春日部…連続立体交差で「開かずの踏切」が解消!?
先月、埼玉県と東武鉄道は、春日部駅付近の連続立体交差事業において、費用負担や事業の役割分担などを取り決める施策協定を締結した。春日部駅は地上駅で東西を自由に行き来できる通路はなく、市内が鉄道網で分断されている。立体交差事業が進むことで、衰退が進む中心市街地の活性化につながるのではないかと期待されている。
元気に欠ける春日部市の一方で、勢いを見せるのが隣の越谷市だ。大きなきっかけとなったのは、2008年、国内最大級のショッピングセンター「イオンレイクタウン」の開業。商業施設と駅の開業により、周囲も発展し、今では住みたい街(駅)ランキングでも上位に入るほどだ。
今回は、そんな二つの街(駅)を、不動産投資の観点で比較しながら見ていこう。
春日部市は埼玉県東部に位置し、人口規模はさいたま市、川口市、川越市、所沢市、越谷市、草加市に次ぐ7番目。春日部市役所によると、市名の由来は諸説あるが、平安時代の末ごろから春日部氏という武士が住んでいたという説が有力とされている。
江戸時代には日光街道粕壁宿の宿場町として栄え、明治22年市町村制施行に南埼玉郡粕壁町、昭和29年町村合併促進法に基づき、春日部市が誕生した。高度成長期には東京のベッドタウンとして発展し、平成17年に庄和町と合併し現在の春日部市に至る。
そんな春日部市の中心となるのが、前述の「春日部」駅だ。東武鉄道伊勢崎線(東武スカイツリーライン)と東武鉄道野田線(東武アーバンパークライン)が交差した接続駅だ。伊勢崎線は東京メトロ半蔵門線と直通運転をしており、平日通勤時間帯であれば1時間強で都心の「大手町」駅にアクセスできる。また「大宮」には20分強の距離感である。
駅東口エリアは、旧粕壁宿があった場所で商店街が広がっているが、お世辞にも賑わっているとは言い難い状況だ。かつて東口には「ロビンソン百貨店春日部店」があったものの、2013年に「西武春日部店」に転換。2016年には撤退し、跡地は高級家具販売の「匠大塚」となっている。駅西口エリアにはショッピングモール「ララガーデン春日部」と「イトーヨーカドー春日部店」があるが、駅周辺の道路交通事情は悪く、客足は鈍い。立体交差の早期実現が待たれる。
一方、越谷市は春日部市の南に位置し、埼玉県下で5番目の規模。「こし」は山や丘のふもと、「や」は湿地など低い所を指し、「大宮台地の麓にある低地」からその名が付いた、というのが有力な説となっている。
江戸時代は、日光街道の越ヶ谷宿として栄えた宿場町であり、戦後の1954年の町村合併で越谷町、1958年に市制施行されて越谷市となった。東武伊勢崎線が東京メトロ日比谷線と直通運転を開始してからは東京のベッドタウンとして発展し、1976年に人口は20万人を突破、1996年には30万人を突破した。
そんな越谷市の中心的存在が、東武伊勢崎線「越谷」駅である。都心まで40~50分でアクセスできる立地で、隣駅の「新越谷」駅ではJR武蔵野線「南越谷」と接続し、多方面にアクセスすることも可能だ。
駅東口エリアは越ヶ谷宿を由来とする商店街が広がっているが、近年は再開発が進行。再開発ビル「越谷ツインシティ」は高層マンションと商業施設が一体となった複合施設で、市内では一番高い建造物である。
また市役所や市民会館などの最寄り駅で、長らく越谷市の行政・商業の中心をなしていたが、レイクタウンの開業の影響もあり、2009年には「イトーヨーカドー越ケ谷店」が閉店。中心市街地の空洞化が進行したが、駅周辺の再開発により、その流れに歯止めがかかっている。
「春日部」は人口減、「越谷」は人口増
隣接する春日部と越谷、不動産投資の観点で見ると、どのような街なのだろうか。
まず直近の国勢調査(図表1)を見てみる。埼玉県全体の人口増加率は1.0%であるのに対して、春日部市は-1.9%を記録している。埼玉県下では、東京都心から距離のある市では人口減の傾向にあるが、都心から近い場合は人口増が目立つ。都心まで1時間強という春日部市は微妙な立地だ。一方で越谷市は3%を超える人口増加を記録している。レイクタウン周辺を中心に、子育てしやすい街として評価を得ていることが、人口増加につながっていると考えられる。
両市の人口構造を見てみると(図表2)、越谷市ではファミリー層の流入により、若年層、現役層は埼玉県平均を上回る。一方春日部市では、高齢者層が埼玉県平均を上回る28.1%を記録。これは全国平均26.6%を上回る高齢化率で、深刻な状況だといえるだろう。また単身者世帯率を見てみても(図表3)、春日部市では10世帯に1世帯は65歳以上の単身者世帯という状況。人口の流出はファミリー層が中心と考えられるので、この傾向はますます顕著になっていくだろう。
次に住宅事情を見てみよう。まず賃貸住宅の空き家率を見てみると(図表4)、両市とも埼玉県平均を下回る5%前。一方、賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみてみると、春日部市はバルブ期に建てられた物件のほか、築50年越えの物件が多く、築浅の物件は少ないことがわかる。越谷市は都市化が進んだ80年代以降の物件のほか、2000年以降、エリアの人気の高まりとともに物件が建てられていったことがわかる。今後、春日部市で物件の更新が進み、魅力的な賃貸物件が増えれば、人口増加にも影響を与えるかもしれない。
続いて、駅周辺に的を絞って見ていこう(図表6)。「春日部」駅、「越谷」駅、ともに1世帯あたりの人数は2人以上だが、「越谷」駅周辺のほうが単身者に好まれる傾向にある。都心までの所要時間が「越谷」であれば40~50分と、単身者でも十分に検討できる距離であることが要因だと考えられる。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。両駅とも市の代表駅であることから、市平均を上回る取引価格となっている。また「春日部」よりも「越谷」のほうが10万円以上も平均取引価格が高いのは、都心からの距離に関係すると考えらえる。
また実際に取引されている中古マンションの種別(図表8、9)を見てみると、「越谷」周辺では、1割強が単身者用であったのに対し、「春日部」周辺で単身者用マンションの取引は見られなかった。ここからも両駅ともファミリー層から支持されるエリアだが、「越谷」は単身者にも選ばれるエリアであることがわかる。
「春日部」の人口減、高齢化は加速するのか?
両市の将来人口の推計を見ていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測(図表10、11)によると、越谷市は2025年の347,549人をピークに人口減が始まるとされているが、そのスピードは緩やか。2015年を100とすると、2030年は102.8、2040年で100.9というレベルだ。一方、春日部市の人口減少のスピードは速い。すでに人
口減が始まっているが、2035年には20万人を下回ると予測され、2015年を100とすると、2030年で88.8、2040年で78.8という水準だ。
また、また駅周辺を黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析で見てみると(図表12、13)、「越谷」駅周辺は人口増加を占める暖色系も目立つ一方で、「春日部」駅周辺は人口減を示す青系色で染まっている。
このように春日部市と越谷市は隣り合う市ではあるが、今後の明暗ははっきりしている状況である。日本では人口減少、高齢化の進行が社会問題になって久しいが、春日部では全国平均以上のスピードで進み、東京近郊のエリアでは深刻な状況だといっていい。
今後、中心駅である「春日部」駅周辺の立体交差事業が完了し、交通利便性が向上、さらに物件の更新が進むことで、ファミリー層からの支持も高まれば、マイナスの流れが緩やかになるかもしれない。