連帯保証人は有名都市銀行の系列会社勤務だが…
物件
東京都港区ワンルームマンション15平方メートル
平成19年契約開始
借主Y 20代男性
連帯保証人H 50代男性=借主の父親
前回と同じく、長期家賃滞納の結果、建物明渡請求の民事訴訟を提起して、建物明渡の強制執行で解決するパターンですが、その間に占有移転禁止の仮処分という法的手続を行っています(関連記事『家賃滞納70代独居老人を「強制執行」で追い出そうとしたが…』参照)。
今回の借主Yは、平成24年、東京都港区に所在するワンルームマンションの賃貸借契約を当社との間で締結しました。連帯保証人Hは借主Yの父親です。借主Yは、民間企業に勤める20代後半の男性で、連帯保証人Hは大手企業に長年勤めています。賃貸借契約締結前の入居審査の段階では、借主Yと連帯保証人Hの双方ともに、何の問題も見当たらない内容でしたが、契約締結後すぐ家賃の滞納が発生しました。
私が借主Yへ、滞納家賃の請求のために電話をすると借主Yは支払い、またその翌月も、家賃滞納が発生すると、私が借主Yへ電話して借主Yが支払う、というようなことを数ヵ月間、繰り返していましたが、そのうち私が借主Yへ滞納家賃を請求しても、借主Yは電話に応答せず支払わない、連帯保証人Hへ請求しても支払わないという状況になりました。
連帯保証人Hの内容ですが、年齢は50代で、有名な都市銀行の系列会社に30年以上勤務しており、東京西部に自宅として戸建てを所有しています。通常、こういう内容の連帯保証人は、こちらが滞納家賃を請求しますと、恐縮しながら支払うか、もしくは嫌々ながら支払ったりするのですが、この連帯保証人Hは、全く支払う様子を見せません。
借主Yと連帯保証人Hへ、電話と手紙で繰り返し滞納家賃を請求しても支払わない状況が続きましたので、私が建物を訪問し、呼び鈴を鳴らすと、まだ20代と思われる髪を茶色に染めた色黒の男性が応対してきます。
20代と思われる茶髪で色黒な男性が部屋に…
私は事前に、写真で借主Yの写真を確認していましたので、この玄関先に出てきた茶髪男性は、まったくの別人だと気づきます。それでも、万が一のこともありますので、私がこの茶髪男性へ「あなたは借主Yですか?」と尋ねますと、「いえ、違います。僕は、借主Yの友人で、たまたまこのマンションに遊びに来ているだけです」との回答。「では借主Yはいま室内にいますか?」と尋ねますと、「借主Yは、今出かけていて、部屋にはいません。帰ってくる時間もわかりません」と答えます。
どこか不審な点は感じたのですが、私がこの茶髪男性へ、借主Yが家賃を滞納していることを説明してしまうと、借主Yの名誉が傷つけられる可能性もありますため、「私はこのマンションの管理会社の者ですけれど、賃貸借契約の件で訪問しました。借主Yへ私の名刺をお渡しください」と訪問した目的は告げずに、私は茶髪男性へ私の名刺を手渡して、その場を去りました。
その後、借主Yからの連絡はなく、また滞納家賃の支払もないので、もう一度、建物を訪問しますと、また先日と同じ茶髪男性が応対し、やはり「僕は借主Yの友人で、たまたま遊びに来ています」とのこと。
なお、私は一番最初の訪問のときに、建物のポストも合わせて見ていたのですが、ポストには借主Yではない別の人物の「KY」という名前が宛名として記載された役所の年金課からの郵便物が入っていました。
その後も、一向に支払も連絡もないため、もう一度建物を訪問しますと、また同じ茶髪男性が出てきます。もう互いに面識があるため、私も「すごく仲が良いんですね」としか言いようがないので、またこの茶髪男性へ私の名刺を手渡し、「借主Yへ、私宛に必ず連絡するように伝えてください」と言って立ち去ったのですが、このとき、建物のポストを見ますと、前回に見たものとはまた別の郵便物が、KY宛に届いていました。
後日、建物を訪問をしたのですが、次は借主YでもKYでもなく、「TT」という名前が記載された東京電力からの電気料金の請求書がポストへ届いています。
また別の日に建物を訪問しますと、ようやく借主Y本人宛の郵便物が届いていたのですが、その郵便物の差出人を確認すると、債権回収株式会社とあります。やはり借主Yは、どこかで焦げ付いているのだなと思いながら、他の郵便物を見ると、次は「KH」という氏名が記載された東京電力からの電気料金の請求書……。
「別の誰か」が住んでいると、強制執行はできない!?
今の時点で建物のポストには、借主Y、KY、TT、KHと、これだけの郵便物が届いています。当社が契約しているのは借主Yです。いつも玄関先で応対する茶髪男性は、多分このKY、TT、KHのうちの誰かなのだろうと推測できますが、今後、契約とは関係のない人物がさらに増えていく可能性があります。
たとえば、もしこの借主Yと見知らぬ他3名、合計4名を相手に、「家賃を滞納しているから、建物を明け渡せ」という建物明渡請求の民事訴訟を提起した場合です。裁判所の判決が言い渡され後に、建物明渡の強制執行をしますが、その強制執行のときに、この4名以外の5番目の人物、たとえばヤマダさんとか、6番目のスズキさんとか名乗る人物が建物に居住していた場合どうなるかといいますと、建物明渡の強制執行はできません。
たとえば、
1 借主Y
2 KY
3 TT
4 KH
上記4名を被告として、建物明渡請求の民事訴訟を提起
→「建物を明渡せ」の判決確定=「債務名義」取得
建物明渡の強制執行の時に
上記4名とは別の人物が居住していればどうなるか?
強制執行不可
→建物明渡請求の民事訴訟を一からやり直し
こちらが債務名義として持っていますのは、借主Y、KY、TT、KHの4名のみに対する「建物を明け渡せ」という債務名義であり、5番目のヤマダさん、6番目のスズキさんに対しては「建物を明け渡せ」の債務名義を持っていません。強制執行の催告のため、執行官が建物を訪問し、5番目、6番目の人物の居住の様子が見られたとき、その人物は強制執行の対象ではないため、執行官により「債務名義以外の人物が居住していますため、強制執行はできません」と判断されます。
そうするともう一度、建物明渡請求の民事訴訟のやり直しとなります。5番目のヤマダさん、6番目のスズキさんが建物に居住している。では、5番目のヤマダさん、6番目のスズキさんを被告として建物明渡請求の民事訴訟を提起し、無事に債務名義を取る。では、次こそは強制執行ができるかというと、強制執行の催告時、もし、7番目のサイトウさん、8番目のタカハシさんが出てきたら、また改めて一からやり直し。そうすると、延々と続いていき、いつまでたっても建物の明け渡しは完了せず、滞納家賃は膨れ上がります。
ちなみに、私がここで、借主Y以外の人物を把握できたのは、ポストの内容を確認していたからです。もし私が、訪問の都度、ポストの中を確認していなければ、KYや、TT、KHの存在を把握できていなかったでしょう。私が、訪問時にポストの中を確認することが重要というのは、このように、契約とは全く関係のない別の人物が住んでいないかどうかの確認もできるからです。