人口減少の局面になり、厳しさが増す不動産投資。今後、どこが投資エリアとして有望なのか。不動産投資には欠かせない要素である「人口」や「不動産取引の現状」などをもとに、検討していく。今回紹介するのは、大都市・横浜市の「戸塚」。

難航極めた再開発完了で、魅力が増した「戸塚」

戸塚区は横浜市18行政区のうちの1つ。横浜市の南西に位置し、南区、保土ケ谷区、港南区、旭区、栄区、泉区と接するほか、西で藤沢市、南で鎌倉市に接する。谷や沢の多い地形で、丘陵地のほとんどが住宅地として開発されている。

 

戸塚区役所によると、「戸塚」の地名には「富塚」「十塚」「豊塚」という三つの由来があるという。また江戸時代には、東海道の日本橋から数えて5番目の宿場町として発達し、1887年(明治20年)には、東海道本線開通によって「戸塚」駅が設置され、重要幹線に位置する主要駅として栄えた。

 

戦前の1939年、鎌倉郡内の1町7か村が横浜市に編入され、戸塚区が誕生。戦後は大手電機メーカーなど、多くの企業が進出する一方で、東京のベッドタウンとして人口が急増し、1975年には全国の政令指定都市行政区の中で最大となる。一方で、1969年に瀬谷区が、1986年に栄区・泉区が分区するも、面積は35.7km2と横浜市でいちばん広い区として知られている。

 

そんな戸塚区の中心駅なのが、「戸塚」。JR東海道線、横須賀線、湘南新宿ラインのほか、横浜市営地下鉄ブルーライン(横浜市高速鉄道1号線、3号線)の計4路線が乗り入れる。平日通勤時間帯で「横浜」まで10分、「品川」まで31分、「東京」まえ42分(すべてJR東海道線利用)、「渋谷」まで43分、「新宿」まで50分(すべてJR湘南新宿ライン利用)という距離。東海道線の混雑はよく知られており、「川崎」~「品川」で191%。乗る車両などによって、混雑具合はまちまちだが、都心方面への通勤ならば、それなりの満員電車は覚悟しなければならない(グリーン車を使うという手はあるが)。

 

東海道線
東海道線

 

乗降客はJR線で11万人強/日で、神奈川県では「横浜」「川崎」「武蔵小杉」に次いで4番目の規模、ブルーラインは9万人強/日で「横浜」に次いで2番目の規模である。

 

もともと駅周辺では、大規模な商店街が発展していたが、ベッドタウン化による急激な人口増加に対応できるほど、都市基盤は盤石ではなかった。そのため横浜市営地下鉄の建築計画が発表された1970年代から再開発事業が計画されていたが、駅西口エリアでは権利者の多さから交渉は難航し、2000年代に入るまで、ほとんど進むことはなかった。その後、交渉に進展が見られ、2010年に商業施設「戸塚パルソ」、2011年に「東急プラザ戸塚」と、再開発前の戸塚駅西口商店街で営業していた地元店舗が主体となる「トツカーナモール」で構成される「トツカーナ」が誕生した。

 

一方、東口エリアは戦前に開発が始まった工場地帯で、日立グループなどの工場が複数立地する、工場地帯の色が強かったが、現在「戸塚モディ」が入る「ラピス戸塚」が誕生し、エリアの雰囲気も大きく変わっている。

 

戸塚駅前
戸塚駅前

環境よし、交通よしでファミリー層から支持が厚い

横浜市のなかでも最大の面積を誇る戸塚区と、その中心となる「戸塚」駅周辺は、不動産投資の観点で見ると、どのような街なのだろうか。

 

まず直近の国勢調査(図表1)を見てみる。横浜市全体の人口増加率は1.0%であるのに対して、戸塚区は0.3%増と、市の平均を下回る。横浜市18行政区のなかでは、都筑区5.2%増を筆頭に、鶴見区4.8%増、港北区4.5%増、西区3.9%増と、市北部を中心に人口増加が目立つ。一方で、金沢区3.4%減、港南区2.6%減、栄区2.2%減と、市南部を中心に人口減少が見られる。戸塚区は、人口増加の中心からは外れた地域にあたる。

 

出所:平成27年度「国勢調査」より
[図表1]戸塚区の人口動態 出所:平成27年度「国勢調査」より

 

人口構造と世帯の状況を見てみると(図表2、3)、15歳未満の若年層、65歳以下の現役層が市全体の平均を上回る。東京都心まで40分、新宿へは50分という距離にあるが、いずれも乗り換えなしでダイレクトにリーチできる。この交通利便性から、現役世代のファミリー層に選ばれる地域なのだろう。一方で、交通の利便性から単身者からの支持も高く、単身者世帯の比率も、市全体の平均を上回っている。

 

出所:平成27年度「国勢調査」より
[図表2]戸塚区の年齢別世帯数割合 出所:平成27年度「国勢調査」より
出所:平成27年「国勢調査」より
[図表3]戸塚区の世帯数 出所:平成27年「国勢調査」より

 

次に住宅事情を見てみよう。戸塚区の賃貸住宅における空室率(図表4)は4.7%と、横浜市の平均を1.4%近く下回る。一方、賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみてみると、築30~40年ほどの物件が多く、市全体の傾向と比べると新築物件の供給は多いエリアとはいえない。今後、バブル以前に建てられた物件が更新時期を迎える。入居者ニーズに応えうる、魅力的な物件へと更新されるかどうか、真価を問われるエリアだといえるだろう。

 

出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より
[図表4]戸塚区の住宅事情 出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より
出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より
[図表5]戸塚区における賃貸物件の築年数の分布 出所:総務省統計局 平成30年「住宅・土地統計調査」より

 

 

「戸塚」駅周辺に絞って見ていこう。戸塚では1世帯あたりの人数が2.4人に対して、「戸塚」駅周辺では、2.3人とほぼ同程度(図表6)。区全体が東京のベッドタウンとして発展し、ファミリー層を中心に支持されるという傾向は、「戸塚」駅周辺においても同様のようだ。

 

出所:平成27年度「国勢調査」より
[図表6]「戸塚」駅周辺の人口動態 出所:平成27年度「国勢調査」より

 

続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。1平米当たりの平均取引価格は43万円と、戸塚区平均より6万円ほど高い。行政区の中心だけあり、不動産価格は周辺よりも高くなっている。また取引されている中古マンションの種類を見てみると(図表8)、調査時で3部屋以上のファミリー向け物件の割合が8割弱。横浜市内でも環境がよく、子育て支援が充実していると評価されるエリアだけに、ファミリー物件の充実が光る。

 

出所:国土交通省 「土地情報総合システム」より作成
[図表7]「戸塚」駅周辺の中古マンションの取引状況 出所:国土交通省 「土地情報総合システム」より作成
出所:国土交通省 「土地情報総合システム」より作成
[図表8]「戸塚」駅周辺の取引される中古マンションの種類 出所:国土交通省 「土地情報総合システム」より作成

人口増減の格差広がる横浜…戸塚はどうなる?

戸塚区の将来人口の推計を見ていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測(図表9)では、2015年を100とすると、以降は人口減少が続き、2040年は91.0という水準になると予想されている。横浜市全体でも人口減少を予想されているが、2015年を100とすると、2040年は94.8という水準であり、戸塚区の予想はそれを上回るスピードだということだ。

 

出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
[図表9]戸塚区の将来推計人口 出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」

 

横浜市のなかで人口増加が予想されているのは、鶴見区、神奈川区、西区、中区、港北区、都筑区の6区。ほかの12区では人口減少が予測され、特に金沢区、栄区、瀬谷区、港南区の人口減少の幅は大きい。現在の横浜市でも、北部は人口増加、南部は人口減少という傾向にあるが、今後、その格差は拡大の一途をたどると予測されている。

 

また「戸塚」駅周辺を黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析で見てみると(図表10)、駅周辺は人口減少を占める青系色で染まるという結果であった。再開発により「戸塚」駅周辺の魅力は増したが、人口減少の波を食い止めるほどの効果は、将来的に発揮できないようだ。

 

出所:RESASより作成
[図表10]2015年~2040年「船橋」駅周辺の人口増減率 出所:RESASより作成

 

人口減のトレンドは、大都市・横浜でも例外ではないが、そこには南北格差があり、今後、格差は広がっていく。戸塚はそのボーダー上にあるエリアで、投資エリアとしては注視していく必要があるだろう。

 

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