お金を貸したり、言葉はアレですが、お金遣いが荒い方でしたか?」
「いえ、うちの人はすごく慎重な人でしたよ」
亡くなる直前の状況では、たとえば、こんなやりとりが行われます。
「奥様、心苦しいことをお聞きしますが、ご主人、亡くなる直前はどのような状況でしたか?」
「主人はがんで、亡くなる一週間前には意識がなく……」
税務調査の午後…核心に迫る質問で相続人を追い詰める
午前中に外堀を埋める質問をしてきて、いよいよ午後、核心をつく質問をされます。
・不明出金の行方
・家族間での資金移動
・亡くなる直前の引出し
ここで、午前中の外堀を埋める質問が効いてくるわけです。不明出金の行方についてですが、税務調査官は亡くなった方の過去10年分の預金通帳をみてから税務調査に入ります。そしてこんなことを質問してきます。
「亡くなったご主人、どこどこ銀行どこどこ支店に、いくらありますけど、平成何年何月何日に、何百万円下ろしていますが、このお金、どこに行きましたか?」
午前中に「お父さんはお金遣いは荒くなかった」「ギャンブルはしなかった」「人にお金をあげたりしない」という話をしていたら、「じゃあ、このお金はどこにいっちゃったんですか?」となるわけです。
使ったわけでも、ギャンブルでも、人にあげたわけでもない……では「どっかにあるんですかね?」という話になります。大規模修繕とか生命保険など、すべてトレースすればわかるので、「ではタンスにでも、あるんですかね」などと疑われるわけです。
びっくりしますよね、こんなことも知っているんだと。「家族間での資金移動」、親から子、または子から親のお金の移動については、こんなことを質問してきます。
「どこどこ銀行から、何月何日に、お子さんの通帳に何百万円送金してますが、これって何ですか?」
午前中に「子どもたちにお金をあげるような性格じゃなかったですよ」と答えていたら、「このお金、子どもにあげたわけでなく、実質的にはご主人のものだったんじゃないですか?」と言われたりします。
ここでよく「本当にわからないことを『わからない』と答えてもいいですか」と質問を受けます。これは当然OKです。亡くなった方が何百万円か使っていたとしても、家族でもわからないことはあります。しかし「『わからない』とは言わせませんよ」という状態にもっていくのが、税務調査の定跡です。
たとえば、「亡くなる直前のお金の引き出し」。葬儀に必要になるので、亡くなる直前にお金を引き出す方が多くいます。しかし亡くなってから使うお金なので、亡くなった時点、争族が発生した時点では現金としてあるはずです。このお金の申告漏れが非常に多いのです。だから直前の引き出しについては徹底的に追及されます。
その時、午前中に亡くなる直前の状況の質問を思い出してください。このとき、「お父さんはがんで意識不明の状態が1週間近く続いて……」と答えていたら、「亡くなる直前にお金を引き出したのは、亡くなった方ではないな」となるわけです。引き出した可能性が高いのは相続人、いま目の前で調査を受けている方々です。そうなると、「引き出したお金がどこいったかわからない、なんて言わせませんよ」となるわけです。
さらに税務調査官は、すでに調べ上げていることを質問してくることもあります。嘘をついているかみるわけです。嘘つきだと、前出の「悪質」と認定されて、重加算税が課せられるわけです。
このように、税務調査は大変厳しいものです。そして筆者がいいたいのは「危険な橋を渡ってまで税金を少なくしようとするのであれば、きちんと合法的な方法で節税をしましょう」ということです。
【動画/筆者が「相続税の税務調査」について詳しく解説】
橘慶太
円満相続税理士法人