平成29年4月1日に、海外財産や外国人に対する相続税の取扱いが改正され、5年から10年ルールとなりました。家族全員で海外移住し、10年経過しないと日本の相続税からは逃れられなくなったのです。本記事では、海外財産や外国人がどのように相続税と関わるのか、解説していきます。※本記事は、円満相続税理士法人の橘慶太税理士の語り下ろしによるものです。

「国際相続」の基本的な考え方とは?

外国には相続税のない国がたくさんあります。むしろ相続税がある国の方が珍しいのです。相続税のない国は、たとえばイタリア、カナダ、中国、インドなどが挙げられます。

 

特に近年、日本人からの人気が増しているシンガポールやマレーシアにも相続税がありません。そうすると、日本の多くの富裕層が、次のように考えるのです。

 

「相続税のかからないシンガポールやマレーシアに移住してしまえばいいのではないか?」

 

しかし、これをやられてしまうと、日本政府としては非常に困るのです。税金は取れない、資金が外国に流失してしまう……最悪です。そこで、政府としては、日本の相続税がとりっぱぐれないように、とても厳しいルールを導入しています。

 

結論からいうと、日本の相続税の呪縛から解放されるには、「家族全員で海外に移住して10年経過すること」が条件です。ちなみに平成29年3月31日までは、移住して5年経過することが条件でした。税制改正により10年に変更されました。

 

順を追ってみていきましょう。まずは、国際相続の基本的な考え方です。

 

はじめに、ベースとなるのは「財産が国内にあるのか、海外にあるのか」です。たとえば、日本で不動産をもっているのであれば、それがたとえ世界の反対側に住むブラジル人がもっていたとしても、日本の相続税がかかります。

 

ブラジルに住んでいるブラジル人が、ブラジルに住むブラジル人の家族に相続させたとしても、日本の不動産には日本の相続税がかかります。日本にきて、日本の税務署で申告をしてもらいます(この場合には、麹町税務署で申告することになるケースが多いです)。

 

日本国内にある財産は誰がもっていようとも問答無用で日本の相続税が課税されるのです。

 

日本国内に不動産を保有していれば、問答無用
日本国内に不動産を保有していれば、問答無用

 

一方で、ブラジルに住むブラジル人の、ブラジルの土地などにまで、日本の相続税が課税されるのでしょうか?

 

それはさすがにやりすぎです。そこまでは日本の相続税は課税されません。しかし、もし日本に住んでいる日本人が、ブラジルの土地をもっていた場合には、そのブラジルの土地にも日本の相続税がかかります

 

日本の相続税は、人によって海外にある財産にまで課税される場合と、海外にある財産には課税されない場合があるのです。

 

そのことから、海外にある財産に相続税が課税されない人になり、海外に財産を持ち出せば日本の相続税がかからなくなるのです。

 

それをやられては国はとても困るので、海外にある財産でも相続税が課税されない人になるためのハードルは、とても高く設定されているのです。

被相続人と相続人、一方が日本在住なら全世界で課税

ひとつずつ、解説していきます。アメリカに不動産をもっている父が亡くなり、長男が遺産を相続するという前提で解説をします。

 

日本の相続税は、亡くなった人、遺産を相続する人(相続人)のどちらかが日本に住んでいる場合には、海外の財産にも課税されます。

 

たとえば、父が日本に住んでいて、長男はアメリカに住んでいたとします。この場合、亡くなった人(=父)が日本に住んでいるので、長男がアメリカに住んでいようが、ブラジルに住んでいようが、アメリカの不動産にも日本の相続税がかかります。

 

逆に、父がアメリカに住んでいて、長男は日本に住んでいたとします。この場合も同様に、遺産を相続する人が日本に住んでいるので、アメリカの不動産も含めて日本の相続税を計算しなければいけません。

 

この取扱いがあるので、実は国際相続はシンプルなのです。相続する側、相続される側、どちらかが日本に住んでいたら、全世界の財産に日本の相続税がかかるので、本当に日本の相続税から逃げたいのであれば、家族そろって海外に移住しなければいけないわけです。しかも日本の不動産などもすべて売却して、財産も海外にもっていかなければいけません。

 

つまり、日本での生活をすべて放棄することになります。相続税を払いたくないという動機だけで、家族全員で海外移住を検討するというのは、なかなか、ハードルの高いことです。

 

海外を使った相続税の節税を検討している人に、今の話をすると99%の人が、その時点で諦めます。ひと昔前は、財産を相続する人だけを海外に住まわせて、一定の条件を満たせば、海外財産に日本の相続税が課税されなくなったのですが、税制改正が行われたため、今はできません。

亡くなった人も相続人も海外在住なら、どうなる?

亡くなった人も、遺産を相続する人も海外に住んでいる場合でも、簡単に日本の相続税からは逃げられません。次にでてくるのが、10年のルールです。

 

亡くなった人が、日本を離れてから10年を経過していない場合には、海外の財産にも日本の相続税がかかります。

 

たとえば、父も長男もアメリカに住んでいたとします。しかし、父は6年前まで日本に住んでいました。この父が亡くなってしまった場合には、父のアメリカの財産にまで日本の相続税がかかります。

 

ちなみに、平成29年3月までは、この10年ルールは5年ルールでした。5年だったら頑張ろうと思う人を封じ込めることが目的で税制改正されたのです。

 

亡くなった人も遺産を相続する人も海外に住んでいて、かつ、亡くなった人が日本を離れて10年以上経過していとします。次なる判定は、遺産を相続する人の国籍です。遺産を相続する人が外国籍だった場合には、やっと、海外の財産については日本の相続税がかからなくなります。

 

もし、遺産を相続する人が日本国籍だった場合には、その遺産を相続する人にも10年ルールが適用されます。遺産を相続する人も日本を離れて10年経っていれば、日本国籍のままだったとしても日本の相続税がかからなくなります

 

整理をすると、[図表1]のようになります。

 

[図表1]日本の相続税/フローチャート

 

まずは、亡くなった人と相続人の両者とも海外に住んでいるかどうかをチェックします。どちらかが日本に住んでいる場合には、海外にある財産にも日本の相続税がかかります。

 

どちらも海外に住んでいる場合には、亡くなった人が日本を離れて10年経過しているかをチェックします。10年以内に相続が発生しているのであれば、これまた海外にある財産にも日本の相続税がかかります。

 

亡くなった人が日本を離れて10年経過している場合には、相続人の国籍を調べます。外国籍の場合には、海外財産は日本の相続税の呪縛から解放されます。しかし、相続人が日本国籍の場合には最後のチェックに進みます。

 

最後のチェックは、相続人が日本を離れて10年経過しているかどうかです。10年経過していれば、海外財産に日本の相続税がかからなくなります。しかし10年経過していないのなら、海外の財産にも日本の相続税が課税されます。

 

ひと言でいえば、家族全員で海外移住して10年経過しないと日本の相続税からは逃げられないということです。

たまたま日本に住んでいた外国人が亡くなったら?

先ほど、亡くなった人か相続人が日本に住んでいた場合には、問答無用で全世界の財産に日本の相続税が課税されます、といいました。

 

そうすると、たまたま日本に仕事で赴任していた外国人が亡くなってしまった場合や、たまたま日本に留学にきていた外国人の親が亡くなってしまった時にまで、日本の相続税が課税されてしまうことになります。

 

この取り扱いは酷であるとのことで、平成29年4月1日に税制改正が行われました。外国人のうち、相続が発生する15年前の期間のうち、日本に住所があった期間の合計が10年以下の人は、日本に住んでいない外国人として取り扱うこととされました。

 

これによって、たまたま日本にきていた外国人に相続が発生しても、日本のややこしい相続税が課税されなくなったのです。

 

なお、日本の居住期間が10年以下の外国人であったとしても、配偶者ビザできているような場合には、上記のような取り扱いはありません。ビザの種類によって取扱いが異なるので、注意してください。

 

 ◆まとめ 

基本的には、海外の財産だろうと、日本にある財産だろうと、日本に住んでいる人のものであれば、日本の相続税がかかります。

 

財産をもって海外に逃げようと思っても、自分だけでなく、家族まで連れて行かなければ、日本の相続税からは逃げられません。

 

つまり、海外移住を駆使して日本の相続税から逃げることはできないのです。諦めてください。

 

海外移住のスキームを検討されている人の多くは、相続税の負担をゼロにしようと考えていますが、今は相続税の負担をゼロにすることはできないのです。

 

 

【動画/筆者が「海外在住の日本人の相続税」について分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

 

 

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