※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

「会社」単位では失敗を恐れて保守的な行動をしがち!?

さて、今回はスタートアップ思考の考察5回目、「組織」編について整理したいと思います。

 

[図表1]

 

<スタートアップ思考その10>

「会社ではなく、なるべく長くプロジェクトでいる」

 

【概要】
会社というかしこまった形になると、どうしてもいろいろなしがらみが出てきがちになります。失敗を恐れて保守的な行動をしがちであったり、既存事業にフォーカスすることが第一となったりしてしまいます。

 

それがプロジェクトであると、お金をかけないで、柔軟性やスピードを維持しながら、取り組むことができます。そして、一見狂ったようなアイデアを追いかけても、規模が限定的であり、失敗を恐れる必要はさほどありません。

 

【考察】
スタートアップと違い、既に会社が存在しており、事業を行なっています。しかし、そうだからといって新規事業を進めるにあたって大きな障害になるとは限りません。既存の会社は所与のものであり、コストや時間をかけて新たに作り上げたものではありません。それはそれとして、プロジェクトとして進めればいいだけのことです。

 

加えて、必ずしも多くないかも知れませんが、会社にはこれまで蓄えてきた一定の経営資源があります。それを利用しない手はありません。例えば、終業後に社内の空きスペースを利用して趣味に近いようなことをプロジェクトとして取り組むのも一案です。

価値観やビジョンが同じメンバーで構成されるメリット

<スタートアップ思考その11>

「初期の段階では多様性のあるチームは不要である」

 

【概要】
社内メンバーの価値観やビジョンが多様であることは一般的にはポジティブに受け止められますが、創業期に位置するスタートアップではそうとはいい切れません。なぜなら、このような多様性は、逆にスタートアップの価値の源泉であるスピードを犠牲にする可能性があるためです。逆に価値観やビジョンが同一のメンバーで構成されているならば、考え方の擦り合わせのための時間・労力が最小限で済むため、事業展開のスピードが担保されるといえます。

 

ちなみに、本題から少し外れますが、社内メンバーではなく、他社が自社と同じような価値観やビジョンを有しているのであれば、闇雲に競合するのではなく協働・連携することを志向することも一向です。そうすることによって事業の成長スピードを加速させて、モメンタムを高めていき、スケールを追い求めるタイミングを早めることが期待できます。

 

【考察】
この場合、老舗の後継者が事業承継の前後で新たな試みを模索する場合が分かりやすいと思われます。後継者は別に無理してまで社内の人間とプロジェクトを進める必要はありません。老舗であれば番頭(先代オーナーの右腕として長年会社に尽くしてきた人)が存在することが多くあります。

 

それはそれでとてもありがたい存在なのですが、新規事業を進める場合においては障害になるかもしれません。年齢も大きく違いますし、社会人として過ごしてきた環境(例.これまで大企業にて勤務)が違えば、価値観も違うのは当然ともいえるからです。そこで例えば、社内に制限されることなく、近隣の気の会う仲間や同級生と一緒に物事を進めていってもいいと思います。重要なのは世の中に新たな付加価値を提供することであって、社内のメンバーと必ず一緒に進めることではありません。

 

以上、今回はスタートアップ思考のうちの「組織」に絞って考察を試みて見ました。

 

その結果、全体をまとめてみると次のようなことが言えるのではないかと思います。

 

• 中小企業の場合も、プロジェクト形式は自由度が高くスピーディーに物事を進めることができるので便利。加えて、中小企業の場合は既存の経営資源を利用できるというメリットがある。

 

• 元々会社が存在している事実は、特にプロジェクトを推進する上で支障とならない。ただ、場合によっては社内メンバーが足かせになる可能性について留意しておく必要である。

 

次回はスタートアップ思考の考察シリーズの最後である、「運」について整理していきます

 

参考資料:「逆説のスタートアップ思考」(馬田隆明:中央公論新社)

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