中小企業が「AI化の波にうまく乗っかる」コバンザメ戦略とは?

※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

大企業、スタートアップと協業するコバンザメ戦略とは

前々回に述べた通り、AI化は会社の規模に関係なく大きな影響を与えるものです。しかし、真正面からこの時代の流れに戦いを挑んでも、「戦いにならない」のではないかと思います。

 

大企業と比べて適応能力が劣り、そもそも必要な社内リソースが皆無に等しいような大多数の中小企業にとって、竹槍をも持っていない状態で戦いを挑むような感じだと思います。したがって、そのような状況下で生き残りをかけるポイントは針の穴を通すかのように絶妙なポジション取りをすべきことではないかと考えます。

 

そこで今回は、次の通り「AI化の波にうまく乗っかる」「あえてAI化の波に乗らない」という両極のポジショニングにわけて、検討を進めていきたいと思います。

 

【AI化の波にうまく乗っかる】

中小企業においては、高度デジタル技術の開発能力以前に、AIに対する基本的理解や利活用する能力さえも乏しいことが多いです。ただ、以前紹介したコバンザメ戦略を活用することは可能だと思います(巨大なクジラにしがみつくコバンザメというような図式)。

 

つまり、AI技術を開発していたり、積極的に導入している(または導入予定)会社との関係性をうまく深めるということです。この場合の巨大なクジラとしては主として、大企業やスタートアップが想定できるのではないでしょうか。

 

大企業であれば、開発したAI技術を自社に導入するなどして、時代の流れにしがみついていき、受動的ではありますが、AI化を「機会」や「強み」に変えていく動きにできる可能性があります。これは中小企業が大企業との間で次のような関係性がある場合に有効でしょう。

 

• 大企業の下請け企業である場合

• 下請けまでは至らないものの、一定の取引関係がある場合

• 特殊な技術を保有しているなど独自の強みを有しているため、大企業相手といえども取引上有利な立場にある場合

• その他、特別な関係性がある場合(親族や同級生が経営者、地元が近接など)

 

また、普通の中小企業にはないAI技術力を武器にするスタートアップと組むというのも一つの策です。スタートアップはとんがっていますが、企業サイズや従業員数などの点では所詮中小企業の一つです。

 

大企業とコラボレーションをすることで短期的な急成長を目指すスタートアップは多いですが、スタートアップにとっては最初から大企業に挑む前に、自らを成長に導くための“組みやすい相手”として、中小企業とのコラボレーションを戦略の一つとして考える可能性は十分にあります。

 

ただ、当然ながら、大企業やスタートアップに対して、組むにふさわしい相手と思わせるだけの実力やポテンシャルを示さなければいけないので、一筋縄では行かないかもしれません。

 

[図表1]
[図表1]

 

「愛嬌」はAIによって代替されにくい営業ツール⁉

【あえてAI化の波に乗らない】

中小企業の場合、“AI化の波に乗らない”のも戦略として否定できないのではないかと思います。ここでは3つの案を提示したいと思います。

 

• レトロな事業にフォーカスした選択と集中戦略の採用

例えば、顧客セグメントが壮年層に集中し、属する業界がオールドスタイルであるような事業や、顧客ターゲットが地方の僻地の近隣に限定されるような事業においては、少なくとも一定期間は有効な戦略と考えられます(その間に時間稼ぎをして次の一手を考える)。

 

• タイムマシン経営※1に近似した海外事業展開

一言でいえば、AI後進国(AIが普及するまで一定の時間を要すると考えられる国)に進出するということです。中小企業が得意とする小回り運転とスピードを最大限生かして、一定期間は成長路線を継続することができる可能性があります。

 

• ウェットな戦いの徹底

中小企業の経営者からよく聞く話として、顧客に気に入られる一番の理由は営業テクニックではなく「愛嬌」らしいです。AIの苦手な業務の一つは対人スキルが求められる業務です。したがって、愛嬌という類のものはAIによって代替されにくい可能性が高いものの一つといえるでしょう。

 

このように、中小企業においてはデジタルで囚われない世界をひたすら追求してそれを価値の源泉と強くアピールすることが一つの解かもしれません。

 

[図表2]
[図表2]

 

※1 タイムマシン経営とはソフトバンクグループの孫会長兼社長が好んで使っていたキーワードです。米国と日本との間には特に技術面やビジネスモデル面において時差があるため、あたかもタイムマシンで未来から製品・サービスを持ってきたかのごとく、米国の最先端事例を速やかにコピーして日本に導入することによって事業を成功に導くという戦略コンセプトです。

 

以上、いかがでしたでしょうか。

 

実際のところは、自社に合った両極の間のどこかのポイントを選択すればいいと思います。その場合、次のような点を十分斟酌しながら、自社が採用するポジショニングを見極めましょう。

 

• 自社の適用可能性(フィット感)

• 自社におけるメリット・デメリット

• 外部からの見え方

 

たしかに、大企業に対していろんな意味で劣後する中小企業において、できることは限られるでしょう。

 

だからといって「AI化」という漠然とした不安に目を奪われるのみで、「AI化の波にうまく乗っかる」、真逆の「あえてAI化の波に乗らない」、あるいはその間のどこかというポジショニングを明確にするかしないかというのは全く別の問題です。

 

前々回で述べたように、AI化の波はこれからどんどん本格化し、世間を騒がせるようなニュースが山のように出てくるという動きに誰もが抗うことはできません(関連記事「AI時代到来で仕事がなくなる⁉ 中小企業の生き残る道とは」参照)。だから、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」※2ということわざのとおり、枯れたすすきに怯えたままでは気がついたら手遅れという状況に陥ってしまう可能性が高いのです。

 

※2 幽霊だと思ってよくみたら枯れ尾花(枯れたすすきの補)であったという逸話から、恐怖をもってみればなんでもないことでも恐ろしく見えてしまうという意味のことわざです。

 

したがって、これからのAI化の進展の状況に絶えず目を配らせるだけでなく、その他の環境変化についてもアンテナを立てる必要があります。大きな変化が起こった際、機をとらえて適切に動けるよう、しっかりと準備を進めていきましょう。

株式会社H2オーケストレーター・CEO
一般社団法人M&Aテック協会・代表理事
公認会計士久禮義継事務所・代表
 

1994年、同志社大学経済学部在学中に公認会計士第2次試験合格。1995年、同校卒業後、中央監査法人に入所。1998年、日本興業銀行ストラクチャード・ファイナンス部へ出向。2000年、同法人金融部に配属。2001年、ドイツ証券投資銀行本部に転じる。2006年、ミシガン大学ビジネススクールを卒業後、The Bridgeford Group(ニューヨーク)にて勤務。2007年に帰国し、JPモルガン証券投資銀行本部、みずほ証券グローバル投資銀行部門、Deloitteなど数社を渡り歩く。2013年、NEC経営企画本部に転じ、2019年独立。これまで、規模・地域・業種を問わず数兆円超(企業価値)のM&Aアドバイザリー、民事再生法を活用した事業再生スキーム(国内初案件)におけるM&Aアドバイザリー、事業法人グローバルIPOにおける共同主幹事(2002年国内最大案件)、特殊法人の民営化関連アドバイザリー、退職給付信託や各種証券化スキームの開発等、投資銀行業務における重要案件を幅広く担当した経験を有する。NECでは、上級役員の参謀役として経営の中枢に携わり、中長期戦略・グローバル戦略の立案・実行部隊として、ダボス会議事務局、グローバルアライアンス推進、新規事業開発、中期経営計画立案などに従事。公認会計士、事業承継士、米国公認会計士(未登録)。著書に『流動化・証券化の会計と税務』(中央経済社)、「スモールM&Aの教科書 −売買当事者が安心して取り組める実務知識−」(中央経済社)など。

著者紹介

連載令和時代に生き残る!中小企業のための新しい経営戦略

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