生前贈与でもらった「住宅購入の際の頭金」だったが…
生前贈与は、将来の相続税を減らす効果があったり、自分の財産を早い段階で次世代に渡すことができたり、色々なメリットがあります。その半面、気を付けないと、大きな争いの原因になることがあります。それは「生前贈与は遺産の前渡し」という扱いになることに起因します。事例で見ていきましょう。
【相続トラブル事例】
ある家族がいました。お母さんは1億円の財産を持っています。子どもは長女と長男の2人です。
長女が家を購入するにあたり、頭金として2,000万円を生前贈与しました。つまりお母さんの財産は8,000万円になります。この状況のまま、10年が経ち、お母さんが亡くなりました。
悲しみに暮れるなか、「そろそろお母さんの遺産の分け方について話し合おう」ということになります。
長女「お母さんの遺産8,000万円は、法定相続分2分の1だから、4,000万円ずつ分けましょうね」
長男「ちょっと待てよ。姉さんは家を買ったときに頭金としてでこのお母さんから2,000万円もらっているよな。元々母さんは1億円の財産があったのだから、俺は5,000万円もらう権利がある」
長女「遺産相続と生前贈与は関係ないじゃない! それに贈与は10年以上も前の話よ」
「不公平だ!」「10年前の話よ!」(※写真はイメージです/PIXTA)
このような事例に対して、皆さんは長男、長女、どちらの意見が正しいと思いますか? 正解は、法律的には長男の意見が正しいです。
長女は生前贈与で2,000万円をもらっています。「生前贈与は遺産の前渡し」という取扱いになるので、いざ、財産を分ける際には、生前贈与で渡した財産を持ち戻して、法定相続分を決めていく必要があります。
この「遺産の前渡し」を何というかというと、「特別受益」という言い方をします。
事例の場合、(亡くなった際の財産8,000万円+特別受益2,000万円)×1/2(法定相続分)=5,000万円が、長男、長女、それぞれが手にする遺産となります。
長女はすでに2,000万円を受け取っていますので、5,000万円から2,000万円を差し引いた3,000万円が、相続の際に手にする遺産となります。
この差し戻して計算することを「特別受益の持戻し」と表現します。
筆者のところに相談に来られる方のなかに、「相続の時に相手(自分以外の相続人)に渡したくないから、生前贈与でもらっちゃおうと思っているんです」という方がいます。しかし、これはあまり意味がないことなのです。