年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、長男が相続放棄を妹たちにお願いしたことで始まった相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

厳しかった父が、会社を残し50代で急死

今回登場するのは、長男、長女、次女の3兄妹です。3人が生まれたのは、小さいながらも、地元では有名な建築会社。父が一代で大きくした会社でした。

 

父は「男は強くないといけない!」と口癖のようにいい、Aさんは幼少の頃から武道を習っていました。

 

一方で父は「跡取りとして、いい大学に入れ!」と口癖のようにいい、Aさんは家庭教師のもと、夜遅くまで勉強をしなければなりませんでした。

 

また妹ふたりにも、厳しかった父。幼少の頃から、ピアノやバイオリン、バレーなどを習い、勉強も家庭教師のもと、夜遅くまでしなければなりませんでした。

 

「この子たちは、いずれこの家を出ていかなければならない。頭が良くて、気立てがよくないと、いい人と結婚など、できないだろう」

 

二人の妹に対して、父は口癖のようにいっていました。

 

言い方、考え方に違いはあれ、子どもに厳しかった父。それは妻に対しても同じでした。

 

「きちんと掃除をしておけ!」

「早く飯にしろ!」

 

3人が思い出すのは、何かにつけて母を怒る父の姿でした。こんな夫婦生活に嫌気がさしたのでしょう。母は、次女が成人になったのを機に、家を出ていってしまいました。

 

「あなたたちは、どこにいても、私の子どもであることに、変わりはないわ」と晴れ晴れとした表情で家を出ていった母が印象的でした。

 

一方、成人を迎えた3人の子どもたちは、それぞれの道へ。長男は、大学卒業後、一般企業に就職し、30歳を前に結婚し、父の会社に転職。いまは会社のナンバー2として、忙しい日々を過ごしています。長女は、大学卒業後、就職した会社の同期と26歳で結婚。いまは仕事をやめ、二人の子どもの母親として、忙しい毎日を過ごしています。次女は大学卒業後、海外に留学。3年を経て帰国し、いまは外資系企業でキャリアを積んでいます。近いうちに、フィアンセと結婚をするそうです。

 

三人がそれぞれの道で充実した毎日を過ごしていたある日、不幸が訪れました。

 

「父さんが倒れた」

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