腹違いのきょうだい間で「争続」になりやすいワケ
相続が発生した際に、親の隠し子が見つかるケースとしては以下のようなものがあります。
父親を亡くしたAさんは、自宅不動産と預金の遺産を相続することになりました。Aさんの母親は以前に亡くなっており、相続人は一人っ子であるAさんだけの予定でした。
ところが、父の預金口座を解約するために銀行に戸籍を提出したところ、担当者からあることを告げられました。それは、「Aさんの父親には、別の女性との間に認知した子どもがいますので、その人と遺産分割協議をしないと手続は進められません」というものでした。
Aさんは初めて隠し子の存在を知ったため、住所や連絡先は何も知りません。このような場合、どうすればいいのでしょうか?
遺産分割の相談時に相続関係を聞くと、腹違いのきょうだいが相続人であるということが、意外と少なくありません。日本では、離婚率がおよそ3組に1組という割合の時代の中で、夫婦の在り方も多様化しています。腹違いのきょうだいがいること自体は、実はそれほど珍しいことではないのかもしれません。しかし、面識があったり連絡を取り合ったりしている関係性の方はやはり少ないのではないでしょうか。
実際に、筆者が遺産分割を手伝った中でも、相続が発生して初めて腹違いのきょうだいがいることを知ったというケースや、存在は知っていたが名前も連絡先もわからないというケースがありました。
一般論として、相続人間の関係性が希薄であればあるほど、相手方への配慮や思いやりの気持ちが少なく、自分の経済的利益を優先してしまうため、紛争になりやすいという傾向があります。そのような関係性の場合、相続人の間で直接連絡を取り合うことを望まずに、相続発生後の早い段階から弁護士に間に入ってもらい、遺産分割協議を進めたい、とのご要望をいただくことも少なくありません。そのため、腹違いのきょうだい間で行う遺産分割については、弁護士関与の割合が比較的高いのではないかと思います。
役所で取得する必要がある「戸籍の附票」とは?
遺産分割協議は、すべての相続人の間で行わなければいけません。その前提として、相続人が誰かを正確に把握する必要があります。そのためには、亡くなった人の、出生から死亡するまでのすべての戸籍を取得する必要があります。さらに、戸籍の調査の結果、腹違いのきょうだいが存在することが判明した場合には、その人たちに連絡を取ることになります。
もともと面識があり、住所や電話番号なども知っているのであれば、まずはそこに連絡するのがいいでしょう。しかし、戸籍を取って初めて腹違いのきょうだいの存在を知ったというケースでは、連絡先を知っていることはほとんどないでしょう。そのような場合は、「戸籍の附票」という書類を役所で取得する必要があります。
戸籍の附票には、対象者の現在の住民票上の住所が記録されていますので、取得すれば、腹違いの兄弟姉妹の現在の状況が分かります。住民票上の住所が分かったら、そこに宛てて手紙などを出し、遺産分割の協議を申し入れます。そして、遺産分割についての希望や意見があるかを確認します。
通常は、書面や電話などで回答を依頼することが多いですが、必要があれば、直接会って協議を行うこともあります。
いずれにしても、腹違いのきょうだいと連絡が取れるようになれば、あとは通常の遺産分割との違いはありません。まずは協議をしてみて、まとまらなければ調停を申し立て、それでも話し合いがつかなければ審判により、遺産分割の解決を目指していくことになります。
相続人に腹違いのきょうだいがいる遺産分割協議の場合、淡々と法定相続分に基づく遺産分割を行うケースが多いため、比較的早期に協議や調停が成立することが多いという印象です。それまで関係性が希薄であった相手との接点を早く解消したい、という思いのあらわれなのかもしれません。
なお、住民票上の住所に送った手紙が届かない、というケースもあり得ます。その場合の遺産分割の進め方としては、まず住民票上の住所の調査を行い、そこに住んでいるか否かを確かめます。次に、住んでいないことが分かり、その他に現在の居所が分からない、いわゆる行方不明のような場合には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。そして、不在者財産管理人が選任されたら、その管理人を当事者として遺産分割協議を行い、ダメなら調停を申し立てます。それでも話し合いがつかなければ審判により、遺産分割の解決を目指すことになります。
腹違いのきょうだい間での遺産分割は、弁護士が早期に介入することで、素性のわからない相手方と協議を行わなければいけないという心理的負担を解消でき、早期解決につながるケースが多いように思います。
相続人の中に腹違いのきょうだいがいることが判明した場合、まずは弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。
細越 善斉
CST法律事務所
代表
本稿執筆者 岸田康雄氏登壇セミナー
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