あなたは、アマゾンという企業をどのくらいご存じだろうか? 日本でのサービス開始当初「世界最大のオンライン書店」と称されていたアマゾンは、わずか20年弱で「GAFA」と呼ばれる4大IT企業の一角にまで発展した。本連載では、アマゾンジャパン元経営会議メンバーで、現在kenhoshi & Companyの代表としてコンサルティングを手掛ける星健一氏の著書『amazonの絶対思考』(扶桑社)より一部を抜粋し、「内側から見たアマゾン」を解説してきた。今回は第13回。特別版である。

オイシックス・ラ・大地とアマゾン、相関性はあるのか

amazonの絶対思考』(扶桑社)を出版後、2020年4月より、オイシックス・ラ・大地株式会社(以降、オイシックス)のCOOに就任することになった。有機野菜などを中心としたEコマースを運営し、現在、自然派食品宅配業界の最大手だ。

 

アマゾンを退職し、コンサルティング会社kenhoshi & Companyを設立した際、筆者は「日本の会社を元気にする!」というミッションを定めた。その分、新天地となるオイシックスは、設立から20年と歴史のある会社ながら、ベンチャー気質も持ち合わせており、十分「元気な会社」である。さらに、直近では、4月9日をもって東証マザースから東証一部または二部へ市場変更することを発表している成長企業である
 

※ https://www.oisixradaichi.co.jp/news/posts/0200319/

 

今回は、今まで解説してきたアマゾンの成長の牽引力となっているミッション「地球上で最もお客さまを大切にする企業」を筆頭とした企業文化と、「元気で成長している」日本企業であるオイシックスの企業文化を比較してみたい。オイシックスのミッションとは、どのようなものだろうか。

 

【オイシックスの企業ミッション】

これからの食卓、これからの畑

より多くの人が、よい食生活を楽しめるサービスを提供します

よい食を作る人が、報われ、誇りを持てる仕組みを構築します

食べる人と作る人とを繋ぐ方法をつねに進化させ、持続可能な社会を実現します

食に関する社会課題を、ビジネスの手法で解決します

私たちは、食のこれからをつくり、ひろげていきます

 

オイシックスでは、誰を対象としたビジネスなのかを明確にしている。「食卓と畑」「食べる人と作る人を繋ぐ」「よい食を作る人が報われ、誇りを持てる」と、生産者について明確に言及しているのだ。「お客さま」に、消費者のみならず開発者、販売事業者、ビジネスパートナーも含んでいたアマゾンと同様、もしくは「作るものが報われる」と明記した分、一歩踏み込んだミッションといえる。

 

ビジネスの場面では、どうしても「購入する側」、「売る側」で立場の上下を意識せざるを得ないことがある。企業の購買部や、バイヤー、マーチャンダイザーなどは、サプライヤーに対し、一方的な仕入れ価格、納期、その他条件などを交渉していることも多いのではないだろうか。

 

売り上げを拡大させ、利益を出し、企業を存続させるためには、コストカットは大きな課題である。そして、削減した分を顧客への商品やサービスの提供価格に反映し、信頼獲得のサイクルを継続するのは、企業の使命である。しかし、オイシックスはそれだけにとどまらず、「有機野菜の安全性」という付加価値を持つ商品を作った生産者のバリューを認め、またそれを消費者にも認めてもらい、定期的に顧客へ届ける仕組みを構築している。サステイナブル(持続可能)な素晴らしいビジネスモデルではないだろうか?

 

また、同じ商品であれば少しでも安価なものを探すのが消費者の普通の行動とされるなかで、昨今、バリュー・付加価値を訴求し、顧客のロイヤリティーを醸成させようという動きが盛んだ。その1つがサブスクリプション、いわゆるサブスクモデルである。生産者、中間、消費者のWin-Win-Winモデル、双方が満足できる“サステイナブル”な状態に進化させることも重要なポイントである。オイシックスも有機野菜などの定期ボックスを毎週お届けするサブスクモデルで成長している。常に顧客にバリューを提供し続ける必要があるビジネスモデルを支えているオイシックスの企業文化はどのようなものであるか見てみよう。

「成長を遂げた企業」の行動指針には、類似点がある

14項目に及ぶアマゾンの「リーダーシップ・プリンシパル」(以下、OLP)は、長年の教育やリーダーの徹底した模範により、アマゾンの組織文化として根付いている。採用パフォーマンス評価のみならず、各場面での決断においても多くの社員が意識する、大切な行動規範だ(関連記事:外資系Amazon、意外にも「それは私の仕事じゃない」は禁句アマゾンで「最もやってはならないこと」は何?元本部長が語る)。

 

◆オイシックスの行動規範であるORDismとは?

 

さて、今回オイシックスに入社して驚いたのが、ORDism(オーディズム)と呼ばれている7つの行動規範である。ORDはそれぞれのブランド名(Oisix、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会)の頭文字をとったものらしいのだが、アマゾンのOLPと類似点、相違点はあるのだろうか? 順を追って紹介してみよう。

 

ORDism① ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ(Mission is Possible)

 

ベストを尽くしても、Missionを成し遂げることができないとプロフェッショナルとはいえない。メンバーは、プロフェッショナルとして、それぞれのMissionを成し遂げるよう活動する。

 

もちろんベストを尽くす努力はとても大事であるが、努力の積み重ねの先にMissionの達成を常に見据え、ゴールから逆算した計画に基づいて活動する必要がある。

 

一人ひとりのメンバーのMissionはチームのMissionの分解である。そのための誰か一人のメンバーがMissionを果たすことができなければ、チームの勝利はおぼつかない。

 

同時に、どのように動けばMissionを成し遂げるための活動を効率よく実行することができるか考え、常に生産性を向上させるチャレンジをすることも必要である。

 

生産性が低ければベストを尽くしてもMissionを成し遂げることはできない。各メンバーが責任感と自主性を持って活動し、Missionを成し遂げるのが、ORD流である。

 

⇒ アマゾンでは、Deliver Results (アマゾニアンは結果を出せ)

 

これは、OLPの他13項目の行動規範をベースに、最終的にはDeliver Resultを成し遂げるために重要なインプットにフォーカスし、妥協せず実行することを指している。ORDismもMissionを成し遂げるため(結果を出すため)には、生産性高く、チームの一員として責任感と自主性(オーナーシップ)を意識するように促している。

 

オイシックスORDismでは冒頭に、アマゾンOLPでは一番最後に置いても同じことで、要は「結果は出せよ、達成しろよ!」ということ。

 

※ アマゾンのOLPの和訳は著者によるもの。公式には英語表記のみ。

 

ORDism② 早いもの勝ち、速いもの価値 (Don't Stop Me Now)

 

戦略の精度以上に、スピードに乗って戦略を素早く実行できることが急成長するためには必要である。

 

面白いアイデアを思いつくこと以上に、自分のだろうが他人のだろうが優れたアイデアを素早く実行に移すことの方が大事である。

 

すぐに実行すれば簡単に効果が出ることでも、タイミングを逸すると大した効果が出せなかったり実行に多大なコストがかかったりしてしまうことが多い。

 

スピードに乗ってどんどん新たなチャレンジを実行し、たくさん失敗を重ねることで、自分達が進むべき道を明らかにすることができ次のチャレンジの成功確率を上げることができる。但し、スピードに乗った施策をする上では、その施策の成否の判断ができるレベルの品質が必要である。

 

また、組織が大きくなると「大企業病」の発症などによってスピードが遅くなりがちであることを十分に認識し、スピードを向上させる工夫を不断に行っていく必要がある。

 

「打ち手」にも旬があることを認識し、規模の成長を実現しつつスピーディーに打ち手を次々と実行していくことがORD流である。

 

⇒ アマゾンでは、Bias for Action (ビジネスにはスピードが重要)

 

アマゾンでもデータ分析、深堀りも重要と言っている一方で、やり直すこともできるし、計算されたリスクをとることも重要といっている。70%の仮説でスタートし、残りの30%を完璧にするために時間をかけるべきではないし、たとえ失敗したとしても、2-WAY、すなわちうまくいかなかったときの戻り方、リスクヘッジを考えておくべきなのである。

 

ORDismでは、それができないことを「大企業病」として社員に危機感を持たせているが、ジェフ・ベゾスも「Social Cohesion」、すなわち馴れ合いを恐れて同じように危機感を醸成させていた。

 

ORDism③ お客さまを裏切れ(Can't take my eyes off of customers)

 

徹底的にお客さまの声を聞き、お客さまの顕在的・潜在的なご要望を客観的に知り、どういう方法でお客さまのご要望をかなえるか、どうやって半歩先のサービスを提供するか、全身全霊で考える。記念日に家族や恋人に贈るプレゼントに仕掛けるサプライズのように、お客さまのご期待を超えるサービスを提供する。

 

期待どおりのサービスでは満足はしてもらえても感動は生まれない。期待を超え、いい意味でお客さまを裏切ったサービスからのみ、感動が生まれる。

 

ここでいう「お客さま」は、基本的には当社の商品をご購入頂く消費者の方がメインであるが、時にはお取引さまや自社の仲間たちにあてはめることもできる。

 

お客さまも変化し続ける。昔の成功体験を捨て、常にお客さまの意識の近くにいられるよう、お客さまの声を聞き続ける。

 

お客さまに常に「嬉しい驚き」を提供するのがORD流であり、お客さま一人ひとりの「嬉しい驚き」の積み重ねが、当社の価値であり喜びである

 

⇒ アマゾンでは、Customer Obsession (顧客中心の判断基準は妥協するな)

 

アマゾンはこれを最も重要な行動規範として掲げ、お客さまを起点に考え行動する(Working backwards from the customer)ことによって、様々なサービスを生み出している。

 

たとえば、プライム会員への特典は顧客の期待を大きく超えているものではないだろうか?(関連記事:会員すら知らない「アマゾンプライム」の多すぎるメリット

 

日本の場合、配送料無料などの配送特典だけではなく、プライムビデオやプライムミュージックなどのデジタル特典など、わずか年間4900円で数えきれないサービスを提供している。もちろん、サービス開始当初から利益が出ていたわけではない。それでも、利益よりも長期的な投資による顧客満足度向上を優先させ、将来的な会員拡大によるスケールメリットを最大化させる戦略をとった。

 

ORDismでも明確なのは、顧客の期待をいい意味で裏切り、感動を与えることを奨励されている点だ。月額1408円で1回の注文につき定番商品3つが0円で購入、野菜とフルーツが20%OFFで購入できる「プライムパス」、有機野菜だけではなく、時短商品のミールキット「Kit Oisix」、3日分(ないしは5日分)の食材と献立のレシピがセットになった「ちゃんとOisix」など、様々なサービスを展開し、さらに生産者などにも報いるビジネスモデルが構築できているのだろう。

 

 

【最終回につづく】

 

星 健一

kenhoshi & Company 代表

 

 

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