中小企業が「AI格差時代」に生き残るための3つの判断軸とは

※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

AIによって代替される可能性が高い業務とは

「AI格差時代」の到来と、それが中小企業に与える影響について話を進めていきます。AI化という暗闇のトンネルを歩いていくうえで、どのようにして一縷の光を見出すかについて、異論を承知でチャレンジしてみたいと思います。

 

さて、このAI時代の到来といった難易度の高いゲームを、中小企業はどのようにしたらクリアできるのでしょうか? この部分は各社模索中であり、具体的な解が描けていないのが現状だと思いますが、自社の方向性を考えるうえでの判断軸を次の通り3つに分けてみました。

 

[図表]
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では、一つ一つ見ていきましょう。

 

【イノベーティブな行動様式の追求】

ビジネスモデルの抜本的な変革が可能かどうか?

 

この判断軸が含まれるのは至極当然であり、一番重要なポイントと言えます。例えば、次のような業務はAIによって代替される可能性が高いと言われています。

 

• 特別な知識やスキルが求められない業務

• ルーチンワーク

• 創造性を要さない業務

• 対人スキルを伴わない業務

 

もし、自社の事業がこういった業務と深く連動している場合の対策は、単刀直入に言えば、AI化の進展に応じて、自社のビジネスモデルを抜本的に変革するということに尽きます。

 

もう少し付け加えると、例えば、斬新な事業を立ち上げたり、人間特有の温かみや癒しなどに価値の源泉を置く事業にフォーカスするなど、AIに代替される可能性が低い別の事業を模索することを、本格的なAI時代に突入する前に行うということです。

 

しかし、理屈ではそうだとしても、大多数の中小企業にとっては非常に大変な課題です。経営者や従業員の対応能力、既存の顧客や取引先との関係などもあり、この問題をすんなりクリアできる中小企業はほんの一握りかもしれません。

より「付加価値」を提供する業務に移行する

【ポジティブ思考】

AI時代の到来に対する経営者の覚悟は十分備わっているか?

 

他の重要な経営意思決定と同様ですが、AI化に対する自社の立ち位置を決めるのも当然ながら経営者となります。ちなみに、巷の記事において「大企業でも、AI化には内部からの反発が強いことが多く、それを承知で推進するためには、経営トップが強い影響力を持っている必要がある」と発信されています。

 

そこで、中小企業の場合を考えてみると、大企業の経営陣とは異なり、所有と経営が一致しており、独善的経営が前提となっている企業が多く見受けられます。したがって、経営者の経営判断の自由度が高いことから、AI化に対して経営者がどのように向き合うかが会社の未来を決定づけるでしょう。

 

従業員のスキル・マインドにつき、自発的な変革が期待できるか?

 

従業員が神経質に「今の仕事が奪われる」とネガティブに捉えるのではなく、「今の仕事をしなくてもいい」と前向きに捉えることができるかどうかがキーとなります。見逃せないポイントは、(当然ではありますが)単に「今の仕事をしなくてもいい」ということだけでは不十分で、「今の仕事の代わりに、より付加価値を提供する業務に移行しましょう」ということです。

 

なお、従業員は、自分の居場所がなくならないように、本格的なAI時代に突入する前に、新たな時代に求められるスキルを磨くなどの備えをスタートする必要があります。しかし、残念ながら、事実として大企業と比べると中小企業は社内教育が行き届いていない場合が多いため、そのような準備を企業(経営者)に全面的に依拠するのは酷です。

 

したがって、従業員においても自発性が強く求められるものと考えるべきであって、各々独自でどれだけやれるかがAI時代に会社が生き残れるかどうかの分かれ道となります 加えて、中小企業の従業員にこのように健全な危機感を持たせ、マインドチェンジすることをうまく誘導するのは、経営者の重要な任務の一つと言えるでしょう。

大企業の優秀な従業員が市場に放出される⁉

【AI化によるメリットの享受可能性】

人手不足の解消につながるか?

 

一般論として、従業員数が多いとAIへの業務代替の余地が大きいと考えられているため、大企業であればあるほど大規模なリストラなどを行う必要性が高いと言われています。

 

一方、中小企業は従業員数が限定的で、常時慢性的な人手不足で業務が回らないという言葉をよく聞きます。それに加えて、今後少子高齢化時代が進むにつれて生産年齢人口も大幅に減少することが予測されていることから、中小企業はさらに苦境に立たされることが想定されます。

 

しかしながら、このような問題がAI化によって大きく道が開ける可能性があります。一言で言えば、AI化による人材流動化という副産物にありつける可能性があるということです。AI化の過程における大企業のリストラによって市場に放出された余剰人員を吸収できる可能性があります。

 

大企業の従業員のように一定のスクリーニングがかかった人材を確保できることは大きなチャンスかもしれません。加えて、数多くの人材が市場に溢れるため、必要なスキルや自社との相性などを時間をかけてしっかりと見極めることもできるでしょう。

 

高付加価値型経営への進化が期待できるか?

 

中小企業によっては、以下示すようにAI化を通じて収益性、労働生産性、従業員満足度などを大幅に改善することを可能にし、社会に対してより付加価値を提供できる社内体制を整えることが期待できます。

 

• 既述のとおり、AI化により人手不足の解消に向かうとともに「今の仕事をしなくてもいい」が合わさることによって、中小企業はより本業(より付加価値を提供する活動)に集中することができる可能性があります。

 

• AI化(特にRPAなど)が浸透することによって、従業員の労働生産性が上がり、コスト効率を大幅に改善させることが期待できます。

 

• 中小企業によく見受けられるようなマルチタスク型の従業員については、今流行りの働き方改革の恩恵をより受けることにつながり、士気向上に役立つ可能性があります。

 

• 経営指標の改善から若干ずれますが、AIによって老舗などで長年受け継がれてきた “匠の技”をデータ化・見える化し、次の世代への技術継承が容易になる可能性があります。

 

以上、今回は悲観的にならないようにあえて前向きな面を強調してみました。

 

確かに大企業に対していろんな意味で劣後する中小企業において、AI化の波をどのように受け止めるかということは非常に難しいことかもしれません。しかしながら、できること・できないことを整理せず、ただ単に恐怖に怯えているだけでは、神様はあなたの会社を勝利に導いてくれないのではないでしょうか。

株式会社H2オーケストレーター・CEO
一般社団法人M&Aテック協会・代表理事
公認会計士久禮義継事務所・代表
 

1994年、同志社大学経済学部在学中に公認会計士第2次試験合格。1995年、同校卒業後、中央監査法人に入所。1998年、日本興業銀行ストラクチャード・ファイナンス部へ出向。2000年、同法人金融部に配属。2001年、ドイツ証券投資銀行本部に転じる。2006年、ミシガン大学ビジネススクールを卒業後、The Bridgeford Group(ニューヨーク)にて勤務。2007年に帰国し、JPモルガン証券投資銀行本部、みずほ証券グローバル投資銀行部門、Deloitteなど数社を渡り歩く。2013年、NEC経営企画本部に転じ、2019年独立。これまで、規模・地域・業種を問わず数兆円超(企業価値)のM&Aアドバイザリー、民事再生法を活用した事業再生スキーム(国内初案件)におけるM&Aアドバイザリー、事業法人グローバルIPOにおける共同主幹事(2002年国内最大案件)、特殊法人の民営化関連アドバイザリー、退職給付信託や各種証券化スキームの開発等、投資銀行業務における重要案件を幅広く担当した経験を有する。NECでは、上級役員の参謀役として経営の中枢に携わり、中長期戦略・グローバル戦略の立案・実行部隊として、ダボス会議事務局、グローバルアライアンス推進、新規事業開発、中期経営計画立案などに従事。公認会計士、事業承継士、米国公認会計士(未登録)。著書に『流動化・証券化の会計と税務』(中央経済社)、「スモールM&Aの教科書 −売買当事者が安心して取り組める実務知識−」(中央経済社)など。

著者紹介

連載令和時代に生き残る!中小企業のための新しい経営戦略

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