住民票記載の会社に問い合わせたら「まさかの回答」
物件 東京都葛飾区1K賃貸マンション
契約 平成16年
貸主 当社(平成20年旧貸主から承継)
借主I 男性(30代)職業契約時の勤務先は退職済み、不明
連帯保証人K 男性(40代)東京都内在住 職業契約時の勤務先は退職済み、不明
前回紹介したケースは、給料の差押えで回収した事例ですが、今回は、給料を差押えしたものの、債務者の勤務先から差押え分の金額が入ってこなかったときの事例です(関連記事『家賃滞納者の勤務先を暴き「給料差押え」、強制執行の末…』参照)。
これも私が途中で引き継いだ案件ですが、平成20年頃、旧貸主から当社が、葛飾区の1Kマンションの賃貸借契約を承継しました。
平成24年ごろ、借主Iは、葛飾区の1Kマンションの家賃を約10万円滞納したまま、近所へ引っ越しましたが、借主Iと連帯保証人Kは、滞納家賃を支払う様子を見せません。借主Iと連帯保証人Kの双方へ、手紙、電話、訪問で請求をしましたが、支払も連絡もなかったので、法的手続の「支払督促」を申し立てしました。
やはり何の連絡も支払もないので、そのまま債務名義取得となりました。
解約=平成24年
東京都某区の賃貸アパートへ転居
滞納家賃=約10万円
→借主I・連帯保証人Kは支払わない
裁判所に「支払督促」を申立
債権者:当社
債務者:借主I・連帯保証人K
→借主I・連帯保証人Kからは異議申立なし
⇒「債務名義」取得
債務名義取得後も、借主Iと連帯保証人Kの差押えるものが不明でしたため、引き続き、借主Iと連帯保証人Kへ手紙、電話、訪問にて請求を続けていました。
ある日、借主Iの自宅を訪問してみますと、引っ越した様子があります。借主Iの転居先を調べるために住民票を取得しますと、[図表1]が借主Iの住民票ですが、住所の欄に「東京都葛飾区(株)S興業寮」とあります。株式会社S興業寮を居住の場所としているのであれば、その勤務先は株式会社S興業であることはほぼ確実でしょう。早速、管轄の裁判所へ、同社に対する給料差押えの申し立てをしました[図表2]。
給料差押えを裁判所へ申し立てしますと、通常、債務者の勤務先である第三債務者は、裁判所と債権者へ「第三債務者陳述書」を送付します。これは何かといいますと、債務者を雇用しているのかどうか、また雇用しているのならその給料の金額はいくらか、などが記載されています。
今回も、借主Iの勤務先と推測される株式会社S興業から当社へ、陳述書[図表3]が届きましたため、私が「借主Iの給料はいくらくらいだろう」とのんびりした気持ちで、その陳述書の内容を確認しますと、第三債務者である株式会社S興業は、借主Iを「全く雇用したことがない」という回答です。
家賃滞納者の「新たな勤務先」が判明
株式会社S興業が虚偽の記載をしているのかと疑ったのですが、本当に雇用していない可能性もありますため、借主Iの勤務先を確認する必要があります。
ではどうやって借主Iの勤務先を確認するかといいますと、前回でも出てきました、とある先生からの教えです。もう一つ別のパターンがあり、次のように教えてもらっていました。
「AさんとBさんは互いに知り合いだが、AさんとBさんはCさんのことを全く知らない。しかしCさんは、Bさんに関する情報をAさんから聞き出したい。そういうとき、CさんがAさんからBさんに関する情報を聞き出すにはどうすれば良いのか?
AさんがCさんへ、Bさんに関する情報を教えなかった場合、『Bさんが困ることはない』と、Aさんが判断すると、AさんはCさんへ、Bさんに関する情報を教えない傾向がある。
反対に、AさんがCさんへ、Bさんに関する情報を教えなかった場合、『Bさんが困るかもしれない』と、Aさんが判断すると、AさんはCさんへ、Bさんに関する情報を教える傾向がある」
この教えを応用しまして、借主Iの勤務先が「株式会社S興業」ではなく、「有限会社N」という法人であることが判明しました。有限会社Nの全部事項証明書を取得し、確認してみますと、取締役欄に記載されている人物が株式会社S興業の取締役と同一でしたため、どうやら関連会社のようでした。私が、借主Iの勤務先が有限会社Nであることを聞き出した方法はここでも伏せておきます…。
ということで、無事、借主Iの勤務先がわかりましたため、借主Iを債務者、有限会社Nを第三債務者として、管轄の裁判所へ給料差押えの申し立てをしました[図表4]。
すると、今度は、第三債務者である有限会社Nから届くはずの陳述書が、当社へ届かず、また差押え分に関する支払の連絡も全くありません。もしかしたら、有限会社Nが、裁判所からの通知を見逃しているのかと思い、私が有限会社Nに対し、「有限会社Nと借主I間の給料差押えを申し立てしているので、差押えている分を、当社へ支払ってください」という内容の通知書を内容証明郵便にて送りましたが、何の音沙汰もありません。
では、今後、どのようにして対応していけば良いかといいますと、有限会社Nは、借主Iの雇用主であり、借主Iへ給料を支払っているにもかかわらず、その差押分を当社へ支払わない、これは有限会社Nの支払債務の不履行です、ということで、有限会社Nが新しく当社の債権請求の対象者となるのです。
当社が、裁判所へ申し立てている差押分は、借主Iの毎月の給料の手取り額4分の1です。借主Iの手取り額は不明ですが、手取り額4分の1の金額を5万円と推定し、有限会社Nの支払債務不履行分の金額が、滞納家賃分と同額以上になるまで、とりあえず放っておきました[図表5]。
そうして、時期をみて、「当社が有している、有限会社Nから借主Iへ支払う給料の差押分の債権を、有限会社Nが当社へ支払わないため、当社は有限会社Nに対し支払うよう請求する」という内容の取立金請求の民事訴訟を、裁判所へ提起しました。
裁判所での第1回目の口頭弁論当日、有限会社Nの代表者が出廷し、「この度は、誠に申し訳ございませんでした。これからは毎月分割して支払っていきます」という内容で、裁判上の和解が成立し、その後、完済となりました。
【利用した法的手続】
・支払督促(滞納家賃請求)
・給与債権差押の強制執行1回目
・給与債権差押の強制執行2回目
・民事訴訟(取立金請求)