次女「私もそう。だって、お父さんが社長だったといっても、結構A(=長男)が経営をまかされていたんでしょ。会社の経営が厳しいんだったら、それくらいわかっていたはずだし、遺産の額がどうこういう前に、相続放棄の話はできたわよね」
長女「そうよね。それにね、私、実家で見たのよ、高そうな、女性用のバッグ。あれって、百万円くらいするバッグよ。玄関に合ったAの奥さんの靴も、高そうだった……」
次女「何かあるわね。ちゃんと調べてみないと」
このような話し合いがあったあと、会社の経営状況を調べてみたところ、厳しいどころか好調であることがわかりました。さらに判明した事実が……長男には大きな借金があったのです。二人の妹に問い詰められた長男は、白状したのです。
「実は、B(=長男の妻)の浪費癖がひどくて、いつの間にか色々なところで借金をして……」という長男に「あなたたち、夫婦のことでしょ! 私たちには関係ないじゃない!」と、二人の妹の怒りは爆発。その後、遺産分割の話し合いとともに、兄夫婦の離婚話も並行して進んでいるとのことです。
「相続放棄」は、相続発生から3ヵ月以内に
相続の手続きに期限が存在するのは3つです。
3ヵ月→相続放棄の期限
4ヵ月→所得税の準確定申告の期限
10ヵ月→相続税の申告
今回の事例では兄から妹たちに相続放棄の依頼がありました。相続から1ヵ月ほど経ってからのできごとなので、あと2ヵ月以内に相続を放棄することを家庭裁判所に申し出れば、相続放棄が成立します。相続が発生してから3ヵ月以内に申し出をしないと、相続することを承認したものと取り扱われますので注意が必要です。
ちなみに相続放棄をしなくても、遺産分割協議で、「私は財産を相続しなくていいですよ」と言えば、同じ結果になります。どちらかといえば、相続放棄は、亡くなった方が借金などを多額に残してしまった場合などに使われることが多いです。
また、相続の放棄があった場合には相続人の人数が変わりますが、相続税の計算には影響を与えないようになっています。つまり、放棄をしたからといって相続税がお得になったり、損したりすることはありません。
しかし、相続放棄したほうが相続税は圧倒的に安くなるケースがあります。それは「第2順位の相続」です(図表1)。亡くなった人に子供がいない場合には、法定相続人は父と母になります。この場合には、相続税の観点から相続放棄を検討するべきです。
なぜかというと、独身の子どもが親より先に亡くなると、子どもの財産は親に相続されます。この相続されるタイミングにおいて、子供が残した遺産に相続税が課税される可能性があります。
親は、相続税を支払って子どもの財産を相続するのですが、この親が亡くなってしまった時には、もう一度相続税を支払わないと、最終的に妹に財産を渡すことができないのです。兄の財産が妹に渡るためには、2回も相続税を払わないといけないことになります。さらに父と母が資産家だった場合には、子どもから相続した財産にまで、非常に高い税率で相続税が課税されてしまいます。
このような事態を避けるために、第2順位の相続のケースにおいては、父と母はあえて相続を放棄します。兄から妹へ遺産が相続されることになり、このタイミングで相続税を払わなければいけません。しかし、兄の遺産は父と母に渡らなかったので、父と母が亡くなった時の相続税の負担は先ほどのケースよりも断然少なくなるはずです。
ちなみに、このケースにおいては、妹に対して課税される相続税は、父母の時と比べて1.2倍されます。この取扱い「相続税の2割加算」といいます。しかし、2割加算の取扱いを受けたとしても、両親に多額の資産がある場合などには、相続放棄をして代を飛ばした方が有利になるのです。
【動画/筆者が「相続後の手続き」について分かりやすく解説】
橘慶太
円満相続税理士法人