中小企業の「スタートアップ思考」…勝つための「戦略」とは?

※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

スピードを加速させながら「限られた顧客」に集中する

今回も前回に引き続き、中小企業が持つべき「スタートアップ思考」について考察していきます。第3回目は「戦略」について取り上げます。

 

[図表1]
[図表1]

 

<スタートアップ思考その6>

「競争は負け犬の戦略である」

 

【概要】

競争が白熱すると短期的な利益を追求しがちになります。また、仮に競争に勝ち残ったとしても次の競争が待ち受けていて、長期的には利益が出にくくなってしまいます。さらにその結果、利益が出ていないため長期的な投資が行えないという負のスパイラルに陥ってしまがちです。

 

だから、必死で競争から抜け出し(できれば独占まで持っていき)、持続的に高収益を上げ続けることを目指すのです。しかしながら、そのためには「独自の価値」を提供するだけでは不十分で、「独自のやり方」をも構築して市場シェアを獲得していくことまで求められるのです。ここでは、以下の通り、独自のやり方を築くために有効な手法をいくつか例示としてあげておきます。

 

・ひたすらスピードを追求する

スタートアップが独自のやり方を構築する際に何よりも重要なのはスピードです。スピードを加速させながら、(後述しますが)小さな市場を選んで、少数の限られた顧客に集中して深い関係を築くことを目指すのです。

 

・「イノベーションのジレンマ」を利用する

スタートアップは非常に小回りが利くという特性があります。逆に、組織というものは、大きくなればなるほどリスクが取れなくなり、常軌を逸した決断を下すことができなくなります。そこで、スタートアップはその合間をぬって市場シェアを大きく抑えることを目指します。

 

・ファーストペンギンを狙わない

一番最初に市場に参入する者、つまりファーストペンギンを狙うのではなく、あえてズル賢いフォロワーを目指すことが有効という考え方です。なぜなら、新規市場を開拓した後、後発の企業にフリーライドされるケースがままあるからです。そこでタイミングを見計らって市場に参入して、できるだけ市場シェアを横取りできるようなポジションを狙うのです(関連記事『中小企業が「AI化の波にうまく乗っかる」コバンザメ戦略とは?』参照)の

 

【その他】

たとえば、極端に有効な販売チャネルを見つけることが考えられます。自社独自の販売チャネルを築くことができれば、独占に一歩近づけることになります。一般的にありふれたチャネルではなく、理想的な顧客にリーチできる独自のチャネルを見つけるのです。

 

【考察】

中小企業の場合、同規模の企業が競合となることは普通のことですが、それに加えて大企業も競合となる可能性があります。対大企業との戦いという構図になると、そもそも抗うことができない場合も多いでしょうし、支配従属関係となってしまう可能性も高いでしょう。したがって、いかに競争を回避すべきかという要請は強いといえます。

 

ただ、中小企業にとっては市場を独占することまでを目標とするのは現実には極めてハードルが高すぎと思われます(ただ、既存顧客で長年取引関係がある場合、近隣に位置する場合など、条件を細かく絞ると、独占的立ち位置を新たに築くことができる可能性はあります)。

 

あと、独自のやり方に関していえば、「ひたすらスピードを追求する」ことは可能ですが、「イノベーションのジレンマ」を利用するには破壊的イノベーションを引き起こす必要があり、「ファーストペンギンを狙わない」はそもそもフォロワー戦略しか馴染まないと思われます。

まずは「小さい市場」で圧倒的地位を確保する

<スタートアップ思考その7>

「小さな市場を狙え」

 

【概要】

スタートアップは事業体としては極めて小さいことに加えて、以下列挙した理由により、まずは小さい市場で圧倒的地位を確保してから、徐々に市場を広げていくべきです。

 

・情報が溢れている現代では、そもそも自社のプロダクトを試してもらったり、存在自体を知ってもらうことすら叶わないことが少なくない。

・大きな市場にリーチするには多額のマーケティングコストを要する。

・先進的なプロダクトに関心を示す初期の顧客、つまりイノベーター層はごくわずかである。

・大きな市場になるほど競合が増え、差別化できない。小さな市場ほどイノベーションのジレンマにより大企業は参入できない。

・小さな市場では素早く独占できる可能性が高くなる。

※ イノベーターとは新製品の導入期において、自己の技術的な知識や嗜好に基づき、リスクを恐れずに購入する顧客層を指し、消費者全体のわずか2.5%しか存在しないと考えられています。

 

しかしながら、単に小さい市場を選べばいいというわけではありません。初期においては小さな市場であっても急成長する市場を探すことがキモとなります。

 

【考察】

そもそも中小企業の場合、意識して小さな市場に狙いを定めているというわけではなく、半ば自然とターゲットとなる市場が限定的となっているケースがあります。そして、その限られた市場においては、既存事業における勝負づけはすでに終わっているはずです。したがって、これまでと何も変わらない価値しか市場に提供しないのであれば、市場シェアを拡大することは非現実的と考えるべきです。

 

ただそこで諦めるのではなく、例えば、こちらも以前の記事で述べたように「局地的なブルーオーシャン」を作り出せれば、たとえ小さな市場であっても独占に近い状態を作り出せる可能性があるでしょう(関連記事『中小企業が「ブルーオーシャン戦略」で大失敗してしまう理由』参照)。

 

今回お伝えした内容をまとめてみると、次のようなことがいえるのではないかと思います。

 

 

以上、今回はスタートアップ思考のうちの「戦略」編の前半部分に絞って考察してみました。次回は「戦略編」の後半部分について解説していきます。

 

参考資料:「逆説のスタートアップ思考」(馬田隆明:中央公論新社)

株式会社H2オーケストレーター・CEO
一般社団法人M&Aテック協会・代表理事
公認会計士久禮義継事務所・代表
 

1994年、同志社大学経済学部在学中に公認会計士第2次試験合格。1995年、同校卒業後、中央監査法人に入所。1998年、日本興業銀行ストラクチャード・ファイナンス部へ出向。2000年、同法人金融部に配属。2001年、ドイツ証券投資銀行本部に転じる。2006年、ミシガン大学ビジネススクールを卒業後、The Bridgeford Group(ニューヨーク)にて勤務。2007年に帰国し、JPモルガン証券投資銀行本部、みずほ証券グローバル投資銀行部門、Deloitteなど数社を渡り歩く。2013年、NEC経営企画本部に転じ、2019年独立。これまで、規模・地域・業種を問わず数兆円超(企業価値)のM&Aアドバイザリー、民事再生法を活用した事業再生スキーム(国内初案件)におけるM&Aアドバイザリー、事業法人グローバルIPOにおける共同主幹事(2002年国内最大案件)、特殊法人の民営化関連アドバイザリー、退職給付信託や各種証券化スキームの開発等、投資銀行業務における重要案件を幅広く担当した経験を有する。NECでは、上級役員の参謀役として経営の中枢に携わり、中長期戦略・グローバル戦略の立案・実行部隊として、ダボス会議事務局、グローバルアライアンス推進、新規事業開発、中期経営計画立案などに従事。公認会計士、事業承継士、米国公認会計士(未登録)。著書に『流動化・証券化の会計と税務』(中央経済社)、「スモールM&Aの教科書 −売買当事者が安心して取り組める実務知識−」(中央経済社)など。

著者紹介

連載令和時代に生き残る!中小企業のための新しい経営戦略

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