入居審査を怠ると「大きなリスク」を抱えることに…
賃貸物件の場合、基本的な流れとしては、空室から入居者の募集を行い、入居審査をして、その審査が通れば建物賃貸借契約をして、入居者はその物件に入居します。あまり知られていませんが、この流れのなかでも、さまざまなトラブルが生じてきます。
また、入居者が入居後においても建物や設備などのハード的なトラブル、近隣の騒音だとか鍵の紛失、ゴミ置き場の散乱、不法駐輪、不法投棄などのソフト的なトラブルが、入居中には発生します。また建物賃貸借契約を更新する場合には、更新の手続、退去するときには退去後の清算手続や原状回復手続となっていきます。これらを一つのサイクルとして繰り返していくわけですが、私が解説させていただくパートは、この四角い枠で囲った部分です[図表1]。
まず、入居審査が必要な理由ですが、入居後、入居者との円満な関係を維持するためには欠かせない行為だからです。
一般的に空室が長引けば、賃貸経営は成り立ちません。オーナーの中には「とにかくお客さんを早く入れてよ!」という気持ちもわかりますが、ただ、この入居審査を怠ることで、もっと大きなリスクを抱えるということを理解しておく必要があります。
アパート・マンション等の賃貸住宅経営をしていると、さまざまなリスクが生じてきます。そのリスクの多くは入居者に起因することが多く、円満な賃貸借関係を築くには、この入居審査で円満な関係が築ける入居者であるかどうかの選別をすることが重要なのです。
さて、賃貸経営のリスクについて次に掲げます。賃貸経営には、さまざまなリスクが生じ、それらを解決するには専門的な知識と経験が必要ですが、まずは、それぞれについて説明していきます。
①延滞・滞納リスク
入居者が賃料等を延滞する、あるいは滞納することによって見込んでいた収益が得られないというリスクです。現状の借地借家法のもとにおいては、賃料を滞納したからといって即座に退去を求めることはできません。これに対して大変な労力が必要になりますし、裁判となれば多額な費用もかかってきます。
②入居者の信用リスク
これは入居者の資質による問題がほとんどです。賃料延滞・滞納等のリスクもこの中に含まれますが、それ以外でも、変な人が入居することによって近隣トラブル等を起こし、場合によっては優良な入居者が出ていってしまうということもあります。たとえば賃料等の滞納等の場合ですと法的手続はしやすいのですが、契約違反かどうかの判断に迷うような場合ですと法的手続は難しくなります。したがって入居審査は大切なのです。
③空室リスク
これは入居者が入らないことによって家賃が入らない、収益にならない、あと、長期間空室になることによって、物件が傷んだりすることも考える必要が出てきます。そして空室が増えることによって、他の入居者も退去してしまうという悪循環に陥るリスクも考えられます。
以上この3つのリスクが一番重要だと考えています。重要度も、実は空室リスクが一番上だと思われがちですが、やはり一番多いトラブルとしては、賃料延滞・滞納リスクが一番なので、あえてこの①、②、③という順番をつけました。
入居者ニーズの変化…間取り2DKや3DKの人気はない
④経済情勢の変化
これは、まず、金利の変動によって起きる問題です。景気の変動などで金利も変動します。不動産投資や土地有効活用においては、変動金利でローンを組むケースが多いと思いますが、金利が上昇すればローンの返済額は上がり、賃料が上がらなければ収益構造は悪化します。
また、景気変動によって企業の雇用関係の優劣によって現状の労働力の過不足などが生じ、二極化する人口移動なども生じてきたりします。これらによっても賃貸住宅経営の環境も変化してきます。
⑤入居者のニーズの変化
現在建てられているものと10年前のもの、20年前のもの、30年前のものを比較すると、建物はずいぶん変わってきています。30年前というと、ちょうど平成元年のころ。このころは、往々にして3点ユニットバスで、ロフト付というものが多かったです。当時はユニットバスがホテルみたいでかっこいいとして人気がありました。
当時は地価が高かったため、効率を高める建築が多かったわけです。しかし最近の入居者のニーズの中では、バス・トイレ別で探されている方が全体で80%を占めているといわれています。また、2DKや3DKという間取りも人気はなく、むしろ同じ広さなら1LDK、2LDKのほうが人気があります。入居者のニーズも時代の流れで変化することも考慮する必要があります。
⑥法律の改正
たとえば定期借家契約が施行されたり、賃貸住宅紛争防止条例が東京都で施行されたりとか、これによって賃貸経営に変化をもたらします。昔は原状回復費用を入居者にもたせたり、法外な敷金や礼金を受領したりしていたオーナーや不動産業者がいましたが、これらについても請求ができなくなっています。今後の賃貸経営では、法律と照らし合わせる判断が必要となってきます。
⑦天災地変
震災や噴火なども最近増えています。自分の持っている物件の地域に、こういった天災地変が起きたときのリスクヘッジというのもリスクの一つとして考える必要があります。
⑧物理的環境の変化
これは新たな道路ができたり、ショッピングセンターができたりすることで環境が良くなることもあれば、その逆の変化もある。近くのコンビニエンスストアがなくなったとか、大型のスーパーマーケットが撤退したりとか、いままでは徒歩1分で歩ける条件で募集していた物件が、いきなり不便になってしまったりと、近隣の物理的変化によっても賃貸経営は影響を受けることになります。
⑨自然環境の変化
これは前述した天災地変とかもそうですが、最近、ゲリラ豪雨だったり、温暖化によって夏の暑い日が続くとか、そういうものが自然環境の変化によって起きています。たとえば、お年寄りが部屋の中でエアコンをつけないで我慢して生活し、熱中症にかかって亡くなるということもあり得ます。こういった自然環境の変化も考え設備投資などもしていかなくてはなりません。
⑩無管理
適正な管理がなされていないということです。適正な管理というのは、建物維持管理だけではありません。たとえば、トラブルが起きたときの処理の仕方が誤っているケースもありますので、そうするとトラブルがもっと大きくなったりすることもあります。そういう部分も含めて検討しなくてはいけません。
⑪長期保有
長期保有目的で不動産投資物件を購入したり、アパートなどの建築をする人がほとんどだと思いますが、長期保有するということは、今から5年後、10年後の世の中よりも先の20年後、30年後にどうなっているのかという、予測を立てないとなりません。そこで保有する物件と売却する物件などを選別した戦略も必要となるかもしれません。
⑫建物、設備の老朽化
建物は必ず老朽化します。10年、15年で大規模修繕したり、鉄部の塗装をしたり、設備も5年、10年で故障したりします。その時にあわてることのない資金計画や定期的な修繕や補修計画が必要となります。また入居者のニーズに合った設備への変更や間取りの変更などにも費用はかかってきますので、そのために資金計画は重要となります。
⑬オーナー自身の不動産投資への取り組み
これはオーナー自身がどういった不動産投資への取り組み方をしているのかというものも、時としてはリスクとして考えなければならないかもしれません。入居者を大事にしない、不動産業者などに無理難題を押し付ける、原状回復工事代金でもめるなど、オーナーとしての資質に欠けると賃貸経営はうまくいきません。パートナーシップが重要になります。
「入居者信用と空室」両リスクのバランスをとり考える
このように、リスクは整理するとたくさんあります。一番最初に挙げた①、②、③の賃料の延滞・滞納、入居者信用リスク、それと空室リスク。それ以外にもいろいろなことを考えていかなければならないということを、整理しておくと良いと思っています。
この他にも、地域の特性によっても、物件の特性によってもまだ付加されるリスクはあると思います。
さて、入居者信用リスクと、空室リスクの話に戻ります。空室期間が長く、ようやく入居申し込みが入ったからと言って入居審査を怠れば、入居中のトラブルが増えて入居者信用リスクが高まります。ある意味、相反する心理状態でリスクが高まるわけです。
逆に入居審査を厳しくすれば、今度は審査基準をクリアできる入居者は見つからず、さらに空室期間が増えてしまうことになります。
ではどうするかということですが、この入居者信用リスクと空室リスクでバランスをとりながら考えていく、ということになります。
昔ながらのオーナーさんには、自分で賃貸管理を行い、賃貸の仲介業者さんに入居者斡旋を任せている人がいますが、賃貸の仲介業者さんは賃貸契約が成立しないと手数料にならないため、せっかく入った入居申し込みを契約に結び付けようとの心理が働き、オーナーは早く入居者に入ってもらいたいという心理が働くから契約をしてしまうということが多いのです。
当社に相談に来られたオーナーさんの中には、契約はしたけれど一度も賃料の入金がなくて困っているという相談もあります。調べてみると、その入居者は、その前の賃貸住宅でも賃料の滞納をしていて建物明渡請求の訴訟を起こされて立ち退いてきた人でした。
また反社会勢力の関係者や、何か問題を起こして前の住宅を立ち退かなくてはならなかった人たちは、入居審査の厳しい会社を嫌い、入居審査がゆるい会社を狙って入居申し込みをする傾向がありますので注意が必要です。