家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。姑と嫁の関係は、しばしば難しいものと考えられがちですが、実の親子のように深い信頼関係で結ばれることも当然あります。本記事では、息子亡きあとも嫁と助け合い、自分の資産を引き継がせた姑の例を紹介します。※本記事は菱田司法書士事務所の菱田陽介司法書士の書き下ろしによるものです。

療養を続けていた夫が、ついに旅立ち…

嫁と婚家が不仲になりやすいという話は、しばしば世間でも取りざたされていますが、実際にはそういうケースばかりではありません。筆者が取り扱った事例に、夫が亡くなったあとも義母と助け合い、深い信頼関係で結ばれていたご家族がいます。義母は資産を嫁に引き継いでほしいと、遺言書の作成を行い、その後無事に相続が実現しました。お嫁さんは現在、大切な娘さんとともに平穏な生活を送っています。

 

40代の兼業主婦・A子さんは、ここ数年病気療養を続けてきたご主人を、とうとう亡くしてしまいました。残されたのは小学生のひとり娘と高齢の義母です。ご主人の治療費と休職の影響で、手元にあるのはわずかな預貯金のみ。これまでも近居で面倒を見ていた義母は、本人名義の自宅兼アパートを所有しているだけで、双方がギリギリ生活可能といった状況でした。

 

その後しばらくのち、体が弱った義母は介護が必要になり、仕事をしているA子さんは、義母に施設へ入所してもらいました。入所にかかる費用は、義母の年金とアパートの賃料で相殺され、なんとか赤字を免れているといった状況です。

 

A子さんは、自分と義母の貯金通帳をのぞき込み、節約すればしばらくはなんとかなるかな…と考えていましたが、そう遠くない将来発生するであろう相続のことを考え、ハッとしました。

 

じつは、義母は夫が幼かったころに離婚しているのですが、その際、夫の姉にあたる長女を置いてきているのです。その後、義母と夫は長女(姉)と交流を持つこともなく、現在に至ります。義母にも夫にも、離ればなれになった長女について、どのような思いでいるのか、尋ねたことはありませんでした。

 

A子さんには年の離れた弟がいます。もし自分の両親が離婚した際、弟だけ連れて母が出て行ったとしたら…。そう思うと、いたたまれない気持ちになりますが、一方で、自分と娘の今後の生活に大きく関わることでもあり、気分は重たくなるのでした。義母の相続人は、自分の娘と、これまで会ったことがない義姉で、今後相続が発生した際にどんなやりとりを行う必要があるのか、事態が収束するまでにどれほどの時間と労力がかかるのか、想像もできませんでした。

義母が所有するアパートはどうなる?

ある日の週末、A子さんは義母を訪問した際、思い切って相続のことを尋ねてみました。幸い義母は、足腰は弱っているものの頭はしっかりしています。

 

「お母さん。お母さんが経営しているアパート、これからどうしたらいいでしょう?」

 

A子さんの義母は、しばらく沈黙したあと、静かに亡き息子の思い出話をはじめました。幼かったころから、無事に大学を卒業できたときのこと、そしてA子さんとの結婚が決まって、自分はどれほど嬉しかったか、淡々と話す言葉に、抑えた気持ちがにじんでいるかのようでした。

 

「少し大人しかったけれど、優しくて、思いやりがあって、いい子で…」

 

A子さんが「本当にそうですね」と相づちを打つと、A子さんの義母はいいました。

 

「体の弱い息子で、あなたに苦労ばかりさせて、本当にごめんなさい。許してね。私の資産は古いアパートだけだけれど、息子を大事にしてくれて、かわいい子まで産んでくれたあなたに、全部もらってほしいの」

 

そして、A子さんの義母は言葉を付け加えました。

 

「私、あなたが面倒をみてくれるから、毎日安心して過ごせるのよ」

義母の意思に沿った遺言書を作成

A子さんと義母は相談して、遺言書の作成を行うことにしました。

 

A子さんは、義母の古い知り合いが紹介してくれた司法書士のもとを訪れ、事情を話しました。するとその司法書士は、すぐに義母がいる施設を訪問して、義母の判断能力と遺言内容を確認しました。

 

後日、司法書士が公証人と証人を連れて再訪し、無事に公正証書遺言が作成されました。遺言書の内容は義母の想いのとおり、「すべての遺産を嫁のA子に遺贈する」というものです。

 

 

A子さんがひと安心してからしばらくのち、今度は義母の姉の訃報が届きました。義母が相続人になったのです。

 

義母の姉は資産家だったらしく、税理士から遺産分割協議の申し入れがありました。しかし、義母は目に見えて衰えていました。

 

A子さんが税理士に義母の状況を正直に伝えたところ、後見人を立ててくれないと協議が進められないとの返答がありました。いったいいくらの相続財産が義母に入るのかは、正式な後見人にしか開示しないというのです。そのため、A子さんは、司法書士に依頼して後見人の選任を申し立てました。後見人の候補者はA子さん自身です。

 

裁判所からは、A子さんが後見人になるにあたり、義母の長女の同意を得てほしいとの要望がありました。親族間での紛争性の有無の確認と、将来の相続紛争の回避がその理由です。もし同意書が取れない場合は、専門職の後見人が選任されることがあります。

 

A子さんは、いよいよ義姉と話をすることになりました。

 

義姉は、義母の遺産についていろいろと質問をしました。自分の母親の相続発生時、どの程度資産が入るのかを知りたいようでした。A子さんは、資産状況を率直に義姉へ伝えました。義姉はA子さんの提案を了承しました。

 

しばらくのち、後見人に選任されたA子さんは、遺産分割協議に参加することができました。裁判所の意見も聞き、法定相続分での分割を希望し、義母は数千万円を相続することになりました。

義母のアパートは無事、お嫁さんの名義に

それから2年後、A子さんの義母は他界しました。無事に葬儀も終え、永代供養の霊園に納骨したあと、司法書士に遺言書のとおりの相続手続きをしてもらいました。

 

遺言書のおかげで、義母の長女の関与なく自宅アパートの名義も変えることができました。長女からは司法書士あてに遺留分の請求がありましたが、義母が生前に相続したお金で支払うことができました。

 

義母の言いつけに従い、長女に葬儀や法事の連絡はしませんでした。義母の本心はわかりませんが、恐らくA子さんの心労を慮ってのことだと思われます。

 

A子さんと義母は、義理の関係ではありますが、お互いの信頼関係が深く、事前にきちんと対策を取ることができました。A子さんは無事に義母の資産を相続し、娘さんとの生活を守ることができたのです。

 

現在のA子さんは、義母から引き継いだアパートを経営しながら、以前と変わらず会社員を続け、成長した娘さんと穏やかな毎日を送っています。

 

 

菱田 陽介

菱田司法書士事務所 代表

 

 

 

 

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