「入居申込書」は建物賃貸借契約書の一部
それでは、実際に賃貸物件の入居審査を行っているところで、どんなところに注意したらいいのかということを説明しておきます。
①申込規定
実際に当社で使っている入居申込書では、左側に物件名、転居理由が書いてあって、本人の内容を書く欄です。勤務先の部分は、当社では、転職の履歴なども、勤続年数も聞いています。右側は、緊急連絡先、連帯保証人について書いてもらいます。右下のこの四角い枠で囲った部分に、当社の申込書の一番の特徴である「申込規定」というのを掲載しています。
その申込規定を細かく説明しておきます。
・保証会社への加入…契約者自らが保証人をたてることを希望して申し込みをされても、その保証人では入居審査が通らないかもしれないというときに保証会社に振り替えることができるようになっています。
・火災保険への加入…どの火災保険でも構いませんが、必ず加入してもらうようにしています。これは火災等が発生して契約者に過失があった場合、すべて保険で賄えるようにすることでリスクを回避させています。
・各種書類の提出、提出書類の返却なし…審査するときに必要な書類等は提出してもらわないと審査はできませんし、たとえ審査結果がNGでも、その書類は返却しない旨の注意書きが書かれています。入居審査が通らないような人の中には、難癖をつけて契約に結び付けようとする人も多くいて、書類が返せないなら契約しろなどと言われない為の布石でもあります。
・個人情報の提供
・鍵交換のキャンセル費用…入居審査がOKになり、契約日も決まり、契約に向けて鍵を交換した後にキャンセルされた場合、鍵交換の代金を負担してもらう旨の注意書きが書かれています。
・審査NGの理由の非開示…入居審査が通らなかった理由を聞いてくる人がいますが、そこでの口論や無駄な摩擦を避ける為に書かれています。当社の場合、アセットマネージメント事業部がオーナーチェンジ(建物賃貸借契約を引き継ぐ契約)物件を当社のクライアントに購入してもらって、当社の賃貸管理会社が引き継いで管理するということが多く、その引く継ぐ建物賃貸借契約書には入居申込書の添付がないものが多いです。また、あったにしても当社の入居申込書に比べて他社の申込書は、告知項目としては全然少ないものがほとんどです。転居理由もなく、入居希望日も空欄になっていたり、申込人の署名もない。とくに転居理由がわからない、何でここに住んでいるのかという理由がわからないのは、私には理解できません。
当社では入居申込書は建物賃貸借契約書の一部であるとの位置付けにしてあります。たとえば、入居申込書は、後日、建物賃貸借契約書に添付され、万一、記載事項に不実が記載された場合、この契約は解除される、ということを申込人に説明します。仮に虚偽を記載して申込みをしようとする人等は、この時点で申込みを躊躇することになりますので、不当な入居者を事前に排除できることになります。
入居希望の時期に「合理性」がないと怪しい⁉
②入居申込書のどこを見るか
■空白を埋めてもらう
入居申込書を見るポイント[図表3]ですが、まず空白は認めません。空白部分全部を埋めてもらいます。ご覧のように記載事項はすべて契約者本人であれば記載できる内容です。また連帯保証人の年収などの詳細が不明であれば、電話して聞けるはずです。そもそも、書けない人は怪しい人です。また、申込書の記入が面倒くさいなどと言う人は、賃料を支払うのも面倒くさいと思う人ですから、賃料の滞納率も高い人です。
■転居理由の確認
転居理由は非常に重要です。たとえば通勤が不便だからと書いてあるのに、引っ越したところで全然通勤時間が短縮されていなかったり、仕事の関係で帰るのが遅くなるからという理由でセカンドハウス目的で借りたいというのに緊急連絡先が奥さんじゃなかったりする場合があります。突き詰めていくと、「いや、実は…」なんて、違うことで利用しようとしていることもわかってきますが、内容によっては最初から言ってくれれば、それを考慮した形で判断するのですが、ウソをつかれてしまうと、こちら側としても何もかもがウソみたいに思えるので審査するうえでは不利になります。転居理由は、その入居者を審査するうえで重要な判断基準となります。
■入居希望の時期
「最短」と書く人がいます。いろんな事情があって急いで入居したいという希望は当然あるのですが、その入居時期に合理性がないと怪しいです。たとえば年末に最短で引っ越したいとかいうと、だいたい滞納で追い出されるケースが多いです。急に転勤が決まって、業務がすぐに始まるから最短で引っ越したいというのであって、その会社がちゃんとした会社なら最短の理由もわかります。また、逆に「1カ月後」とかいう先の長い申し込みも注意が必要です。
こちら側が契約の準備をして待っていると契約前にキャンセルの連絡が入ったりします。つまり複数の物件に申込みを入れて一番条件の良いところを借りるわけです。この場合、先に建物賃貸借契約を先にしてもらい、賃料の発生日を交渉して決めるようにします。契約を先にすることで、キャンセルは契約解除の違約となるため、契約書に定めた違約金が発生します。その説明をして入居申し込みを取りやめるようであれば、それはしかたがないことです。この人のために1カ月近い逸失利益が生じることを考えれば、これもリスクです。単純に入居申込だけで物件の広告を止めることは危険だと考えてください。
■年齢と職業
最近、単身者の孤独死が増えています。特に高齢者の場合、連帯保証人を身近な人に頼んでもらうことを心がけています。まさに遠い親せきより近くの他人とでも言いましょうか、将来、何かがあったときに協力してくれる人が重要です。逆に若すぎる一人住まいも気を付けるようにしています。若者のたまり場になったりすると近隣からのクレームも増え、場合によっては、そのアパートなどの契約者が退去してしまうリスクがあるからです。この場合も、同じように何かがあったら協力してもらえる人を連帯保証人にしてもらう交渉をします。また職業についても、相応な年収がとれる職種かどうかも見極めます。また年収の30%を12カ月で割った金額を超えるような賃料の物件に申込みを入れてくるような場合も、注意が必要です。
■勤続年数と職歴
これは勤続年数が短くて、職を転々としていて、さらにその職業も一貫性がなかったりするケースもあります。よくあるのが中小企業に勤続していた場合、会社契約の社宅に住んでいて、退職と同時に建物を明け渡さなければならずに物件を探すというケースがあります。この場合、転職の合理性や所得などを総合的に判断して対処ができますが、その会社の人に連帯保証人になってもらっていた物件で、連帯保証人から「連帯保証人を続けるわけにはいかないから他の物件を探してくれ」と言われて退去しなくてはならなくなったケースの場合、将来、賃料の滞納などに結びつく可能性が多いです。これらは審査する側の経験則に基づく判断になりますので、なるべく複数の人で入居審査をして判断するようにしています。
■緊急連絡先の情報
先ほども書きましたが、高齢者や若者などでは、将来何かがあったときに協力してくれる人を緊急連絡先にしてもらいます。また、外国人の緊急連絡先では、日本人の緊急連絡先を希望しています。実は、世の中には、この緊急連絡先を請け負う会社というのがあり、不当な外国人は、そこに依頼しているケースもよくあり、緊急連絡先に電話をすると全然違ったり、全く理解していなかったりする場合もありますので注意が必要です。間柄などを確認し、契約前には「ごあいさつ」と称して、一度、実際に連絡をすることをお勧めします。そこで「そんなの知らない」とか、間柄に間違いがあったら契約をしないのもリスク回避です。
■連帯保証人の内容
これは賃借人と同じように、個人の過去の履歴情報とか、反社会勢力との関わりのチェックだとか、そういったものをデーターベースでチェックします。これは有料のデーターベースなので一般的な人には閲覧が難しいかもしれませんが、官報に掲載された破産情報や過去の新聞などに記事として取りあげられた事件の当事者の情報が閲覧できるようになっています。また当社独自の過去の履歴なども確認します。実際に、当社で滞納して退去させた人が、他の業者を通じて当社の物件に申込みを入れてくるケースもありますので注意が必要です。当社の場合では過去の履歴がすべて記録されるシステムになっておりますので、氏名と生年月日である程度本人の確定ができますので、これらの過去の履歴を基に判断することになります。もちろん、過去の履歴がわかって、何らトラブルがなかったような人の場合は入居審査が通りやすくなるわけです。
■添付書類
添付書類の免許について少し説明しておきます。
[図表1]は私の免許証です。私たちが主にチェックするのは、図表で示した3カ所です。左から初めて免許を取得した都道府県が番号で記載されています。「45」は神奈川県ということを意味しています。その次の「83」というのが初めて免許を取得した年が1983年ということを示しています。
そして最後の桁が紛失により免許の再発行した回数を示しています。実はここがすごく重要なのです。再発行というのは紛失、盗難、破損等によるもので、これによって免許を再発行した回数ですから、当然、この回数が多ければ不審に思わないといけません。[図表2]は、北海道から沖縄までナンバリングされていて、こういったものを照らし合わせながらチェックします。たとえば、いま住んでいるのは東京ですが、このナンバーから判断して北海道出身者だったとします。そこで北海道で先に書いたデーターベースで調べてみたら、その人と同姓同名の人が過去に詐欺事件での犯罪歴があったというときに、まずは本人かどうかの確認をします。
また運転免許証から得る情報としては、裏面の転居履歴もチェックして、その転居の整合性などを確認します。全部が全部ではないですが、さきほどのチェック項目の中に出てきたようなケースの場合には、こういったものをあわせて確認するようにしています。
さらに、免許証の住所と申込書に書かれた住所が違うときは、その場で本人に確認することが重要です。不審な場合は、本当にそこに住んでいる証明を出してもらいます。たとえば水道や光熱費の支払い伝票等でチェックができます。もちろん本人にその事情を聴くことは当然に行うことが必要です。