近年の税制改正によって相続税の課税対象者が激増するとともに、その後の税務調査で申告漏れ等の不備を追及されるケースも多発しています。指摘を受ければ、延滞税をはじめとするペナルティが課される可能性があるため注意が必要です。その一方、過去のお金の流れが明らかになることで、親族関係にひびが入るリスクも忘れてはなりません。本記事は、『[改訂二版]相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

調査官は重加算税をかけたがる
税務調査を録音することはできるか?
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相続税は「他人事」ではない

「相続税=一部のお金持ちだけが払うもの」という時代は、もう終わりました。記事『国民の「相続税」徴収に命を懸ける、税務当局最新の動向』でも解説したように、相続税は一握りのお金持ちだけに降りかかる「対岸の火事」などではなく、あなたやあなたの家族にも関わってくる可能性が極めて高いことなのです。

 

そしてその先には、税務調査という「招かれざる客」が待っていることもあるのです。税務調査とは、提出された申告書を税務署がチェックし、不明な点や申告漏れに結び付きそうな点に関して亡くなった人(被相続人)の自宅を訪問し、遺族(相続人)にさまざまな角度から質問をし、申告された財産内容などが適正かどうかを調査することをいいます。

 

「うちには調べるほど財産がない」

「大資産家しか関係ないのでは?」

 

そのようにご自身とは無関係と思われる方もなかにはいるかもしれませんが、それは誤解です。相続税を減らすための本が多く書店に並んでいます。もちろん、相続税を減らすこと、またゼロにすることが大きな関心事であるのは確かでしょう。ただ、有効な対策を取って節税に成功したとしても、誤った対策をしたことによって税務調査で申告漏れと指摘されたのでは元も子もありません。

 

安易な対策や間違った対策で申告に不備があれば税務調査はやってきます。その不備は、単純な申告漏れであったり、相続人が知らなかった財産があったりとさまざまですが、一ついえることは、税務調査が入る、入らないは、財産の多い、少ないには関係がないということです。税務調査はどの家庭にも訪れる可能性のあるものなのです。

 

そこでまず、万全な対策を立てるための第一歩として、税務調査とはどのようなものかを理解していただくことから始めてみたいと思います。

 

税務調査は「対岸の火事」ではない・・・
税務調査は「対岸の火事」ではない・・・

おおよそ10〜12%の割合で、税務調査が行われている

相続税は相続が起こってから10カ月以内に申告しなければなりません。「相続の発生」は、相続財産を残した人(被相続人)の死亡をいいます。10カ月というと長い期間のように感じられるかもしれませんが、実は意外に短いものです。

 

相続財産が預金と自宅の土地だけというようなケースならスムーズに運びますが、すべての財産を漏れなく把握するには、相当の時間を要します。そして、残された財産を誰がどのように引き継ぐのかといった遺産の分割協議にも時間がかかります。

 

10カ月以内になんとか申告書を提出し、納税をすませたとしても、それで終わりというわけではありません。相続税には、まだまだ続きがあるのです。それが先ほどご説明した税務調査です。相続税の申告があったすべての相続に税務調査が入るわけではありませんが、おおよそ10〜12%の割合で調査が行われているのが現状です。この割合は、ほかの税目の実地調査率(法人税3%、所得税1%など)と比べても明らかに高い割合であることが一目瞭然です。

 

税務調査の第一報は、原則として「納税義務者(相続人や受遺者)」とされています。ただし、税理士などの税務代理人がいて納税義務者の同意がある場合に限り、その通知は税務代理人に対して行われます。税理士が間に入るのと入らないのとでは、相続人が税務調査に対して抱く恐怖心の度合いがかなり違うのではないでしょうか。

 

税務調査はある日突然、電話で予告されますが、受けた側にとっては、まったく寝耳に水といったところでしょう。それもそのはず、税務調査の連絡の電話は相続税の申告がすんで1年以上も経過したころにかかってくることもあるからです。

 

税金はすでに払い終わっているのですから、手にした遺産をどう使おうと自分の自由とは誰もが思うことです。中にはすでに使い道を決めてしまったという人もいるかもしれません。また、相続した財産の多くが不動産で、相続税を払ったら現金はほとんど残らなかったという人も少なくありません。そんなときに寝耳に水の税務調査で、追加の税金を課せられたとしても、「ない袖は振れない」ということになってしまいます。

他人事ではない税務調査…ケース例で具体的に解説

では、予期しないときにやってくる税務調査の実態はどのようなものなのか、3つの事例について、具体的な数字を挙げつつご紹介しましょう。ただし、これらはすべて架空の設定、架空の数字です。

 

【相続財産13億円のYさんの場合】

 

都心の一等地に自宅を持つYさん宅に、税務調査が入ったのは、Yさんの被相続人である夫・Aさんの死後2年近く経過したころでした。Aさんの妻であるYさんの銀行口座にあった5000万円分の債券が申告漏れになっているのを、税務署が見つけたのです。

 

Aさんの相続人は妻・長男・次男・長女の4人です。相続税評価額は13億円に上りました。家族が予想していたよりもはるかに多く、「うちにはこんなにたくさんあったの?」と誰もが驚くほどでした。現金もそれなりに残されていたため、納税資金に困ることもなく、ウソ偽りなく正直に申告し、払うべきものはすべて払って、やれやれと思っていた矢先の出来事でした。

 

一点の曇りもない申告だったはずなのに、なぜこのようなことになったのでしょうか。

 

原因は意外なところにありました。銀行の残高証明が適切なものでなかったのです。妻・Yさんは、銀行に1億円の預金(ご主人が残してくれたYさん名義の預金)を持っていました。そのことは本人も認識していたため、銀行に対し「預金の残高証明を出してください」と依頼して申告に使いました。

 

ところがYさんはこの銀行に、1億円の預金だけではなく、5000万円分の国債も持っていたのです。こちらもご主人のお金で購入したものでしたが、国債を購入したのは10年以上も前のことだったので、本人もすっかり忘れていました。

 

残高証明を取り寄せるときに、Yさんが「この銀行のすべての残高証明を出してください」と頼めば、預金だけでなく国債についても記載された残高証明を発行してもらえたのでしょうが、「預金の残高証明」に限定してしまったために、国債の分が漏れてしまったのです。税務調査官が銀行で調べれば、このようなミスはたちどころに発覚してしまいます。

 

結果として、Yさん名義の国債の申告漏れによる、追加の相続税額・加算税額・延滞税額として2800万円超を納付しなければならなくなり、これが、子どもたちにも大きな波紋を投げかけることになったのです。

 

申告漏れによって生じた追加の相続税と過少申告加算税は、Yさん本人だけでなく相続人全員にも課税されるためです。追加の財産を一切もらわなくても、相続税の計算の仕組み上、相続税の追徴が相続人全員に生じてしまうのです。子どもたちのうちで一番多く課税された長男の追徴税は、本税・加算税合わせて200万円にも上りました。

 

長男の相続財産は自宅を含めた不動産がほとんどで、納税後に手元に残った現金は1000万円程度でした。長男は50代のサラリーマンで給与は頭打ちになっており、まだ大学に入ったばかりの子どももいます。結果的に、大学の学費に充てるつもりだった現金のうちから、想定外の追徴税額200万円を納付しなければならなくなりました。

 

最初からすべての相続財産を正しく把握できていれば、余計な加算税や延滞税の負担もなく、より実情に合った分割ができたはずでしたが、ちょっとしたミスによる申告漏れがあったために大変残念な結果になってしまったのです。

 

【相続財産4億円のBさんの場合】

 

Bさん一家は、東京郊外に多くの土地を持つ昔ながらの地主で、相続税評価額は4億円、相続人は妻・長男・次男・長女の4人です。

 

Bさんは大変子ども思いの人で、生前、子ども名義の保険にいくつも加入していました。しかし、それが税務調査の対象となったのです。

 

母親と同居している長男のところに税務調査官がやってきたのは、相続税の申告後1年半ほど経ったころでした。郵便局の簡易保険の入り方に、不明な点があるというのです。

 

対象となったのは、亡きBさんが生前にかけていた次男の生命保険でした。

 

保険料の原資となったのはもともとBさんが自分自身にかけていた養老保険の満期金で、そのときの満期金(700万円)を全額、次男の養老保険の保険料に充てていたのです。

 

郵便局の人が満期金を現金で届けに来たので、そのお金ですすめられるままに今度は次男の養老保険を契約したのです。

 

その後、Bさんが契約者を次男に変更して、その保険証券を次男に渡していました。これが相続財産になるとは夢にも思わなかったのでしょう。

 

税務署からの連絡を受けて驚いた長男は、次男に電話で事実を確認しましたが、次男本人もそのことをすっかり忘れていました。家の中をかき回してようやく保険証券を見つけ、それが事実だったことを確認しました。

 

このケースの問題点は、次男がこの保険を自分の相続財産だと認識していなかった点にあります。途中で契約者を書き換えたとはいえ、お金を払ったのは父親であるBさんなのですから、次男にとって父親に払ってもらった保険契約は相続財産になります。その分が申告漏れになっていたのでした。

 

また、Bさん一家には、もう一つ保険がらみの申告漏れがありました。

 

満期金500万円の保険金受取人を長女にした一時払い養老保険の保険料を、Bさんが払っていたのです。すでにBさんの存命中に長女が満期金を受け取っていたため、相続税ではなく贈与税の対象となりますが、こちらも申告漏れであることに違いはありません。長女は、自分だけが父親に便宜を図ってもらっていることを、ほかのきょうだいたちに知られたくなかったため、黙っていました。

 

これらが税務調査で見つかったため、次男は140万円、長女は100万円、さらにはいずれの件についても何の非もなかった長男も45万円の追徴税を余儀なくされました。

この一件で、その後、きょうだいの仲がぎくしゃくしたものになったのは、いうまでもありません。

 

【相続財産2億円のCさんの場合】

 

Cさんの相続人は、妻・長女・次女・長男の4人。税務調査の対象となったのは、大量に残された銀行口座でした。

 

それはすべてCさんの次女の夫で、銀行員のDさんが関係しているものでした。全国各地を転勤で回ったDさんにとって、新しく赴任した支店の営業エリアで新規口座を獲得するのは、大変重要なことでした。そこで資産家のCさんを頼りにしたのです。

 

当時はまだ現在のように口座開設の際の本人確認など、あまり厳しくない時代でした。Cさんはかわいい娘のために、娘婿の頼みを快く聞き入れ、自分だけでなく家族名義の口座をいくつも開設しました。

 

しかしそのことを知っていたのは、Cさん本人と次女、それに次女の夫だけ。妻にすら知らせず、すべて秘密裏に処理してきたのです。

 

Cさんが亡くなって相続が発生したときも、次女は本当のことをいおうとしませんでした。自分の夫が父親に便宜を図ってもらっていたことをほかの家族に知られたくなかったのです。

 

しかし、どんなに隠そうとしても、隠し通せるものではありません。銀行に調査が入って、事実は明るみに出てしまいました。Cさんが残した預金の申告漏れとなった金額は、全部で600万円あることが分かりました。

 

これに対する追加の税金は、本税・加算税・延滞税合わせて100万円ほど。なお、このケースでは「故意に隠した」という事実があったため、通常よりも税率の高い重加算税が課されました。

 

次女は「絶対にほかの家族に知られたくない。私が全額払います」と言い張りましたが、それはかないませんでした。なぜなら、加算税と延滞税の通知は、相続人全員の自宅に送られることになっているためです。すぐにほかの家族の知るところとなり、大騒ぎになりました。

 

次女が自分の過失を認め、追加の税金を全部負担したため、金銭面でほかの家族に迷惑をかけることはありませんでしたが、母親からは「お父さんは水くさい。私にまで内緒にするなんて」と言われ、きょうだいたちからは「あなたばかり便宜を図ってもらって」と突き上げられ、家族間の関係がぎくしゃくしてしまったといいます。

 

* * * * * * *

 

いかがでしょうか。申告漏れによる追徴税額で、ほかの家族にも迷惑が及ぶことまでは想像もしなかったことでしょう。

 

この3つの事例でも分かるように、税務調査によって追加の税金が発生することで生じる問題は、金銭面に限ったことではありません。良好だと思っていた家族関係にひびが入ったり、気まずくなったりすることが多いのです。

 

特にきょうだいのうちの誰かが、亡くなった親御さんに特別に便宜を図ってもらっていたことがあとで発覚すると、ほかのきょうだいは不快に感じ、間違いなく関係は悪くなります。

 

どんなにその事実をひた隠しにしようとしても、相手はプロの調査官です。不明点を明確にして、少しでも多くの税金を徴収するのが彼らの仕事なのですから、あるものをなかったように見せかけようとしても、必ず見抜かれてしまいます。

 

税務調査が入って初めて発覚し、揚げ句の果てにほかのきょうだいに金銭面で迷惑をかけるくらいなら、最初から「実はみんなに黙っていたことがあるのだけど……」と、打ち明けてしまうほうがどんなにいいか。その場はちょっと気まずくても、遺恨が生じることは避けられるのではないでしょうか。
 

 

服部 誠
税理士法人レガート 代表社員/税理士

 

 

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相続税の税務調査を 完璧に切り抜ける方法[改訂二版]

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服部 誠

幻冬舎メディアコンサルティング

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