不動産投資において、最大のリスクは「空室」ではなく「家賃滞納」であるといっても過言ではありません。本記事では、株式会社CFネッツ代表取締役兼CFネッツグループ最高責任者・倉橋隆行氏監修の書籍『賃貸トラブル解決のプロと弁護士がこっそり教える賃貸トラブル解決の手続と方法』(プラチナ出版)より一部を抜粋・編集し、実例とともに「賃貸トラブル」の予防策や解決法を具体的に解説します。

保証会社は必ずしも万全ではないと心得る

今まで入居者のほとんどが初期費用を抑えたいという理由から個人の連帯保証人、たとえば親や親せきなどを連帯保証人にして契約したいという人もいました。しかし今後は、その連帯保証の限度額の提示義務などの規制から、今後は保証会社を利用するという形に少しずつ移行していくのではないかと思います。

 

ただ、ここで注意していただきたいのは、保証会社は必ずしも万全ではありません。ずいぶん前の話ですが、某大手保証会社が破産しました。当社の管理物件でも、この会社の保証の付いた物件がたくさんありましたから、そのときに私たちも大変でした。その保証会社は倒産する数年前から資金繰りに追われ、入居審査を疎かにしてどんどんリスクの高い人たちを入れてしまいました。そして倒産し、破産してしまったのです。

 

すると連帯保証のないリスクの高い入居者がいっぱいになり、これらの人を一つ一つ法的手続を取りながら排除していったのです。だいたいその処理に2年以上かかり、莫大な経費がかかってしまいました。

 

保証会社にもいろいろなリスクがありますので、その見極めが必要だと思います。私どもは、保証会社もいろいろ特色に合わせて使い分けようと考えています。高齢者・生活困窮者などに強い保証会社もありますし、外国籍入居者に特化した保証会社もあります。あとはCIC(指定信用情報機関)など、個人信用情報を調査して、カード破産者などのブラックリストをチェックする保証会社もありますので、こういったところを使い分けながら利用するようにしています。もちろん、保証会社の財務体質も調査しています。

「破産しているか、犯罪を犯しているか」を検索

実際にあった審査事例を、いくつかここで紹介します。

 

審査事例①

申込内容

・30代男性

・経営コンサルタント

・シェア解消&収入UPのため

 

これは30歳の男性で、職業は経営コンサルタント。転居の理由がシェアを解消することと、収入がアップしたことによってグレードアップしたいということでした。この人を通常どおりチェックしていきます。まず反社会データ、つまり、犯罪データベースに検索をかけます。それと破産しているかどうかというのも、データベースがありますので、それの検索をかけます。

 

だいたいこの二つをかけることによってどちらかにひっかかれば、破産しているか、犯罪を犯しているかということになるので、OKかNGかという判断の材料にさせてもらっています。最初に申込書を見たときに、これちょっとまずいかなと思ったので、調べたところ「詐欺未遂で30の男逮捕」という3年前の新聞記事(図表1)があり、申込者は33歳、名前と住所が一致していましたので入居審査は通さずNGにしました。33歳で経営コンサルタント、年収は数百万円という、そこに違和感を感じました。

 

[図表1]
[図表1]

 

入居審査を繰り返し、実務を積み重ねることで勘のようなものが備わります。ちょっと怪しいと思うと、やはり問題がある人だったということは多く、これは経験を積んでいくしかないと思います。

仲介業者が加担していた「空室詐欺」とは?

審査事例②

申込内容

・法人(法人契約)

・入居者は外国籍女性

・セカンドハウスとして利用

 

この法人は輸入とか輸出もしていますので、税関などの手続を迅速にするためにこの外国籍の入居者をそこに住まわせるそうですが、これもちょっと怪しい感じがしました。犯罪データベース、破産データベースをチェックしたのですが、そこには載ってきませんでした。まだ何かひっかかるので、もう一人の審査の担当者にこの情報を投げて調べてもらったところ、この人はインターネット上にトラブルの情報が載っていました。輸入したものの中に基準値を超える物質が含まれていて、再三注意勧告を受けているなどがインターネット上に出ていたので、この人の場合もやはりNGとさせてもらいました。

 

審査事例③

申込内容
 ・20代 外国籍 男性
 ・日本語学校学生
 ・転居理由は退寮

 

これは仲介業者が「空室詐欺」に加担していたというのがわかったので、NGにしました。空室詐欺とは、いわゆる窃盗グループで、他人のクレジットカードを使用して、ネットで商品を買い、空いている部屋の鍵を開けて、そこにあたかも住んでいるかのように装い、荷物を宅配便を使って受け取って逃げるという手口です。一時期は相当数起きていました。何でその鍵の場所とかがわかるのかというと、彼らに加担する仲介業者がいるのです。物件の鍵の情報というのをネット上に載せるケースがあって、IDパスワードを発行し、ネット上から鍵の番号をチェックして、その物件を案内するという仕組みがあります。

 

この仲介業者のインターネットの検索状況を見たら、夜中に相当数の検索をかけていました。当社で空室になっている物件すべてと言っていいほど、いくつかの業者が夜中の1時とか2時に検索をかけていて、その中から実際にいくつかの鍵情報を引っ張って、前述したことを行っていたことが発覚しました。

 

この事件以降、ネット上でIDパスワードを発行しても鍵の場所は教えませんが、調べてみると外国籍の会社ばかりです。もちろん当社とは取引停止処分にし、他の会社も電話やファクスでのやりとりでするようにしましたからこのようなトラブルは減りました。

 

また当社の定期巡回スタッフが空室が長期になっていたので確認に行ったら、角部屋の出窓のところに見知らぬ外国人の女の人が座って外を見ており、「何をやっているんだ!」と部屋に入って注意をしたところ、荷物をもって黙っていたそうです。すぐに警察に連絡をして引き渡しましたが、この捕まった子は、誰かに頼まれて荷物を取りに来ただけだと主張し、どうも犯罪組織の「受け子」のようでした。

 

年々、このような事件が増えており、犯罪組織も手を変え品を変え様々な手口を広げているようです。この事件は入居審査ではありませんが、空室の時の管理方法も注意を要する事例です。

「申しわけありませんが、今日は契約できません」

これは契約当日のNGという事例です。

 

申込内容

・30代男性

・職業医師

・転居理由は独立

 

申込書の内容を見る限り問題ないので、契約をすることにしました。親御さんもお医者さんで、本人も医師、年収も申し分のない方でした。しかし契約に来た日、当社のスタッフが、重要事項の説明をしてから「ちょっとこの人、変ですよ」と言い出しました。理由を聞くと、「ひとりでぶつぶつぶつ言って、人の話も聞かないし、何かこの人、契約したら絶対トラブりますよ」と言ってきました。そこで私がその人と会ってみると、本当に何を言っているのかまったくわかりませんでした。多分、医師というのはウソだろうと考え、その場で「申しわけありませんが、今日は契約できません。どうぞ、お引き取りください。細かいことは後程仲介担当者のほうに聞いてください」ということにしました。

 

早速、紹介してくれた仲介業者の担当者にその旨を伝えると、ただ「そうですか」という返事。その仲介業者の担当者もかなり変な人だとわかっていたようです。その場で、「今日は契約できません」といって帰ってもらうケースは何回かあります。ただなかには、「申し込みもしているし、そっちもOKと言っているし、こっちも引っ越しの準備をしているんだから、今さらそんなNGなんて言われても困るよ」などと言ってくる人もいます。当然ですが、どんなに文句や苦情を言われても契約はしません。ここで嫌な思いをして契約してしまい、後々、もっと嫌な思いをずっとすることを考えれば、契約などしないほうが良いのです。

 

たとえば一番困るのは、物件を見に行ったときにオーナーが立ち会って、勝手にOKしてしまうケースです。入居申込みを貰い、入居審査して絶対に入れてはいけない人なのにオーナーがOKをしたからと言って怒鳴り込んできたりします。「OKだと言われたから引越しに準備をしてしまった」とか、「すでに住んでいる物件を解約してしまった」とか言ってくるのですが、そのような場合は、本当に損害があるのであれば裁判所に申し出てくださいと言うようにしています。

賃貸トラブル解決のプロと弁護士がこっそり教える賃貸トラブル解決の手続と方法

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