家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、家族間の相続トラブルを回避するために遺言書がいかに重要であるか、いくつかの事例をもとに見ていきましょう。※本記事は日本橋中央法律事務所の山口明弁護士の書き下ろしによるものです。

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遺言書こそ、子ども同士の相続争いを避ける最良の手段

自分の死後、子ども同士の紛争の発生を望む親はいないでしょう。しかし現実には、親の遺産の取り分や分け方を巡って、子ども同士に長きに渡る諍(いさか)いが生じるケースは珍しくありません。

 

親から生前贈与を受けた子がいる場合には、それが特別受益(民法903条)に該当するか否かが問題になりますし、親の事業を手伝った、親の療養看護をしたという子がいる場合には、それが寄与分(民法904条の2)に該当するか否かが問題となります。

 

弁護士として相続トラブルのご相談を受けたときに、相続人の方から、特別受益や寄与分がどの程度評価されるのかを聞かれることがありますが、法律に明確な算定式が記載されているわけではなく、また個別の事情や依頼者の手元に残された資料等によっても大きく結論が変わりますので、裁判所においてどのように評価されるのかを正確に予測することが難しい領域といえます。

 

 

そのため、訴訟外の任意の交渉でまとまらない事例も多く、相続トラブルがひとたび発生すると、家庭裁判所で調停が行われ、調停では協議が調わずに、審判に移行するなどして、数年にわたって紛争が継続することも珍しくありません。

 

その数年の間に、子ども同士で絶縁状態となってしまい、また子ども全員が心身ともに疲弊してしまうことがあります。

 

遺志を明示するか否かで、相続結果は雲泥の差に…

●父親が急死、家業を手伝っていない子たちが法定相続分に従った分配を主張

 

例えば、実家が商売をしていて、その家業を手伝っていた子Aは、父親から常々「そろそろ遺言書を作って全財産をAに譲りたい」と言われていましたが、Aとしては縁起でもない話だと考えて、「まだ作らなくていい」と伝えていました。そうしたところ、被相続人が急死してしまったのですが、ほかの子BとCが、Aはたいして家業を手伝っていないから、法定相続分に従って遺産を分配してもらえる権利があると主張して譲らず、長年にわたって相続人間で泥沼の紛争が発生しました。

 

●遺言の内容がきわめて曖昧なうえ、あとから加筆された形跡も…

 

また、遺言があるにはあったのですが、極めて解釈があいまいであったうえに、あとから書き加えられた跡があったため、被相続人本人が書き加えたものかわからずに相続人同士で紛争になったというケースもあります。

 

●仲の悪いきょうだいが、父親の看護の期間・内容について延々と諍い

 

父親が不治の病にかかり、数年間、子Aが看護をするなどして献身的に支えていたのですが、子Bとは生前から子ども同士で仲が悪く、子Bとしても子Aが父親を看護したのは最期の数年間だけだし、父親の遺産はできる限りもらいたいという意向を持っていたため、かなり高い確率で長きにわたる相続トラブルとなることは間違いないと思われた事案もありました。

 

●遺言書の内容から父親の思いを知り、きょうだい全員が納得

 

父親の死亡後において、子Aが父親の遺品を整理していたところ、父親が自筆での遺言書を作成しているのを発見したという事案があります。子ども同士で、父親が作成した遺言書の内容を確認したところ、子Bも「それが父親の意思であればそれは尊重したい」ということで納得し、紛争が長期化することを避けることができました。また、この遺言書があったことによって、子ども同士で絶縁状態になることも避けることができました。

1通の遺言書が、家族の気持ちをひとつにまとめる

たかが1通の遺言書ではありますが、筆者としては、子ども同士の相続に関する紛争を避けるための最良の手段であると考えています。しかし、法務省が平成29年に行った調査によれば、アンケート調査の結果、自筆証書遺言を作成したことがあると回答した人は全体の3.7%にとどまり、公正証書遺言を作成したことがあると回答した人は全体の3.1%にとどまっています。これは、かなり少ない割合といえます。逆に、遺産分割の調停の件数は年々増加する傾向にあります。

 

 

なお、自筆証書遺言であれば、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押すだけで有効となります(民法960条)。また、法律的には効力を有しないこと、例えば、残されるご家族へのこれまでの想いも書き記しておくことができます。わざわざ公証役場まで行って、公正証書遺言を作成するのは面倒だ、という方であっても、相続人間での長きにわたる紛争を回避するために、少なくとも自筆証書遺言を作成しておくことは、本当に有効なことです。

 

とはいえ、遺言書の解釈が不明確であると、その解釈を巡って相続人間で紛争が起こることもありますし、実際にそのような事案も目にします。そのため、遺言書にはできる限り解釈があいまいな部分を残さないほうがよいです。そのためには、弁護士などの専門家に依頼して遺言書を作成をしたほうが望ましいと思います。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所 弁護士

 

 

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