アマゾン「配達問題」…配送業者のキャパを超える、改善策は?

あなたは、アマゾンという企業をどのくらいご存じだろうか? 日本でのサービス開始当初「世界最大のオンライン書店」と称されていたアマゾンは、わずか20年弱で「GAFA」と呼ばれる4大IT企業の一角にまで発展した。その驚くべきビジネス戦略や如何に。アマゾンジャパン元経営会議メンバー・星健一氏の著書『amazonの絶対思考』(扶桑社)より一部を抜粋し、「内側から見たアマゾン」を解説する。

アマゾン「配達」の課題はラストワンマイル

◆高品質なロジスティックスの確立

 

速くて確実、高品質な配送を実現する物流システムを確立していることは、アマゾンの大きな強みになっている。

 

現在、アマゾンが展開しているのは世界で16カ国のみ。意外と少ないのは、市場のサイズだけではなく高品質なロジスティックス、オペレーションを確立できる国にしか進出しないというアマゾンの矜持を示している。

 

日本国内においては、当日配送の人口カバー率が84%、翌日配送は96.7%※1に達している。離島などもあるため100%にするのは困難だが、世界的にみても特筆すべき優秀さといえるだろう。

 

※1 2016年6月2日 流通ウェブ アマゾン/出品者への注文が約半数に/セラーカンファレンスに500人参集

 

このスピードはアマゾンの力だけで達成できているのではない。アマゾンでは顧客から受注したら素早く倉庫から商品をピックアップして梱包し、配送業者に引き渡す。配送業者は各業者の拠点となるセンターへ商品=荷物を運び、「ラストワンマイル」と呼ばれる顧客の元への配送を的確な品質を保って行ってくれているのである。

 

現在、アマゾンの商品配送は大手では日本郵便とヤマト運輸がパートナーとなっている。アマゾンの日本進出当初は、当時の日通が強力なパートナーだった。その後、佐川へと移ることになる。こうした日本国内の大手宅配業者はもともと高い配送品質をもっていたため、米国や他の国々に比べてアマゾンが求めるロジスティックスのクオリティを達成するハードルは低かったといえる。

 

日本でもアマゾンが成長し物流の量が急増するのに伴って、2013年には佐川急便がB2B(Business to Business=企業間取引)へのシフトを理由にアマゾンからの扱い量を縮小※2

 

※2 2013年10月1日 産経ニュース-要求高くて対価は低い 佐川がアマゾンとの取引撤退宅配業界大揺れ

 

ヤマト運輸への依存度が過剰となり、結果的にヤマト運輸のキャパシティーも限界近くになり、物量減及び料金値上げ交渉が行われているといった報道がメディアを賑わせたこともある※3

 

※3 2018年1月30日 Sankei Biz-ヤマト、アマゾンと値上げ合意 業績を上方修正

 

日本郵便やヤマト運輸とのパートナーシップはアマゾンにとって重要だ。とはいえ、顧客の信頼を得ている配送品質が、外部業者との関係によって揺らぐことがあってはならない。そうしたことから、地域に根ざした小さな会社や個人事業主のネットワークによる独自の物流網「アマゾンロジスティックス」を強化していくことに、大きな課題として取り組んでいるところである。

 

具体的には、まずひとつ目、「デリバリープロバイダ」と呼ばれるいくつもの中小の配送会社が、ヤマト運輸の配送個数縮小や、アマゾンのビジネスの拡大による配送需要をカバーした。アマゾンは、急速にこのネットワークを拡大していった。

 

ふたつ目に、アマゾンが個人事業主のドライバーと直接、業務委託して配送する「アマゾンフレックス※4」という新しい仕組みを導入して、物流の自前化を推進している。荷物の配送を請け負いたい個人事業主はアプリで申し込みを行い、条件に合致する荷物があればその荷物を配送することで、アマゾンから配送料を直接受け取ることができる。

 

※4 Amazon Flex https://flex.amazon.co.jp

 

この仕組みは、昨今拡大しているUber Eats(Uberと契約した個人が自転車やオートバイで顧客から注文の入った飲食店から注文品をピックアップし顧客に届けるサービス)にも似ている。

 

大手の宅配業者は全てを自社で行なっているわけではなく、もともと、多数の請け負い事業者を使っている。一部ではかなりの低価格で配送を受けざるを得ない環境であったが、アマゾンから直接委託を受けると単価が高くなり、個人事業主にも大きなメリットがあるWin―Winの事業モデルだ。ただし、生みの苦しみか、大手配送業者と比較すると新しい配送サービスの品質や習熟度が低かったり、サービスレベルが一定しないと感じている顧客もまだ多いだろう。

 

実際に私の自宅マンションの場合でも、以前の日本郵便、ヤマト運輸、デリバリープロバイダとは違い、呼び鈴で在宅確認もせずに宅配ボックスに入れてしまうなど、質が落ちていると感じることが多々ある。

 

◆課題は、「ラストワンマイル」の効率向上

 

スピーディで高品質な配送を顧客にコミットしているアマゾンにとって、「ラストワンマイル」の効率向上は、今後に向けて改善を重ねるべき大きな課題となっている。端的に言うと、再配達をいかに減らすかという課題である。国土交通省の調査によると、2019年4月度の宅配便再配達率は16%※5にも達しており、配送業者の大きな負担、すなわちコストの増大、さらには排気ガスによる環境への悪影響に繫がっている。

 

※5 2019年6月26日 国土交通省-宅配便再配達率は16.0%~平成31年4月の調査結果を公表~

 

不在配達票を見て、再配達依頼をするのは顧客にとっても余計なひと手間となる。多様な顧客のニーズに対応して、確実、迅速に商品を届ける仕組みを構築するのは、結果的に配送コストの削減となり、顧客の期待を裏切らないサービスとなっていくということだ。

 

メールアドレスを登録してアマゾンで買い物をすると、「ご注文の発送」「ご不在の連絡」「配送完了」などのメールが律儀に届く。配達時間指定が注文時にできるようにしたことも重要施策だ。

 

また、コンビニ受け取りなどは、その対応策の一つ。以前はローソンと組んで、お店から顧客宅まで配送をしてもらったり、日本郵便と協力してメール便が入るポストを開発したり、荷物を受取人が指定する場所に置く「置き配」のサービスも提供している。

 

2019年9月の最新情報では、さらに「Amazon Hub」※6と呼ばれるサービスが始まった。コンビニ店頭や鉄道の駅などに置かれるロッカーで配達された商品を受け取れる「Amazon Hubロッカー」と、スタッフが荷物の受け渡しをする「Amazon Hubカウンター」を設けるサービスで、顧客の利便性向上とともに再配達の負担軽減を進めている。

 

※6 2019年9月18日 日本経済新聞 アマゾン、商品受け取り場所に宅配ロッカーやカフェ

 

顧客の利便性を損なうことなく効率的に商品を届けるためのシステム改善は、アマゾンが現在最も注力している点の一つである。

配送用ドローン「Prime Air」でさらに時短?

◆ロジスティックスの新しい挑戦

 

目新しいトピックとして、2019年6月、ラスベガスで開催された「re:MARS」というIoT(Internet of Things=モノのインターネットのことで、身の回りにあるあらゆるものがインターネットに繫がり連携することが可能になるサービス)に関する展示会イベントで、アマゾンは配送用ドローン「Prime Air」を披露して、数カ月以内にアマゾンプライムでの配送に利用することを発表した。

 

配送拠点から半径15マイル(約24㎞)以内の顧客の元へ、5ポンド(約2.26㎏)以下の荷物を30分以内で配送可能であるとしている。「Prime Air」と銘打ったサービスとしては、2016年にアメリカで自社の物流用に運航する専用貨物機を40機導入したニュースも話題となった。2019年2月には、この専用貨物機を2021年までに50機に増やす計画も発表している。

 

専用貨物機は広大な国土をもつ米国での話。ドローン配送は航空法との兼ね合いもあり、規模を大きくしにくく、すぐに日本でも実用化されるといった性質のサービスではなく、アマゾンらしいチャレンジの姿勢を示すデモンストレーションでもあるだろう。とはいえ、アマゾンが顧客との信頼関係に応えるロジスティックスを構築するために、コストや技術を惜しみなく注ぎ込んでイノベーションを重ねている点は注視するべきである。

 

◆高度で効率的な「マテリアルハンドリング」システム

 

ロジスティックスにとって重要なのはラストワンマイルだけではない。フルフィルメントセンターなどの配送センター、倉庫での商品のピックアップや梱包、出荷をコントロールする仕組みを物流業界では「マテリアルハンドリング」、略称で「マテハン」と呼ぶが、世界、そして日本各地のフルフィルメントセンターが高度なマテハンを整えていることもまた、アマゾンの大きな強みになっている。

 

世界中のアマゾン倉庫内での商品ピックアップの過程では、「KIVA(キヴァ)」と呼ばれるオレンジ色のロボットが活躍していることが知られている。アマゾンによって買収された会社が開発したキヴァのコンセプトは、庫内作業に従事する人が該当商品の棚まで移動するのではなく、その棚を作業員の近くまでロボットが運んでくることである。

 

キヴァは大きめの全自動掃除機ルンバのような形状だ。たとえば、商品ピックアップの過程を自動化しようとすると大がかりな設備や投資が必要になるが、数多くの棚からキヴァが的確に選んで作業員の元まで運んでくる仕組みであれば、大規模な工事や設備改修は必要ない。

 

大まかに言うと、梱包ラインは綿密な需要予測に基づいて、封筒や箱の大きさ別に複数のラインが組まれている。需要予測通りであれば、全ての梱包資材のサイズが商品サイズとマッチするのであるが、小さな商品ひとつだけを注文しても、やや分不相応な大きさの箱で送られてくることがあるのは、多少需要予測をオーバーした小さめの商品が、少し大きめのボックスのラインで梱包されるからだ。

 

アマゾンでは仕組みの進化や対応にスピードが求められる。コストを抑え、低価格で商品を顧客に提供するための効率化も重要な命題である。予測できない需要の増減などに対して人的リソースだけで対応するのは限界があり、闇雲(やみくも)に自動化ばかりを目指すのも正しくない。人の関与を削減しながら、バランスの取れた自動化を徹底したアマゾン独自のマテハンが、世界最大級の物流を支えている。

 

ちなみに、贈り物用の梱包とメッセージカードの添付であるが、リボンを結んだり、メッセージカードを添える作業は人がやっている。機械的な自動化を進めるアマゾンがこの作業を手作業にしているのは何ともほほえましいことだ。クリスマスなどの繁忙期などは、私もこの作業を手伝いに何度かフルフィルメントセンターに駆り出されたものだ。顧客がプレゼントに込める気持ちを考えながら丁寧に、でも迅速を心掛けて作業したことを覚えている。

 

アマゾンが確立した高品質な物流、ロジスティックスは、FBA(フルフィルメント by アマゾン)と呼ばれる在庫管理、配送代行サービスとして、マーケットプレイスで販売する販売事業者にも提供され、ロジスティックスそのものがアマゾンの重要なビジネスになっている。また、顧客に配送スピードをコミットするアマゾンのサービスが一般化することで、ことに日本国内ではロジスティックスそのものの「常識」が変化してきた。

 

ヤマト運輸が「クロネコメンバーズ」に対して荷物の配送状況を細かく通知、受け取り場所や時間を設定できるサービスを提供したり、ヨドバシカメラがアマゾンに対抗した配送サービスの充実を進めているのも、アマゾンがもたらした常識の変革といえるだろう。

 

「圧倒的な品揃え」「競争力のある価格」「利便性の継続した向上」を顧客に訴求することにより、ますます拡大しているアマゾンの販売。顧客はそのサービスの恩恵を受けている。しかし、需要があっても、配送能力の限界で顧客に配送できないという事態にならないように、再配達の削減、アマゾンロジスティックスとの直接契約による「儲かり継続性」のある配送ドライバーの増大、新たなる配送方法など、アマゾンの挑戦はまだまだ続く。

 

 

星 健一

kenhoshi & Company 代表

 

kenhoshi & Company 代表 

1967年横浜生まれ。1989年に縫製機器、産業装置メーカーであるJUKI株式会社に入社。2005年まで、旧ソ連から始まり、インド、シンガポール、フランス、ルーマニアと一貫して海外でキャリアを磨く。フランス、ルーマニアではそれぞれ現地法人の社長を務め、企業再生の失敗も経験。

2005年に金型標準部品などの商社である株式会社ミスミに入社し、タイ法人の社長を務める。これらの海外でのトップとしての経験が現在の経営的視点の礎となる。

2008年にアマゾンジャパンに入社。1年半後、ディレクター、リーダーシップチームメンバー(経営会議メンバー、役員)に昇進後は、ハードライン事業本部、セラーサービス事業本部、アマゾンビジネス事業本部の事業本部長を歴任し、創世期から成長期の経営層として活躍。

2018年、アマゾンを退社。2019年、kenhoshi & Companyを設立し、経験と知見を基に日本の会社、社会に貢献すべく、セミナー講師、コンサルティングを手掛ける。
お問い合わせ先: kenhoshi & Company

著者紹介

連載『amazonの絶対思考』――アマゾンジャパン元経営会議メンバーが、その裏側を解き明かす

amazonの絶対思考

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星 健一

扶桑社

「いつかアマゾンは潰れる」だからこそ「毎日が常に1日目」だと創業者ジェフ・ベゾスは言う。 14項目からなるリーダーシップ・プリンシプルをはじめ、アマゾンの成功の理由を解き明かす! アマゾンジャパン元経営会議メンバ…

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